表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

001 目覚め

 窓から差し込む柔らかな陽光がまぶたをくすぐり、少年は目を覚ました。ゆっくりと身を起こすと、そこは見慣れない部屋だった。窓の外に広がる景色も、記憶にはない。 「ここはどこだろう」 そう考えていると、ドアが開き、ローブをまとった女性が部屋に入ってきた。


「おや、坊や、目が覚めたのね!三日も眠り続けていたんだよ。体は大丈夫?…ええ、大丈夫そうだね。それなら、すぐに食事を持ってくるからね」


 そう言い残し、女性は開け放したドアから出て行った。一人残された少年は、自分の身に何が起こったのかを鮮明に思いだした。そして、何かを必死にこらえるように固く拳を握りしめ、瞳いっぱいに涙を浮かべた。


 食事をトレーに乗せて戻ってきた女性は、それをベッド脇に置くと、そっと少年を抱きしめた。「泣いていいのよ」その優しい声を聞いた途端、少年は堰を切ったように声を上げて泣き出した。女性は、少年が泣き止むまで、ただ黙って、しかし力強く抱きしめ続けてくれた。


 少年が落ち着いたのを見て、女性は食事を勧めながら言った。


「私はフィー、フィー・アガランス。ここで一人暮らしをしているわ。三日前の朝、川に水を散歩に行ったら、あなたが倒れているのを見つけたの。大きな怪我はなさそうだったし、息もあったから、ここに運んだのよ。何があったのか無理に聞くつもりはないけど、名前くらいは教えてほしいな。いつまでも『少年』と呼ばれたくはないでしょう?」


 少年は黙々とスープを口に運び、皿が空になると、ようやく重い口を開いた。


「…アト、僕の名前はアト」


 訥々(トツトツ)と、自分の身に起こった出来事を話し始めるアト。彼が話し終えるのを待って、フィーは優しく語りかけた。


「そうか、大変な目に遭ったんだね。今のあなたに必要なのは、しっかり食べて、きちんと眠ること、つまり休養よ。ここは安全だから安心していいわ。それで、スープのおかわりはいる?」


 アトがスープのおかわりを頼むと、フィーはにっこり微笑み、トレーを持って部屋を出て行った。一人になったアトの胸に、ふと寂しさが広がる。瞳に涙がにじみ、我慢できなくなり声を上げて泣き出した。

ブクマ、評価、感想等々 よろしくお願いします。

次回 6/9 更新予定 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ