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プロローグ

暗闇の洞窟に、重く湿った空気が垂れこめる。目の前には二本あるはずの角が一本欠け、興奮状態になってるミノタウロスが俺達を凝視してる。隣には淡く光る魔法を指先に宿してる同い年の女の子がいる。その姿を前に、雪城蓮ゆきしろれんは震える手を必死に抑え剣を構える。


男子高校生の自分はラノベが好きで異世界に行きたいと常々思っていたが、今になってはその考えがどんなに浅はかだったか思い知らされた。途轍もない殺気を浴びながら、この世界に来てから味わった不公平で不条理な出来事を思い出す。


―――――――――――――――――――――――――――――


金曜日、それはしんどい四日間を乗り越え瀕死状態から始まる日のこと。大勢の人が明日から訪れる天国を想い疲れた身体を無理やり動かしてるだろう。


それは雪城レンも例外ではなかった。ただし、レンの場合は学校の居心地が悪く憂鬱さが含まれているが。


レンは、上履きに履き替えるため下駄箱の扉を開け取り出すと、鋭い刃物で切りつけたのかズタズタに切り裂かれ見るも無残な姿に変わっていた。二年に上がってまだ四カ月だが既に二回壊されている。


履物にならなくなった上履きをゴミ箱に投げ入れ、靴下のまま職員室まで行きスリッパを借りたあと、寝不足でふらつく体で教室の扉を開けた。


その瞬間、騒がしかった教室は静まり返り大半の男子生徒から舌打ちや睨みが飛んでくる、女子生徒からはまたか、みたいなうんざりした顔を向けられる。傍観者ならまだいい方で、あからさまに敵意や害意を向ける者もいる。


日課なので意識しないように自席へ向かうレン。しかし、席の間を歩いてるといきなり肩を掴まれ通路を塞いでくる者がいる。


「よぉ、凡人! また、徹夜で小説でも読んでたのか?」


君の悪い笑みを浮かべ、通路を塞いぎ絡んで来たのは如月悠馬きさらぎゆうまといい、一年の終わり辺りから毎日飽きもせずレンに絡んでくる主犯格だ。コイツの周囲には天城蓮司あまぎれんじ、堂島修吾どうじましゅうご、鈴木翔真すずきしょうまの三人がおり、四人でよくレンに絡んでくる。



ニヤニヤしてる四人を無視しながら自席に着席すると同時にポケットの中に入ってたスマホが震え、確認するとグループRineに連絡が来ていた。


『蓮君おはよう! 朝から大変だね、私達に出来ることなら何でも言ってね』

『この教室の男子は見るに堪えませんね。 蓮は物まで壊されてるんですから訴えれば勝てますよ?』

『そうだぞ、一人で抱え込むなよ?困ってんならいつでも動けるから言ってくれ』

『ありがたいけど必要ないよ。 あんなんだけど如月の親は警察署長だしもみ消されるのが落ちだと思うからな』


レンはオタクだが、イジメられるほど容姿が見苦しい訳ではない。


どちらかと言えば身だしなみは気を付けてるしコミュ障でもない、自分からは行かないが話しかけられたら受け答えはしっかりしてる。では、なぜこれほどまでに男子生徒から敵意を向けられイジメられてるのか。



その答えは明白だ、現在後ろで集まり心配そうな視線を送ってくる男女の三人が原因だ。


一番最初に連絡してきたのは、学校で女神と呼ばれ男女問わず人気を誇る美少女で名前は雨宮美羽あまみやみうという、美羽とは小学校からの付き合いで所謂幼馴染という奴だ。


シュートカットで毛先が少し跳ねている明るい茶髪、常に笑みを浮かべているような人懐っこい目元は高校2年生にしては低い身長と相まって小型犬みたいだ。


天然気味だが昔から類まれなる運動神経を持っており球技に水泳それに陸上と、どの競技をやらせても少し練習すれば全国大会で優勝できるほどの運動スペックを持ってる超人だが高校に上がってから大会に出てない。



次に連絡してきたのは、絶賛クラスの男子に冷ややかな視線を向けている美里とは違ったタイプの美少女で名前は東城里奈とうじょうりなという。里奈とも家が隣ということもあって昔から仲が良い幼馴染だ。


腰まで届くストレートな黒髪を持ち、手入れの行き届いた艶やかさが印象的で知性を感じさせる眼差しはどこか近寄りがたい美しさを漂わせてる。


冷たく感じるがただの人見知りで表情が硬くなってるだけだ、仲良くなったら途端に素を見せて甘えてくる。そんな里奈だが美羽とは別のベクトルの超人で、全国模試は毎年1位を取り複数の語学をペラペラに話せる。


最後に連絡してきたのは、神が利き手で描いたとしか思えない顔を持つ美男子で名前は橘海翔たちばなかいと。昔は四人の中で一番身長が低かったが今じゃ180㎝を超え、よくモデル雑誌の表紙を飾ってるのを本屋で見かける。去年あたりからSNSで若者に絶大な人気を集めてる。


あくまで本人は金払いがいいのでモデルをやってるだけで人気とかどうでもいいらしい。


そんな海翔は学校内の女子はもちろん外で歩いていても毎回逆ナンされるぐらいモテる。今月だけで十人以上から告白されて困ってると愚痴につき合わされた。


こんな感じで幼馴染三人はそれぞれの分野で突出してる一方でレンは何をしても平均で何か飛び抜けた才能はなく学校では凡人か空気と蔑称で呼ばれてる。


才能が無いレンがあの三人の輪に入って親しげに話してることが、他の生徒は面白くなかったのか入学当初から些細なやっかみを受けることがあったが本格的ないじめが始まったのは如月悠馬が美羽に振られてからだと思う。


朝のチャイムが鳴るまで、まだ時間があるので机に伏せてようとしたところで―――


教室全体の床が光り輝きその中にはうっすらと謎の文字で記された幾何学的な図形が積み重なり魔法陣が出来上がっていく。


いきなりの現象にクラス全体が固まっていたが海翔が「早く、逃げろ!」と叫んだことで生徒が一斉にドアに向かうが不思議な力が働いてるのかドアが開かない。


レンは廊下のドアが開かなくて喚いてるクラスメイトを尻目に椅子を全力で窓に投げつける―――


「はは……マジかよ、ヒビすら入らないのか……」


ガラスのはずなのに窓からはコンクリートに叩きつけたような音が鳴り、傷一つ付いてない窓を見たのを最後に魔法陣の輝きが強まったことで視界が真っ白に塗りつぶされた。


(今時ここまで見事なテンプレ召喚あるんだな~)


1分ほどで教室を包み込んでた光が収まると先ほどまでうるさかった教室は嘘のように静まり返っており、鞄や教科書などの物だけが残り生徒の姿は消していた。


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