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第4話 文学部の危機

突然だが、僕は今ピンチに立たされている。


始業式から1週間。あれから春野さんにいたずらされたり、聡太郎や高宮さんと駄弁ったりと楽しく過ごしていた。


本題はそれではなく。


少し前に述べた通り、僕は文学部に所属している。


所属しているうえに、部長だ。


高校2年生に進級したばかりなのに部長の理由は、単純明快!部員が僕だけだから。


「はぁ〜」


思わずクソデカため息が漏れてしまうくらいに、僕は焦っていた。


部員が一人だけでも、部として成り立っていれば部室は与えられる。


本館と別館、校内全てを探索すれば1時間はゆうに超える巨大なうちの高校。その本館4階の端には、こじんまりと文学部室がある。


国語のおじいちゃん先生が顧問で、滅多に顔を出さないために、いや、全く顔を出さないので、ここは僕のパーソナルスペースと化していた。


高校1年の時から、校内中で集めたりなんやかんやして、大きいふかふかソファー、人をダメにするクッション、漫画や冷蔵庫、ゲーム機の類い(僕が持参して登校した場合)がある、完璧な秘密基地だ。



そんな文学部室が、廃部となり、解体されようとしている!!!


解体されようとしている!!!!!!!(大事)





…部室が解体されるのは、部室を与えられる条件をクリアしていない場合に行われる。


我が文学部に与えられた貸与条件とは


部員が二人以上いる、またはなんらかのコンクールでなんらかの賞を受賞すること。


かつではなく、または、なのだから。


部員が二人いるだけで良いので、めっちゃ簡単な条件に聞こえるだろう。


多分そうなのだろう。


しかし、この秘密基地に干渉されたく無かったし。


勧誘や、部紹介がめんどくさかったし。


すごく難しい理由で、二人目を見つけることは叶わなかった。


これまでは、僕の散文というか駄文を提出して何かの入賞や佳作をもぎとっていたから、首の皮一枚繋がっていた。


今回、何も賞を得られなかったので。全校集会でも表彰されなかったし。


ついに、おじいちゃん先生に「頑張ってもう一人見つけてきて」と言われてしまった。


「はぁ〜」


何度目かわからない大きなため息を、人をダメにするクッションにもたれ掛かりながらつく。


ぐにぐに、もぎもにむに。


「期間は明日まで…、聡太郎はテニス部、高宮さんはダンス部で忙しいと断られたなぁ…在籍だけしてくれたってよくないかー…」


入部するのに条件などないので、彼らが忙しいなんて関係ないのに!!


…ぶりぶり文句を言っていても、変わらないものは変わらない。


重い腰をあげ、部員を探しに行くことにした。


本館の2階は一年生の教室、3階は二年生、4階は三年生のものがある。


階段を使い3階までやってきた。


3組の教室前に行くと、数人の生徒が一人の生徒を囲んでいる姿が見えた。


その一人の生徒は…


「春野さん!やっぱりチア部の体験だけでも…だめですか?」


「ぜひ水泳部に!初心者でも歓迎しています!」


「週6で練習する水泳部なんかより、週5のバスケ部はどうですか?」


「ほとんど変わらないでしょうが!!」


「美術部は毎日やっていて…参加は自由で…」


わちゃわちゃと、当事者である春野さんを置いてけぼりにして、話を聞かずに喋りまくる勧誘の人たち。


春野さんは、自己紹介で部活に所属していないと発言したところ、その日から今日までずっとさまざまな部から勧誘を受けまくっている。


情報が広まるのが早すぎて、僕はビビった。



「あはは、ごめんね。何度も言うけど私は興味がないかな」


「は、春野さん!そうは言わずに体験だけでも!!」


「春野さんがきてくれたら、皆のやる気もあがるし、楽しいと思いますし!」


「後生ですからー!」


彼女は勧誘をいなし続けていたが、今回はしぶとそうである。


春野さんはつまらなさそうに周囲を見渡す。


すると、ことの顛末を見届けようとしていた僕とばっちり目があった。


彼女は嬉しそうに目を細め、囲んでいた生徒に「ごめんね、通るよ」と言ってこちらまでやってきた。


「森谷くん」


「あ、どうも春野さん。見ちゃっててごめんなさい」


「ううん、全然構わないよ。それより、私ずっと勧誘受けてるんだ」


「そうみたいだ。さすが人気者って感じで」


「うーん、興味がないって言ってるんだけどね。…そういえば、森谷くんは文学部に入ってるって言ってた」


「うん。一応部長やってて」


「ほー。部長なんだ。部員は何人いるの?」


「一人です」


「へ、一人なの?あははは、だから部長やってるんだ。…やっぱり森谷くんは面白いね」


「笑ってくれて嬉しいけども。至急もう一人部員を見つけないと、廃部になってしまうから困ってて」


「そうなんだ。うん、決めた。私が入るよ」


「へあ!?え、えええ?興味がなかったんじゃ!?」


もう一人必要だと伝えた瞬間から、ほぼノータイムで、入ってくれると返事がきた。


まままままじですか?春野さんが入ってくれるなんて夢にも思わなかったたたた。


願ったり叶ったりとはこのこと。あまりに、僕にとって都合が良すぎる。


大切な僕の秘密基地も、まあ春野さんだったら構わないなと瞬時に思ってしまったのだ。


裏切ってごめんね、秘密基地。「イイヨ!」


「うん、他の部活はね。けど文学部は森谷くんがいるから。楽しそうだなって」


「ぷしゅぅぅうー」


ふぁぁ〜!あぁ!?春野さんからの無自覚な一撃に、心臓はドキンと跳ねて、顔は急騰した。


耳とかじんじんするし、動揺していることを悟られないように揉みほぐす。


「…春野さんがきてくれるなら僕も嬉しい」


「…うん。じゃあ早速部室に案内してもらおうかな」


「もちろんもちろん。行こう」


「「「「ちょ、ちょっと待ってください!!」」」」


何気なく去ろうとした僕らだったが、大きな声で呼び止められたため慌てて振り返る。


「話はなんとなく聞いてましたけど、文学部にはいっちゃうんですか?」


「あんなに私たちが勧誘しても靡かなかったのに…」


「やっぱり体験だけでも!!」


「この際、美術のモデルになってくれるだけでもいいので…!」


彼女らは必死に言葉を述べて、不平不平と抗議してくる。


それを聞いた春野さんは一歩前に出た。


「みんな、勧誘自体は嬉しかったよ。でも私は定員2名の文学部に入ることにしたから、それらの誘いには乗れない。結果として足蹴にしてしまってごめんね」


「定員なんて決ま『森谷くん』…2名です」


訂正しようとしたけど、圧力に屈してしまった。確かに部員が増えるのは僕は嫌だけど、定員なんてなかった筈だから…。


彼女の思惑がわからないけど、不利益には働かなだそうだと感じたので、これ以上言葉を口にすることはなかった。


「そ、そんなぁ」「逃した魚が大きすぎる…」「定員とか聞いたことないけど…」「モデルはもう一度検討してくれても」


きっぱり断れた人々は悲しげにしているが、彼女は申し訳なさそうに眉を下げるだけだった。


「じゃあ、またね。行こう森谷くん」


「…うん。では皆さん失礼しますね」



こうして僕は、二人目の部員を勧誘することに成功し、部室に案内するのだった。






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