12品目 おやつを食べてたら最強になりました
「ぐぬぬぬ………」
パソコンの前で1人の男が歯を食いしばり唸る。
「何故だ!何故こうもフードファイター達の指揮が上がらない!こうやって、イベントミッションとして設けてやったのに!」
机を叩くのはF.F.Fの所長だった。
「その肝心のイベント内容が酷いからでしょうよ〜?」
「何ぃ?」
所長背後からの声を恨めしそうに感じながら振り向く。
「だってさぁ………今回のイベントまず難易度酷いよ。相手の破壊兵器ってランクってソロだとすれば550〜500帯じゃないとまともにやり合えないって。その上飛び道具の範囲攻撃がデフォなんでしょ?こんだけ雑に強いビームバンバン撃つ相手じゃ徒党を組んだ所で低ランクフードファイターじゃミッションをこなすどころじゃないよ!」
ウェーブのかかった髪を揺らしながら語る背後の声は次第に所長への嘲笑を含んでいく。
「その上報酬も兵器10体につきスキルチケットがランダムで5枚。こんなのする位なら普段通りフードファイトしてる方がよっぽどマシ!F.F.F史に残る最低最悪のゴミイベントだね!断言できる」
「うるさい!お前は黙って運営の指示通りのアイテム開発をしていればいいんだ!所長でもない分際で口を出すな!」
顔を赤くしながら所長は開発顧問の言葉を遮り怒鳴り散らす。
「あとイベント意外も改悪が凄いよね。運営に対する無視していいような意見でも一々反応しすぎ!瞬間湯沸かし器じゃらないんだからさぁ……」
「こういう危険分子を取り除かなければフードファイターとしての戦士の精神がへたってしまう!」
所長の言い分を開発顧問はしたり顔で受け止める。
「あとさぁ……プレイヤーの働きかけが強引過ぎる。学生も社会人もヒマじゃないの、『1日一回フードファイイトをしないプレイヤーはスキルチケットの購入の際手数料がかかる』とかマジイミフ〜!」
「うるさい!あやつらが悪いんだ!そもそも戦う為にフードファイターになったのでだろう?その闘争心を正義のために使おうとしているだけなんだ!どうして誰もわからないんだ!」
所長の言葉に開発顧問は失笑する。
「ふふふ………F.F.Fはさぁ、あくまでゲームなのよ?ただちょっと敷居が高くて刺激が強いってだけのゲーム。ああいうプレイヤーが戦うっていうのは戦士としての誇りとか、正義のヒーローだとかそういうんじゃなくて、単純にゲームとしての戦いとか、もっと軽い気持ちな訳。そういうの分からない?」
「分からないな!」
所長は断言する。
「そもそも殺傷能力を持つ力をいとも容易く扱えるゲームがあってたまるか!ずっと意味がわからなかった、社会において不適当に強すぎる力をゲームの道具として見るその倫理観が!」
「だからと言って対侵略宇宙人防衛システムに仕立て上げるのは、ねぇ……」
「どうやら我々はどこまでも相容れぬようだな。」
所長はそのまま部屋を退社する。
「どこいくんだよ………つたくアイツはアレでも優秀だからメンドの事も知ってるだろうしなぁ……本当にやりにくい。」
「そんなに正義のヒーローがお望みならお出ししてやるよ。最強のフードファイターを使ってね。」
彼女は一枚のチケットを眺め呟く。
「起きて!起きてください!完人さーん!」
「うっ……?ここは?この声は……………」
完人は聞き覚えのある声で目を覚ます。
「む?」
完人の目の前には空が広がっていた。
「なんだこの感触は………?」
そして自身の後ろになにやら未知の感触を覚える。
「縛られてるんですよオレ達!あっおれはピッザァーです!」
「ピッザァー?一体………ハッ!まさか!」
完人は自分が置かれている状況に気づく。
「どうやら我々は背中合わせで縛られているようだな。それも空高くそびえ立つ塔のてっぺんに。」
完人は自身が置かれている状況を的確に分析する。
「冷静過ぎんでしょ!!でもそうなんですよ……オレ達あのフォークントって奴に負けて、気を失ってオレも今気がついたらこうなってて……」
「負けた?あのおかしな言葉遣いをする輩にか………」
「そうそうビッグバンマキシマムグレイトフルなわーたーしぃ!???!!?」
向こう側の塔のてっぺんにフォークントが姿を見せる。
「貴様!」
「コレがぁ………欲ッスイイイィイィィィ!!?!???!?!?」
「オレのフィディッシュブレス!」
フォークントはピッザァーのフィディッシュブレスをぷらぷらとフォーク型の槍に引っ掛け揺らす。
「オレの部下はなーぜーか!やられちまったけどハイパービクトリースマッシュなオレはやられてないから心配ナッシングのファイティング??!?」
フォークントは高らかに笑う。
「すいません!オレがしっかりしてれば………」
「過ぎた事を悔やむな!アイツのブレスをなんとか取り返さねば……ぐっ!流石異星人!踏ん張っても千切れない!ただの縄ではないな……」
(ただの縄だったらふんばれば千切れるのかよ……)
ピッザァーが驚いていると
「いや待て。オイピッザァー、我々は縛られてどれだけの時間が経った?」
「えぇ?携帯さえあれば…………」
ピッザァーは身をよじらせる。
「あっ!携帯は見れる………あの時から丸一日縛られてますね。」
ピッザァーはポケットの隙間から携帯のホーム画面から確認する。
「丸一日………?という事は……昨日の分のおやつを食べていない!!あああああっ!!!」
完人は突如絶叫しだす。
「えっ!?ちょっ!!」
「あああああっ!!おやつ!!何か、何か甘い物を!!!」
完人は目を見開き叫び暴れると2人を拘束していた紐が引き千切れる。
「貴様死ねぇ!」
「うおおおスーパーメガトンパワードアタぎゃあああっ!!??!!?!」
完人は向こうの塔にいるフォークントに飛びかかる。
「えっ!?過ぎた事を悔やんで落ちていった………」
ピッザァーは下を見て呟く。
「やっぱ凄いわあの人間。正直フードファイターならなくてもいいかもしんないねぇ………」
「まぁすごい人なのは確かだけどってえ?」
ピッザァーは振り向くと見知らぬ女性が立っていた。
「キミ、ゴースト枠のフードファイターだったよね?」
「えぇっと……そうですけど、どなた?」
「まずはこの塔を降りよう!話はそれから!」
女性は完人の後を追うように飛び降りる。
「待ってよ!この非常識な状況……あの地獄のバイト先を思い出すんだけどぉ!でも仕方ない!」
ピッザァーは腹を括り飛び降りる。
「ふぅ……ミラクルアルティメットなクレーターをつくるパワフルエナジーストロングな攻撃……」
「オレにとってのおやつの価値を知らぬ不届者が!覚悟せい!」
完人は類を見ないほどに激昂していた。
「壁沢完人、ならそんなキミにうってつけなフィディッシュチケットを与えよう!」
開発顧問の女は落ちながらブレスとチケットを投げ渡す。
「コレは………パフェ?」
完人はパフェのチケットを受け取る。
「さぁ、そのパフェの力でやっちゃえ!」
「何者か知らんがありがたい。この力、じっくりと味合わせて貰おう!」
カントはブレスを装着しチケットを構える。
「オーダー!うっうぁああっ!!!」
チケットを差し込んだ瞬間完人は体の激痛に悶える。
(やはり裕太君と同じ展開だ…………)
「ああああ落ちても死なない?そっかオレ死んでんだったわ!」
少し遅れてピッザァーも地面に到達する。
「コレどういう状況で?そしてどなた?」
「完人君が今から最強のフードファイターになろうとしている瞬間よ。そしてワタシは菓折舞味F.F.Fの運営で開発顧問やってるイケてるお姉さんって所かな〜?ところで君は?」
「イケ………イケてる?オレの名前は生地原瑛人です。」
「うぅ……!!なかなか食べごたえがある………!だがスイーツである以上、食べなくてはならないのだぁ!!!」
その瞬間、完人の体はクリームに包まれる。
そして無駄なクリームが削ぎ落とされ強化スーツとなりさまざまなフルーツが鎧として体にトッピングされていく。
「おおっ!!凄い……けど…アレ?」
瑛人は首を傾げる。
「完人さんの体型が…………」
「すごい!あのチケットの力をそこまで引き出すだなんて!!」
舞味は変化した完人の姿を見て興奮する。
(うん?コレはどういう事なのだ!よく分からない感覚だ!)
完人の人格は内なる物となっていた。
「おやおや、スペシャルミラクルパーフェクトなあなたはだあれ?」
「わたしの名前は………パルフェクトです。」
そこに立っていたのは薄幸そうな声を名乗る華奢な女性体型のフードファイターだった。