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月夜に響く声

 俺は恋人がほしい。高校生たるもの青春を謳歌したいのは普通のことだと思う。だが、謳歌することができないとういう訳の分からない状態になっていることだってあるのだ。

 何故人は恋をするのか? と、問われたら。俺はきっとこう答えるだろう。

 

「ときめきたいから」

 

 うん。俺はこう答える。だって、ときめきたいし? 笑っていたし? 照れている顔を「可愛い」なんて言いたし?

 普通だろ。

 

 ああ、分かるぞ? そんな妄想ばっかりしているから恋人が居ないんだぞって? 止めてくれよ、そこまで俺を貶しても出るのは元気だけだぞ?

 ていうか、何してるんだよ。こんな元気そうなやってるけど、実際は寂しい。

 いくら叫んだって無意味なのは理解している。だがな、俺はどうして青春がしたい。

 高校2年生になっても恋人が出来ていないのは果たして普通なのだろうか。無論、普通ではない。

 周りに座っている生徒たちは無邪気に話し合っているけど、きっと心のよりどこがある。

 

 だから、笑い合えているだろう。

 でも、見てみろ? 俺はそんなよりどこがない。

 あるとしたら、買ったライトノベルだけだな。

 俺は窓に視線を向けた。

 

 俺――南川南雲は恋人が居ない。

 生まれて一度もモテたことだってない。好きだと言う感情を向けられたこともない。あるのは、嫌な視線だけ。

 あの日に向けられた視線が答えだ。

 ああ、俺があの日って言ってるのは「5月29日」俺が初めて告白した日だ。

 中学3年間好きだった人に告白した。

 確か、中学3年の時だったかな、あの日屋上で告白をした。

 でも、結果的に振られた。当たり前のことだと思うよ。でも、それからが普通ではなかった。

 告白した噂が広まった。居場所を失った。もちろん、ある程度噂は流れるとは思っていたし、予想もしていた。だけど、流れた噂は想像の斜め上の上を言った。

 

『南雲にセクハラされた』

 

 正直笑えたよ。でも、ああ、そういうことかとも理解できた。

 好きじゃない人からの告白は辛い事なんだなって。その視線を向けられた人はその人なりの悩みがある。

 子どもだった俺にそれを教えてくれたのは感謝している。

 だけどさ、セクハラって、なんだよそれ。

 南雲はそんなことを考えながら窓を眺め続ける。

 続々と帰って行く生徒たち。

 スマホを触っている生徒。お喋りをしている生徒。予定を話している生徒。

 みんなそれぞれの道。

 俺は鞄を持って立ち上がる。

 帰るか。




 帰宅してすぐリビングに向かう。

 そこには、いつもと同じような体制でテレビを熱心に見ている、南川加奈が居る。

 南川加奈・中学3年生。

 これまた可愛い妹だ。

 

「今日もテレビか?」

「えーとね、テレビは幸福をきたすんだよ?」

 

 なるほど、理解できぬ。

 

「あ、お兄ちゃんさ、髪乾かしてくれない?」

「どうして、俺なんだ?」

「だって、お兄ちゃんの手がいいんだも」

 

 なるほど、世界で一番可愛い答えだ。

 俺は鞄を置き、加奈の近くに置いてあるドライヤーに手を伸ばす。

 加奈はカーペットに座る。その上に座るように俺はソファーに腰を下ろす。

 

「ほらー乾かすぞー」

「うわーー。温かいよ」

 

 当たり前だ。

 

「ねぇ、お兄ちゃんって、好きな人とか居るの?」

 

 ドライヤーを当てていると加奈が2音半上がった声で訊いて来る。

 

「生憎いないな」

「えー。高校2年生になって彼女いないとか終わってるよ?」

 

 可愛くない妹だ!

 ていうか、何故俺が貶されているんだ? 不思議に感じながらも南雲は笑みを零す。

 時計の音がリビングに鳴り響く。

 

「はいはい。俺は恋をするより勉強している方が楽しんだよ」

「うわーダサい嘘だね」

「それ以上言うなら、買ってきたアイスをあげないことにしようかな」

「え! っは! それは、駄目だと思うな~。アイスもきっとお兄ちゃんじゃなくて、私に食べてほしいと思うし!!」

 

 なるほど、俺はアイスにさえ愛を持たれないのか。

 

「よし、髪乾いたぞ?」

「お! ありがと」

「じゃあ、アイス食べるか?」

 

 加奈は首を曲げ俺を見つめて来る。

 小さな瞳。

 

「うん!!」





 夜。

 どの家も電気を消し就寝する時間。そんな時南雲のスマホがけたたましい音を鳴らした。

 

 ピコン。

 ピコン。

 ピコン。

 ピコン。

 ピコン。

 

(ああああ、うるさい!)

 

 南雲は体を起こし、スマホに手を伸ばす。こんなおっそい時間に連絡してくる不届き物は誰だ。

 スマホを眺める。

 

(クラスのマドンナです)「こんにちは」

(クラスのマドンナです)「こんばんわ!!!」

(クラスのマドンナです)「えーと、おはようございます!!」

(クラスのマドンナです)「あの、お返事貰ってもよろしいでしょうか?」

(クラスのマドンナです)「ごめんさい、その迷惑ですよね?」


 連絡を見た南雲は固まってしまう。それも、そのはず。

 そもそも、クラスのマドンナって誰?

 身バレ防止なのか、アイコンも真っ暗で名前もおかしい。

 そもそも、俺の連絡先を得るのはできないはずだ。なんせ友達が居ないから。って今はそれじゃない。

 返事はするべきではない……よな?

 明らかに怖いし、ブロックが妥当だよな?

 でも、文面からは悪気がないんだよな。丁寧っていうか、優しい文面? そんな感じがする。

 ああ、もう、ブッロクして寝よう。

 ブロックしようとしたとき、また通知音が鳴る。


(クラスのマドンナです)「あの、私、柊美穂って言います」


 え?

 腕からスマホが落ちてしまう。

 え、えええええ。

 あの、あの柊美穂? え? 同じクラスで天使だとか言われているあの、あの、柊美穂?

 いやいや、ないない。

 うん、そんなはずなだろ。

 すると、今度は通知音ではなく、着信音が鳴り響く。

 

「ひい」

 

 驚きのあまり、南雲は声を出す。

 恐る恐るスマホを取る。横にスワイプし耳に当てる。


「あ、あの」

 

 確かにこの声は柊美穂だな。

 

「えーと、柊美穂さんなんだよね?」

「あ、その! はい、そうです」

 

 時刻は3時。月だけが照らしている夜。

 そんな中、美穂の声は天使その者。

 

「えーと、どうして美穂さんが俺に?」

「あの、言いたいことがあるんです!!」

「言いたいこと?」

 

 もしかして、お金を貸してとか!? いや、ひょっとして、助けてほしいとか?

 いろいろな考えが南雲を襲う。

 

「はい、言いたいことがあるんです!!」

 

 電話越しでも美穂の声はとても綺麗。

 そして、数秒程沈黙が流れる。


 

「月が……綺麗……ですね」

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