9品目 トレビアンな境遇
「はぁ………」
ピザのフードファイターはため息を付いて備え付けベンチに腰を下ろすと携帯を見やる。
「報酬は………スキルチケット『中盛』5枚ぃ!?ほんっとに報酬が渋い!マジで頭おかしいよ………」
「その風貌……お主もフードファイターか?」
「えぇ?知ってるの……?」
ピザのフードファイターの目の前には完人が足音もなく近づいていた。
「私は壁沢完人。同じ名前は?」
「ピザのフードファイターのピッザァー。願いを叶えようとゴースト枠でフードファイターになったんだけどさぁ……もう、ホンットに嫌んなっちゃう!」
「待て?『願い』だの『ゴースト枠』だの見知らぬ単語が出てきたぞ。説明してくれないか?」
完人は隣に座り尋ねる。
「えぇ……フードファイター知っててソレ知らないとかある?願いっていうのは……まずフードファイターって、互いに戦うじゃん?そして勝った方が相手の持ってるフィディッシュチケットを貰ってランクアップして、負けた方はチケットとブレスを一旦剥奪されて、その期間中の『F.F.F』では戦えなくなるのさ。」
「なるほど………?」
完人は初見の情報にやや戸惑うも頷きながら応じる。
「そして『ランクが一番高かった最強のフードファイター』と『獲得したチケットの枚数が高い勇敢なフードファイター』と『運営から見て賞賛に値する特別なフードファイター』の3人が『当人にとって凄く旨味のある』褒美を与えるの。そして、それ以外の各ランクのフードファイターにも、一律で報酬が当たるんだけどさ、当然高い方が良い報酬が当たるワケじゃん?だからフードファイターは皆んななんだかんだで頑張ってんの。」
「ほぅ……そういう事か。」
完人は話の流れに一つの結論に達する。
「旨味のある褒美か………このような怪しげかつ心身に多大な負荷を与えるゲームに邁進する人間がいる理由に納得がいった。そして褒美が当たるというのは事実なのだろう?」
「はい……例えばあの某俳優Sとあの著名な作家F。2回前の大会でその3人の中に選ばれてたんですよ。」
「つまり褒美のおかげで名声を我が物にしたという訳か………お主の願いは?」
「生き返る事。」
完人は再び固まった。
「いやオレ生前はさ、普通の大学生だった訳なんだよ。それでさ、何気なくバイトしに入った個人店のピザ屋。アレのせいでオレは死んだんだ………」
ピッザァーは過去の日々を語る。
「『ピザ生地を作る上で必要な湧き水の採水地で滝行』とか『ピザ生地用の麦の本数を数える』とか『トマトソースの一気飲み』とかもうメチャクチャなバイト先だったんだよ!」
「いきなりどうした?さっきから一体何を口走って…………」
完人は眉間に皺を寄せる。
「オレだってこんな荒唐無稽な話言いたくないよ!でも本当にあったんだよ!そいで突然店長に『お前のような不出来な奴はピザにしてやる!』とか言われて人間が入るサイズのピザ釜に入れられて死んだ。そして死んだ先でいきなりこのブレスとチケットを渡されて…………生き返る為にフードファイターとして戦ってる。」
ピッザァーは完人の反応を見て苦笑する。
「いや、でも本当なんだよ……幽霊のフードファイターもいるんだよ!会った事無いけどオレ以外にも何人かいるってのは聞いた事あって………すんません。本当に意味わかんない話だよね?」
「いや………今日食べたおやつについての感慨に浸っていた。」
「そもそも聞いてなかった!」
ピッザァーはそのままベンチから転げ落ちた。