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006 『強さ』の形

 夏が過ぎ、秋も終わりに近づき、落ち葉の上を駆けながらアトは季節の移ろいを感じていた。


 フィーと暮らし始めて半年、日課となっているランニングで、川まで3往復できるようになって10日目を迎えていた。


 初めて3往復できた朝、アトは喜び勇んで朝食の席でフィーに報告をした。フィーは褒めてくれたものの、「10日、続けて出来たらね」と悪戯っぽい微笑みと共に告げ、今日がその約束の日だった。


 汗を流し、身を清めたアトは食堂に駆け込んだ。フィーの姿を確認すると、開口一番、


「今日も3往復出来ました! 約束の10日です!」


「落ち着きなさい、アト。まずは朝食、話は朝食を済ませてからね」


 フィーはアトの熱意を素気なくかわし、そう告げた。肩透かしを食らったような顔を浮かべ、アトは素直に席着き、朝食を摂った。朝食が終わると、


「アト、今まで読んだ本の内容と感想を教えてくれる?」


 アトは今まで読んだ「本」の内容を一つひとつ思い返していた。


『写本』を終えるまで、フィーから次の「本」を与えてもらえなかったアトは、何度も読み返して理解を深めていた。今は4冊目の『写本』を明日には終えるところだった。


「はい、最初に読んだ『ある騎士の物語』は、―――。主人公が生い立ちに負けずに騎士となって『愛する姫』のために国に剣を捧げ、戦う姿は素晴らしいと思いました。

 姫とも仲良くなって、身分の違いはあるけど幸せそうな2人の様子が、読んでいる僕には羨ましく感じられました。ただ、国が滅びる時に、姫を連れて逃げ出したことに疑問を感じました。

 国を守ることが騎士の責務だと『本』にも書いてあったのに、それを守らなかった騎士も、守らない騎士を受け入れ、一緒に逃げた姫も、何を思っていたのか、最後は2人とも幸せに過ごしたと書かれていたので、2人には正しい選択だったんだと思いました。


 次に読んだ『聖女の幸せと苦悩』は、―――。生まれた時から、『聖女』として育てられた主人公が、自分の力が及ばないことが在ることを知って、何とかしようと努力する姿は素晴らしいと思いました。でも、周りの人間は『聖女』に頼るばかりで、自分たちで出来ることまで『聖女』に頼る姿は、間違っていると思いました。ただ、主人公も『聖女』として頼られ、力を示すことで幸せを感じていたので、なんと言えません。

 死を克服したと年老いた国王が願った時に、『死は克服するものでなく、受け入れるもの』と言って主人公が断ると、彼女は牢屋に幽閉されてしまいます。『聖女』に頼ってばかりだった人たちも困り、王と一緒になって『聖女』を非難するんです。そのことに『聖女』も苦しむのですが、僕には何かが間違っていると思えました。


 3番目に読んだのは、『優しい王の物語』、これは、―――。ここの話を読んで、正しい行いとは何かを考えさせられました。主人公は、題名の通り優しい王様で、国民のために様々なことを行います。税を軽くしたり、街道を整備したりして、『善王』とか『賢王』とか呼ばれるようになります。ただ、その一方で、奴隷を酷使して国民のために働かせていました。また、仕える貴族が過ちを犯した時、必要以上に罰して、そこで手にした全てを国民のために使っていたんです。

 国民に対して『優しい王様』は、奴隷や貴族に対してはそうではありませんでした。王様として国民を庇護するのは義務だと『本』にも書いてありましたが、そのために他の人たちを虐げることは間違っていると思いました。


 今、『写本』している『軍師の功績と罪』は、―――。この『本』も難しい話だと思いました。『軍師』、軍隊を指揮する立場の人だと思いますが、将軍とも違う立場の人でした。彼の仕事は、味方の被害をいかに少なく、敵に多くの被害を与えるかを考えることでした。

 だけど、優しい彼は、自国の兵が死ぬことも、敵が死ぬことも望んではいませんでした。しかし、戦に敗れることは許されないために勝ち続け、その度に国や国民からその功績を称えられます。彼は、戦の度に栄達していく自分と、自分の策で死んでいった敵、味方の命に関して考え、大陸を平定したら『自分の仕事は終わった』と言って野に下りました。

 彼の功績で大陸には平和な時代が訪れます。でも、彼が万を超える命を直接、若しくは間接的に奪ったのも事実です。自国では英雄と言われる彼は、敵だった国の人たちからは、まるで悪鬼のように言われる。立場が変われば、1人の人間の見え方も変わってくると思いました」


 アトの言葉を静かに聞いていたフィーが尋ねた。


「よく読んでいるわね、アト。今のアトなら、アトの求める『強さ』に関しても、前よりはきちんと答えることが出来るんじゃないかしら。アト、貴方が求める『強さ』とは、どんな『強さ』なの?」


 アトは黙考して、静かに話し始めた。


「『強さ』には、色々な『強さ』があると思っています。肉体的な『強さ』や、知恵、知識も『強さ』だと思います。ただ、その前に心が強くないといけないと思います。負けないとか、挫けないとか、そう言うことじゃなくて、・・・・・・心の中に、・・・・・・旗を立てる。こう在りたいとか、こういう人間になりたい、と思い、そこへ辿り着くように、心を鍛える? いや、何か違う気がします。上手く言葉に出来ないですが、心が強くないといけないと思います」

次回 2025/8/4 更新予定

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