61品目 誤魔化しの効かない味
「すまんすまん少し遅れた〜早速初めて行くぞー」
ベェルリは教材を叩きつけるように机に置き黒板に振り向く
ベェルリは感じ取っていた。
教室内がいつもよりざわついている事を
「はいまず今日はカルシャン暦1002年の魔法騒乱からですね……教科書は35ページ開いてくださいー」
ベェルリはわざとそれを無視し付け入る隙を作らせまいかと何かに急かされるよう授業を始めようとしていくが
「ルドウ先生すいません」
「なんですかトゥラスさん?」
ベェルリはチョークの走る右手を止め生徒の方に振り返る。
「先程教員棟の近くで地賊団と戦っていたアレはなんですか。」
ベェルリと同じ色のさらりと長い青髪を後ろできっちり止めている真面目は雰囲気の女子生徒が真っ直ぐな目でベェルリを見て質問する。
ベェルリはざっと机を全て見渡し生徒達の視線が自分の口元から何が話されるかに注目している事を確認すると
「アレは…」
生徒達の視線がより一層強まる。
「先生が独自に開発した眷属を召喚させる魔法の一つですよ。いや調整ミスっちゃってね〜先生昔から召喚魔法だけは苦手でさ……何よその目は?その、疑りの視線はなんなんだい?」
生徒達脳の目線がより鋭くなり思わず笑みが溢れる。
「……分かりました。」
トゥラスと呼ばれた女子生徒は先に座り直した。
(こりゃ誤魔化すのも時間の問題だな。)
「質問は終わったなー、じゃあ始めてきますよー。」
ベェルリは一切教師としての表情を崩す事なく再び授業に専念し始めた。
某惑星──
「お初にお目にかかります。グトンと申します。こちらはアミノさんの研究所でよろしいでしょうか?」
「グトン……あぁ、鍵は開けてあります。どうぞ入ってください。」
透き通った声によって、グトンは室内に通される。
「わぁーすっごいですねぇ……見るからにザ・研究者!って感じのいろんなモノがわんさかでねぇ……!」
グトンは所狭しと並ぶ薬品やおびただしい量の専門用語で埋め尽くされた大量の書類を抱えた部屋に声を上げる。
「フフフ……こんなチンケな物今に消えて無くなりますよ。例の物は、持ってきたんですよね?」
椅子に座る宇宙人は紳士な佇まいを崩さず清純さ溢れる声でグトンに何かを要求する。
「はい、多くの星でギャング並みに恐れられていた才牙の血液ホンモノでーす!」
グトンは才牙から採取した血液を宇宙人に差し出す。
「ありがとうございます。最恐の地球人の血液………持っているだけで武者震いしてしまいそうですね。」
隅々まで切り揃えられた黒に近い紫の髪に海の様に青い目の男は微かに微笑む。
「えーと、見た目からして、あなたも地球人?」
「ミックスです。母は地球人、父がゲンパク星人ですよ。そういうあなたこそ、地球人ですか?」
グトンの姿を見てアミノが尋ねる。
「あぁ、コレは擬態なんですよ。気に入っちゃって、この格好が最近はデフォですね。」
グトンは帽子を被り直す。
「ふぅん。では、さっさと始めてしまいましょうか。」
「ところで何をするんですか?わたくし、運ぶところまでしか支持されてなくて、そいで今日はもう暇なんで、見てていてですかね?」
「別に構いません。ここはもう直なくなるので、自己責任でお願いしますよ。」
アミノは心底興味なさげに返す。
「今から、この血液を元に才牙の細胞のクローンを作り出します。この宇宙上のあらゆる物質を食い尽くす異常な細胞をね。」
それから数十分後。
「くかー……くかー……」
グトンは集中が切れ居眠りしてしまった。
そんな中ガラスが割れるけたたましい轟音が鳴り響く。
「ふぇ!?」
グトンは目を覚まし慌てて立ち上がると
「え…………なっなっなんじゃあこりゃあ!!!」
研究所の薬品が置かれていた壁が丸ごと無くなり外から室内が丸見えになってしまっていた。
「おはようございます。実験は成功しました。無事才牙な細胞のクローンの培養が出来ましたよ。ありがとうございます。」
アミノは瓶の中で暴れる黒い生物を片手にグトンに礼をする。
蛇の様な見た目のソレは瓶の中で何かを求めるかの様に暴れ回り頭を打ちつける。
頭部は顎以外退化しており口の中には何十本もの鋭利な牙が生えていた。
「なにそれ……」
「才牙の細胞から作り出した、分かりやすく言えばミュータントでしょうか?試しにこの研究所の好きなものを食べさせてあげたら、いきなり壁ごとを薬品を持っていきましたよ。」
「納得。あの才牙さんの細胞なら納得だわ……確かに歯とか似てるぅ!」
グトンはミュータントの口内から見え隠れする歯の形や人間離れした獰猛さに強烈な既視感を感じていた。
「にしてもよく手に入れましたね。これまで彼の細胞の謎に迫ろうととして彼の胃袋に入ってしまった宇宙人は後をたたなかったというのに。」
「彼は……一回完膚なきまでに叩きのめされて今は………介護生活ですよ。」
「……………」
天才であるアミノにとってもその事実は脳の理解の許容を超えてしまった。
アミノはしばらく立ち尽くす。
「F.F.Fって地球初のゲーム知ってます。切り抜きが有名なヤツ。で、そのゲームのプレイヤーをフードファイターって言うんですけど、そいつの1人がヤったんですよ才牙を。」
グトンの言葉に嘘は無かったがアミノはグトンを睨みつける。
「いや、そういう胡散臭い人間に向ける特有の視線はもう慣れてて結構なんですけど、ガチのマジです……ハイ。」
グトンはわざとらしくにやける。
「……うーん。その事については一旦置いておいて。このミュータント、はっきりいって使い物になりません。ペットにもするにも凶暴過ぎ。家畜にしては可食部が少ない、兵器運用にしてもこの獰猛さでは使役はまず不可能。物好きな金持ちでも流石に買わないですし、野生化したらどれだけの生態系を破壊するか予想しきれない。かといって、この強化ガラスもってあと10分といった所でしょうか。」
才牙ミュータントを閉じ込めているガラスのケージには既にヒビが入り始めていた。
「じゃあなんでそんな役立たずなモン作ったんですか?あなたが欲しいから渡したんですよぉ?」
至極真っ当な疑問をグトンはぶつける。
「そうです。最初からこれを作るつもりなのは間違いないです。別にコレをそのまま使うなんて一言も言ってませんよ。ついてきてください。」
アミノにつれられてグトンは研究所の地下室に向かった。
「コレは……ちょっと、アミノさんってロリコンなんすか?」
グトンは目の前のものを見て半信半疑で問いかける。
「私の性的趣向は圧倒的年上です。それにこの宇宙人に性感情を抱くというほど私は愚かではありません。」
アミノは一切表情を変える事なく言い切る。
アミノとグトンが見ていたのは水色の液体に満たされたカプセルに浮かぶ一体の宇宙人であった。
まるで一糸纏わぬ姿で液体に保管されている透明感溢れる白い肉体。
少女と乙女の過渡期の様なまだ色濃く残る幼さにと色気が僅かに混じり始めるくらいの体付きであった。
まるで目を瞑り無表情でありながらも庇護欲を掻き立てる様な顔つき。
まるで硝子細工のような浮世離れした雰囲気を漂わせていた。
「レアル。」
「レアル?」
グトンは聞き馴染みのない固有名詞に首を傾げる。
「この種族の名前ですよ。とても温厚で警戒心が薄く、それでいてあらゆる疫病を寄せ付けない強靭な免疫を持ち、外からの影響を受けやすい。この特性から数十年前に金持ち用の性奴隷として人気が高まり、雌個体が大量に拉致され、多くの欲に塗れた宇宙人達の玩具とされ、星間を跨ぐ大問題となりました。現在ではすっかり少数民族となってしまい星間連合の保護区でひっそりと暮らしています」
アミノは淡々とレアルという種族の概要を説明をした。
「へぇ……そんな事が、何年前の話で?」
「ざっと25年ほど前ですかね。口ぶりからして、知らない世代の人間ですか?」
「あぁ〜そうですねハハハ……」
グトンは愛想笑いで誤魔化した。
(その頃はまだこの世界に来てないからな………)
「まったく反吐が出ますよ。このような種族を制欲の捌け口にする低脳さに。こんなあらゆる実験を行うのに都合の良い宇宙人もそうそういないというのに、前述の問題で生きた状態で仕入れるのにどれだけの金と時間を費やしたことか……だからケダモノの様に自分の性欲に忠実な変態は嫌いなんです。」
拳を握りしめながらアミノは言う。
(あ、あなたも別ベクトルでの変態だと思うんだが……)
「てか、それと才牙になんの関係が?」
「今言ったでしょう?レアルの特性を。つまりレアルの特性を活かせばこのミュータントも使い物になるということですよ。」
そう言いながらレアルの女性が封じ込められたカプセルに備え付けられたタッチパネルを操作する。
(ホントに恐ろしいヤツだ……心読んでみよ!)
グトンはアミノの内心を覗き込む。
(この2つの相反する性質が合わされば間違いなく世界を救える……)
「は?」
グトンは予想外の脳内の声に思わず声が漏れ出す。
「なんですか?」
「いえ、なんでも……」
グトンは胸がざわつくなか平静を取り繕う。
「……そうですか。」
アミノは作業に戻る。
(そんな……世界を救うって、えぇマッドサイエンティストなのに?世界を?救う?マッドサイエンティストなのにぃ!?世界救おうとしてんのぉ!?)
グトンの頭の中には『世界を救う』『マッドサイエンティスト』という単語が堂々巡りしていた。
「見るのです、宇宙の歴史に残る大発明の瞬間ですよ。」
アミノが言った瞬間筒状のカプセル内の水色の液体が抜けていく。
液体の中で浮いていた少女は依然目を覚ます事なくカプセルの底面で丸まる様な体制で寝ていた。
そして大きな音ともにカプセルが開く。
「実験にして実践………でも計算に間違いはない。」
アミノは少女を抱き抱え取り出す。
(うわああ!!絵面がぁ、絵面いくらなんでもアウト過ぎるぅ!コレなろうに載せれんのかよ?世界救う人間の絵面じゃねえよ!)
グトンは若い成人男性が自分より一回りも年齢の若そうな少女を全裸の状態で横に抱き抱えるという光景に手に口を抑え呆然としてしまう。
「うん?」
その頃ケージ内のミュータントは少女の方向に頭を叩きつけていた。
ケージにはいくつもヒビが入り破られるのも時間の問題であった。
「良いですよ。食べて下さい。」
ケージを開けてミュータントを放ち少女を食べさせるよう促す。
ミュータントは顎を大きく開き少女を貪り始めた。
(あーもうアウトです!!もうダメ完全にダメ!ダメだってぇ!!)
グトンは目を覆い隠してしまった。




