001 目覚め
窓から差し込む柔らかな陽光がまぶたをくすぐり、少年は目を覚ました。ゆっくりと身を起こすと、そこは見慣れない部屋だった。窓の外に広がる景色も、記憶にはない。 「ここはどこだろう」 そう考えていると、ドアが開き、ローブをまとった女性が部屋に入ってきた。
「おや、坊や、目が覚めたのね!三日も眠り続けていたんだよ。体は大丈夫?…ええ、大丈夫そうだね。それなら、すぐに食事を持ってくるからね」
そう言い残し、女性は開け放したドアから出て行った。一人残された少年は、自分の身に何が起こったのかを鮮明に思いだした。そして、何かを必死にこらえるように固く拳を握りしめ、瞳いっぱいに涙を浮かべた。
食事をトレーに乗せて戻ってきた女性は、それをベッド脇に置くと、そっと少年を抱きしめた。「泣いていいのよ」その優しい声を聞いた途端、少年は堰を切ったように声を上げて泣き出した。女性は、少年が泣き止むまで、ただ黙って、しかし力強く抱きしめ続けてくれた。
少年が落ち着いたのを見て、女性は食事を勧めながら言った。
「私はフィー、フィー・アガランス。ここで一人暮らしをしているわ。三日前の朝、川に水を散歩に行ったら、あなたが倒れているのを見つけたの。大きな怪我はなさそうだったし、息もあったから、ここに運んだのよ。何があったのか無理に聞くつもりはないけど、名前くらいは教えてほしいな。いつまでも『少年』と呼ばれたくはないでしょう?」
少年は黙々とスープを口に運び、皿が空になると、ようやく重い口を開いた。
「…アト、僕の名前はアト」
訥々と、自分の身に起こった出来事を話し始めるアト。彼が話し終えるのを待って、フィーは優しく語りかけた。
「そうか、大変な目に遭ったんだね。今のあなたに必要なのは、しっかり食べて、きちんと眠ること、つまり休養よ。ここは安全だから安心していいわ。それで、スープのおかわりはいる?」
アトがスープのおかわりを頼むと、フィーはにっこり微笑み、トレーを持って部屋を出て行った。一人になったアトの胸に、ふと寂しさが広がる。瞳に涙がにじみ、我慢できなくなり声を上げて泣き出した。
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