公園
あの電話は何だったんだ。
すっかり日差しが差し込み、朝だと知らせて来る。
だが、朝がどうとかそんなことはどうでもいいんだ。あの、電話はいったい何だったんだ?
「月が綺麗ですね」
確かに、月は綺麗だった。
ちょうど満月だったし、綺麗だった。だが、どうしてそれを深夜3時に? 分からない。
うん。やっぱりいくら考えても理解できない!! よし、朝食を食べに行こう。
部屋にスマホを置き、リビングに向かう。
階段を下りると、既に家族が揃っていた。
母親。父親。姉。妹。
5人家族だ。毎日賑やかで楽しい家族。ここだけが癒しなのかもしれない――
「あ、馬鹿早く座れよ」
前言撤回だ。
俺は姉が嫌いなのかもしれないな。傲慢の態度だし、いつも喧嘩口調だし。
南川椎名・高校3年生。
南雲と同じ、日向学園高校である。
長い髪が特徴的で、風貌も美人で、どこをとっても非難することはできない。やってしまえば、逆に避難される。
そう思わすほどの容姿。
まぁ、言ってしまえば椎名は完璧だ。こんな、冴えない男と違ってな。
自分を貶しながら南雲は座る。
テーブルに並べられたウインナー卵。朝食としてとても完璧なメニューだな。
毎日作ってもらうことに感謝しないといけない。
作ってもらうのは当たり前のことでない。親は親なりの苦悩があるのは知っている。だからこそ、ちゃんと感謝を伝えるべきなんだ。
まぁ、今まで一度も感謝を言ったことはないがな。
「あ、お兄ちゃん寝坊したからウインナー一本没収です」
「はぁ? それはやっちゃ駄目だろ」
「残念だね~」
そう言いながら加奈は俺の盛り付けされていた皿からウインナーを奪う。
「うわ、こんな妹が居るとか泣いた」
「はいはい、そうですか」
美味しそうにウインナーを食べた加奈は立ち上がり、支度の準備をし始める。中学生ということもあって、登校時刻も早いのだ。
はぁ、朝から気分が台無しだ。
「いただきます」
そう言いながら朝食を食べ始める。
ちなみに、ウインナーは二本しかなかった。
勝手に姉に取られていたのだ。
部屋に戻って、指定された制服に腕を通す。この時が一番の苦痛だ。
学校ははっきり言えば嫌いだ。
憂鬱でしかない。
日向学園高校。男女比が同じで人気なカップルも居たりする。
青春を謳歌できる場所であるのは確かだ。
だが、俺はできない。
いや、怖いんだ。
噂が恐い。振られた時に流れる噂が。
中学の時に感じたような気持になるのはごめんだ。居場所を失い、嫌われる。我慢できなかった。でも、家族に迷惑を掛けるのは死んでも嫌だった。だから、俺は耐えて耐えて学校生活を送った。
そして、誰も行けないであろう。日向学園の高校に入学した。
それからは、はっきり言えばトラウマもあって友達を作ることは出来なかった。まして、誰かと話すこともしなかった。
うんん。できなかった。
恐怖という文字が俺の頭の中で囁いて、心にこびりついて来る。離すこともできない。
あ、ちなみに、今俺は話すと離すをかけました。
制服を着た南雲は鏡の前に立ち、寝癖を確認する。
ベットに置いていたスマホに手を伸ばす。
(クラスのマドンナ)「今日一緒に登校しませんか?」
(クラスのマドンナ)「あの、お願いします!! どうか、お返事を下さい」
(クラスのマドンナ)「えーと、その、公園で待ってますから」
送られてきている連絡を見た南雲は直ぐに家を出た。
鞄などを持たずに。
なんで、なんでだよ。
何で俺は走っているんだ? 美穂を公園でまたしているからか? 違う、分からない。
でも、何故か走っている。
「はぁ、はぁ」
息を吐きながら南雲は走り続ける。
何故は知っているかは分からない。でも、南雲は何かを探すように求めるように走り続ける。
そうこうして、公園についた南雲は辺りを見渡す。
居た。
ブランコを漕いでいる柊美穂が居た。
無邪気に漕いでいる美穂に近寄る。俺の存在に気付いた美穂はブランコを漕ぐのを止めた。
「えーと、美穂さんですよね?」
「はい!!」
天使のような笑みを零した。
胸の中がぽかぽかと温かくなる。
どうして、そんな笑みを俺に向けるんだ。冴えない男子に向けていい笑みじゃない。
俺は駄目人間なんだよ。
「その、どうして俺に連絡を?」
「えっと、それは……内緒です!!」
春風が美穂の長い髪を揺らす。艶が掛かった髪が綺麗に揺れ、俺より少しだけ小さな体が俺に向く。
天使なんていう言葉じゃ説明が付かない。
可愛いなんていう言葉では説明はしちゃいけない。
「あのですね! 学校に行きませんか?」
「は、はい」
否定することは出来なかった。
何故か分からない、でも、目の前に居る彼女の瞳はどこか暗かったから。
でも、こんなに綺麗な人でも、俺の心はときめいてはいない。
そう心の中で囁き、南雲は透明な蓋をする。