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7品目 トレビアンな展開

「はぁ………」

ピザのフードファイターはひとしきり叫ぶだけ叫ぶとため息を付いてとぼとぼと歩き出す。

そして備え付けベンチに腰を下ろし頭を下げ項垂れる。


 (何だ?随分とショックを受けている様だが……)

完人はフードファイターの様子を影から伺う事にした。


フードファイターはしばらくして顔を上げるといそいそ携帯を取り出し画面を確認する。

「報酬は………スキルチケット『中盛』5枚ぃ!?えぇウソでしょ!?」

画面を注視したのちピザのフードファイターはまたもや叫ぶ。


(一々うるさい奴だ…………)

完人は引き続き暴れるフードファイター遠目からじっと眺める。


 「えっ嘘でしょ、えっえっいやそんな訳………はぁ………………なんなんだよぉ。」

彼は見間違いかと画面を何度も確認したが内容に変化がないことに気づくや否やふたたび肩を落とす。

 

 「ほんっとに報酬が渋い!渋すぎる………掲示板のアレマジで頭おかしいよ………」

(動きがうるさいがまぁいい。この状況について話を聞く事としよう。)

 完人はつかつかと歩きフードファイターの元に立つ。

「その風貌……お主もフードファイターか?」

「はい?」

 突然呼びかけられフードファイターは首を傾げる。


 「えっと、どなた?フードファイターの事知ってる感じですか……?」

「あぁ。オレは壁沢完人。名前は?」

 

「え?フードファイターとしての?オレはピザのフードファイターのピッザァー。願いを叶えようとゴースト枠としてフードファイターになったんだけどさぁ……もう、ホンットに嫌んなっちゃう!」

「待て?『願い』だの『ゴースト枠』だの聴き慣れぬ単語が出てきたぞ。説明してくれないか?」

完人は隣に座り尋ねる。


「えぇ……いつの間にか懐に。」

完人の素早い動きにピッザァーは困惑する。


「あとフードファイター知っててソレ知らないとかあります?それにこの状況で聞いてくるし………願いっていうのは………」

ピッザァーは完人の素性を怪しむ。


 「確かにおかしいのかもしれない。だがオレには情報が少ないから何がおかしいのかも分からない。すまないが説明を願いたい。」

 完人は頭を下げる。

「分かりました。」

 ピッザァーは戸惑いながらも彼の質問について説明を始める。

 

「フードファイターってまず沢山いて。そしてフードファイター同士で戦いあって、『ランク』っていうまぁ順位みたいなものを競いあうんです。」

「なるほど………?」

完人は初見の情報や聴きなれない単語にも必死に喰らいつき頷きながら聞いていく。


「そして『ランクが一番高かった最強のフードファイター』と『獲得したチケットの枚数が高い勇敢なフードファイター』と『運営から見て賞賛に値する特別なフードファイター』の3人が『当人にとって凄く旨味のある』褒美を与える。そして、それ以外の各ランクのフードファイターにも、一律で報酬が当たるんだけどさ、当然高い方が良い報酬が当たるワケじゃないですか?だからフードファイターはみんななんだかんだで頑張ってるんです。」

「なるほど。それでお前は何をそんなに喚いていたのだ?」

 

「あぁその事ですか。いやぁ最初から説明すると基本的に勝ったらランクは上がる。負けたら下がる。そして、ランク150位以上になるとルールが変わって一度ランクに勝つとブレスとチケットが一旦剥奪されてしばらく戦えなくなりランクも最下層からやり直しになるんですよ。」

「ほぅ。つまりら一度負けたら終わりだと。」

「はい。それにフードファイターの戦いって意外と高ランクでも隙を突かれて一気に叩き込まれるとか割とあるんで割と駆け引きとかもあって面白かったんですよ……………………前まではね。」

 

「前までは?」

「F.F.F全体の仕様が変わって『全てのバトルで敗れたフードファイターはチケットとブレスを剥奪』される様になったんですよ。その上全然問題のない掲示板の発言で剥奪、ちょっとした不満で剥奪、ちょっとだけ戦わなかったら剥奪、その上イベントの報酬は渋いっておかしいわこんなん!」

「おい落ち着け!落ち着くんだ!」

完人は興奮のあまり立ち上がり暴れ出すピッザァーを羽交い締めにし無理矢理座らせる。

 

「そ、そういう事か。なんとなく分かった。」

完人は話の流れに一つの結論に達する。


「それにしても旨味のある褒美か………このような怪しげかつ心身に多大な負荷を与えるゲームに邁進する人間がいる理由に納得がいった。そして褒美が当たるというのは事実なのだろう?」

「はい……例えばあの某俳優Sとあの某作家F。2回前の大会でその3人の中に選ばれてたんですよ。」

「つまり褒美のおかげで名声を我が物にしたという訳か………お主の願いは?」


「生き返る事。」

完人は再び固まった。


「いやオレ生前はさ、普通の大学生だった訳なんですよ。それが、何気なくバイトしに入った個人店のピザ屋。アレのせいでオレは死んだんだ………」

ピッザァーは過去の日々を語る。


「『ピザ生地を作る上で必要な湧き水の採水地で滝行』とか『ピザ生地用の麦の本数を数える』とか『トマトソースの一気飲み』とかもうメチャクチャなバイト先だったんだよ!」

「いきなりどうした?さっきから一体何を口走って…………」

完人は眉間に皺を寄せる。


「オレだってこんな荒唐無稽な話言いたくないよ!でも本当にあったんだよ!そいで突然店長に『お前のような不出来な奴はピザにしてやる!』とか言われて人間が入るサイズのピザ釜に入れられて死んだ。そして死んだ先でいきなりこのブレスとチケットを渡されて…………生き返る為にフードファイターとして戦ってる。」

ピッザァーは完人の反応を見て苦笑する。


「いや、でも本当なんだよ……幽霊のフードファイターもいるんですよゴースト枠って言ってね?」

「あっあぁそこに繋がってくるのか………にしても随分と浮いた話だな。突然幽霊だとか。」



 「まぁ正直そう思いますよ。これも今の運営になってからの施策らしいですけど、正直意味がわかりませんから。実際会った事無いし、オレ以外にも何人かいるってのは聞いた事あるレベルで………すんません。本当にさっきから意味わかんない話ですよね?」

「いや気にするな………丁度今日食べたおやつについての感慨に浸っていたところだ。」

「そもそも聞いてなかった!」

ピッザァーはそのままベンチから転げ落ちた。


「ちょっと待ってよ……確かに聞く意味のないような話たったかもしれないけどさぁ、オレ結構気持ち込めて話したのよ?だからちょびっと位聞いててもいいんじゃんないのぉ?」

ピッザァーは肩を落とす。


「今時そのような時代錯誤なピザ屋もあるものなのだな。いや………時代とかそういう次元の話では無いのかもしれないが………」

「アレ?意外と聞いてた?」

ピッザァーは顔を上げると


「うわっ!!」

目の前に兵器が迫ってきていた。


「やっと気づいたか!ハッ!」

隣では完人が立ち上がり破壊兵器を拳骨一発で粉砕していた。


「いやちょ!何の何の何ぃ!?」

目の前の光景にピッザァーは絶叫する。

「知らぬ間に囲まれていたようだ。切り抜けるぞ!」

完人は破壊兵器がビームを打つ間も持たせる事なく素早い身のこなしで次々と攻撃を加えていく。


「生身の人間が………フードファイター並に……戦えるなんて………」

ピッザァーは破壊兵器に互角以上に渡り合う完人の姿がとても信じられず呆然と立ち尽くすしか出来なかった。


「背後から来るぞ!そっちは任せる!」

「えぇ?」

ピッザァーが振り向くと完人の言う通り破壊兵器の軍団がアームを動かし襲いかかる。


「モッツァレラバインド!」

ピッザァーは粘度の高い高音のモッツァレラチーズを発射し兵器を一斉に足止めする。


「ヘルコルニチョーネ!」

すかさずピザの耳の形の棍棒を出現させ横から一直線に殴り、兵器達を破壊した。


「くっ……!」

その頃完人は次々と出現する兵器達に徐々に劣勢を強いられる。

「不味い!トッピング!」

ピッザァーはハバネロソースの瓶を模したバズーカを肩に担ぐ。


「オーバーヒートババネート!」

そして辛みの強いハバネロソースの液を高圧で噴射し兵器を一網打尽にする。


「ハバネロソースを頭から浴びてもこのような匂いを嗅ぐ事は不可能だろう………」

完人はハバネロソースが飛び散る屋内を見渡し呟く。


「まっまぁ確かに……フードファイターは戦いの度にこうやって迷惑かけるからさ、基本人気のない所で戦うのが暗黙の了解になってるんですよ。」

「まぁそうだろうな。さて、お前からは色々と有益な情報を得ることが出来た。さっそくデリッシュ達に伝えなければ…………」

完人は携帯を取り出し文字を打ち込み始める。


「うーん………むぅ?……んんん……ぐぬぬぬ……!ぐぅ………」

完人は携帯の画面を見て唸り出す。


「えぇと、大丈夫?」

ピッザァーが画面を覗き込むと


「大丈夫………ではないのだろうな………」

ピッザァーの視線にはフリック入力ができずひたすら画面を指で叩き誤字の多い文を送ろうと奮闘する完人の右手が映る。


「もしかして、苦手?」

「まぁ………世間一般で言うところのアナログ人間という物かもしれん………」

完人は左から脂汗を垂らしながら答える。


「えぇ?見た感じ結構若いのに………」

「年は26だ。」

「そうなの!?てか今時メール?LINEは?」

ピッザァーはさらに驚き尋ねる。


「以前、裕太という知り合いにされるがまま登録したが、よく分からなくてな………」

「えぇと、見てられないから貸して!書きたい要件を読み上げてくれれば良いですから!」

ピッザァーは完人の読み上げる内容を正確に打ち込み裕太のLINEに送信した。


「これで良しと。裕太って誰?デリッシュとか言ってたけど……」

「そうか。言っていなかったな。その2人は………」

完人が2人の説明をしようとした瞬間


「おぉやぁああ!!?コイツら100体を倒してしまうなんて、なんてスーパーミラクルウルトラギガントなんだー!????!?」

見知らぬ人物がジグザグ歩きで腕を振り回しながら目の前にやって来る。


その人物は緑の上下白のスーツに星の形のサングラス、緑色のスパンコールで出来た


「デリシャスマジカルハイパーインビンシブルなオレのしもべはこれでもう残り20体になっちったぁぁぁぃいいい!!?!!???!!」

 

「誰だ貴様は!」

「ハイパースペシャルインビンシブルなワタシの名前はフォークント!そちらのスパイラルアルティメットビクトリーなコンビはなんていうのかしらぁーー???!!??!」

「「コ、コンビ?」」

完人とピッザァーの言葉が重なる。


「なんか変なのが来たよ…………」

「この鉄屑を倒したこと褒めているあたり、おそらくこれらを動かしていた人物いや………宇宙からの侵略者か。」

「宇宙からの侵略者?」

ピッザァーはいきなりの言葉に戸惑う。


「にしてもぉぉぉん?!?この匂いは何じゃろいなぁ?鼻を突き刺すスーパーロマンティックスペシャルな匂いぃ!!?お返しにこのフォークでぇ………」

フォークントはフォークのような形の槍を出現させる。

「突き刺しまっすー!!??!????」

フォークントは槍を振り回し迫ってきた。


「おおっと!!」

ピッザァーは長い槍の攻撃を体を逸らし避ける。


「ヘルコルニチョーネ!」

そしてすかさずピザの耳の形の棍棒を何本も連続で出現させ投げつけていく。


「ちゃんちゃらちゃらちゃらりらっらっら〜ん!!?!??!??」

フォークントはそれを全て槍の先端で突き刺す。


「強い……!」

「スキアリアリのアリ〜!!」

「なっ…」

フォークントの一瞬の隙を突いた槍撃によってピッザァーは倒れ変身解除する。


「おい、ピッザァーしっかりしろ!おい!」

完人は呼びかけるが返事は無かった。

(自身の事を幽霊だと自称していたが見た所普通の人間にしか見えんな……)

変身解除したピッザァーの中の人間は白い上着に黒のカーゴパンツという今時の若者という風貌だった。


 「さぁてミラクルパーフェクトローリングなおひとり様がどうなってまうんだぁぁぉ!!!!!!???!??!!?!?」

フォークントは目を見開きながら槍を振り回す。


「んぐっ!!」

「ややっ?」

完人はフォークントの回す槍を両腕で抱え込む。

「うおおお!!」

そして腕の甲を槍に当てて先端を叩き折った。


「くっ………」

完人の右腕は赤く腫れ上がり痛みに一瞬顔を歪めるが即座にフォークントを睨みつける。


「これで終わらん!!」

間髪入れず追撃を叩き込もうと足を踏み込んだ瞬間完人はその場に倒れ意識を失う。


「ふぅ……このスパイラルオーバーインモラル睡眠作用よあるスプレーが役に立ったぁ!!???!!?」

彼の手にはスプレー缶が握られていた。


「使い切りサイズとはこういう事だったのか?違うのか?フォーッフォッフォッファッッッッッッッッッッッッッッッッツ!」

フォークントが高笑いをしていると


「お前、あの破壊兵器全部パァにしたのか?」

彼の耳元に低い声で通信が入る。


「でも2人仕留めたからスモールダークドリームに問題ナシ!」

「な訳ねーだろ。アイツらフードファイターなんだろ?ブレスをとりま奪っとけ。そいで縛り上げろ。そっから色々吐かせてやれ。情報をな。」

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