6品目 侵略の前菜
侵略の前菜
Food Fighter Fearless運営事務所。
そこでは複数の所員が忙しなくオフィスを駆け回っていた。
キーボードの打鍵音やコピーの駆動音が止まない一室で1人の社員が声を上げる。
「ちょっとこれ見てください!」
「どうしたんですか…………ってコレまさか!」
複数の社員がパソコンを見るなり悲鳴を上げる。
「そんな…………早く所長に報告しろ!………気は乗らないが。」
「先輩心の声出てますよ……気持ちは分かりますが。」
嫌々しながらも社員達は所長に報告を行った。
「何ぃ?我々の元に来たというのは本当か?」
所長室では部下からの報告を低い声で受ける高田堅太の姿があった。
「まぁこうなる事は予想していた。だからこそ、Food Fighter Fearlessの運営体制を変えたのだ。私が所長になってから、かねがね話してきただろう。」
「そんな……まさか本当にフードファイターを彼らに向けての対抗手段として!?我々はあくまでゲームの運営をやってるんですよ?戦いなんて、警察や自衛隊に任せれば良いしゃないですか!」
「バカ言え!」
堅太は所員を叱責する。
「この国、いや他国であろうが関係ない。そもそも宇宙人の存在が与太話として受け取られている現代社会。そんなモノが役に立つと思うか?今この星で宇宙人と最大限利のある交渉をできているのは我々なのだ。 」
完人は身振り手振りを説明を展開していく。
「それにあれだけの戦闘能力を持つシステムをただの興行に使う方が間違っている。そのような緩いやり方のせいで犯罪にフードファイターの力を使う輩が出てきてしまうのだ。」
「あぁ確か………スクィンクとか言いましたよね。アイツ。」
「そうだ……」
堅太はスクィンクの事を浮かべため息をつく。
「あのたった1人を処理するためにどれだけの力が働いたと思っている?話が逸れたがだからこそ!フードファイターの力は我々F.F.F運営が保有する対侵略宇宙人用の兵器|である形が間違いなく最善だ。」
堅太の目に迷いは無かった。
心の底からその目的を達成する事だけを考えていた。
「でも今のやり方は無理強いが過ぎます。アプリ内の掲示板でのユーザからの不平不満は明らかに増えて公式チャンネルの勢いの落ち込み過ぎてて、今公式番組の企画が通せないんですよ!」
「何かを変えると言う事にはそれ相応の代償がある。」
堅太は所員の嘆きにまともに耳を傾ける気は無かった。
「でも!肝心のスポンサーの宇宙人の方々の顔色も悪いんです!担当の所員はスポンサーと顔を合わせる度に、死にそうな顔で帰って来てるの知ってます?」
所員は日頃の鬱憤も含め今の疲弊している運営の現状を必死に吐き出していく。
「フン、所詮アイツらは資金源。割り切る事も必要だ。」
「えぇ………」
堅太のスポンサーに対する接し方に所員は絶句する。
「正義のために動いている我々と結局は利益しか見ていない奴ら。どちらが正しいかは明白である筈だが?」
堅太はそう言いながら腕を組み所員を睨みつける。
「…………………………………そうですね。ではどのように対応致しましょう。」
所員は自身の心を自分で引き裂きながら何とかその一言を搾り出す。
「分かりました。では。」
所員は粛々と部屋を退出してすぐさま拳を握りしめる。
(もう…………限界だ!)
「うーん〜イイ戦闘データが取れたよ。最初は宇宙人に渡ってどうなる事かと思ったけど、無事地球人の最高のサンプルが見つかったよぉ……」
時を同じくして1人の研究者──菓折舞味は画面に映るメンドの姿をじっと眺めていた。
「もう1人も、面白い結果になりそうだわ……………」
研究者は裕太の近くに映る1人の人物を眺めながら一枚のチケットとブレスを手にしながら呟く。
「脅しはこんなもんか。」
「いや、ミッドナイトでセンセーショナルな脅しなんじゃないのかぁ?」
「……お前のその喋り方はなんだ。」
「この地球という星の言葉遣いだぞ?使っているとウルトラパッションダイナミックな気持ちになる!」
運営事務所が騒然となる頃不穏な影が地球に差し掛かろうとしていた。
「まぁいい。わかってんだろうな?とりあえず直近で落とした…………確か惑星ショークだっけか?その時みたいな感じでとりあえずやれ。フォークント。」
通信口の男は相手の言葉を軽くあしらい指示を出す。
「あぁ!わかってるよぉ。因みにあの星は初動で一気に潰れたよなぁ……クラッシュバーンダイナマイトで終わっちまってスーパーマッスルに欲求不満だったぜ!」
フォークントと呼ばれた男はその場から駆け出した。
──
「アディショナル!」
メンドはミソフォームにチェンジする。
「ピクルスピアーダーツ!」
相手のピクルスのフードファイターは棒状の野菜を模した槍を突き刺す。
「へへ、酢漬けなんて味噌の濃い味の前じゃあ無力だぜ!」
味噌フォームの装甲には槍は一瞬で弾かれてしまう。
「黙れぇ!」
相手はなんとかメンドに有効打を与えようと奮闘するが依然メンドは仁王立ちで攻撃を受け止める。
「ミソビッグバン!」
メンドは衝撃波の拳を相手の鳩尾に叩きつける。
「なんだよ………ホントにコイツ、755位な訳?」
倒れる相手の腕からブレスが消えピクルスのフィディッシュチケットがメンドの元に飛んでいく。
「へへ、あっさり倒してやったぜ!味噌だけどな。」
勝利したメンドは意気揚々と叫ぶ。
数時間後──
「さてさて、今日もバイトも終わったし一杯ラーメンでもしばきにいくか裕太さんよぉ?」
数時間後、裕太はバイト先の麺屋烏川にいた。
「ラーメンしばくって何さ……てかバイトだから普通にまかないでもらえるから。まぁ強いて言えば墓場かな」
「墓場?」
一片の雲なき青空の中、裕太はそよ風に当たりながらペダルを漕いでいく。
「お前、両親死んでんのか?初耳だぞ。」
「そうだね、だって初めて言うし。」
裕太はやや下り坂の細い横道を進んでいく。
「オレが物心つく前に2人とも事故で死んだらしいんだ。それからオレ、母方の祖父母の家で育ってて。んで、今日は命日って事で墓参りに。じいちゃんもばあちゃんも最近は体が弱って遠出が難しくてさ。オレ1人で墓参りする事も珍しくないんだ。」
説明をしていきながら裕太は道を左に曲がり
頂枡市の郊外をさらに進む。
慣れたように裕太はハンドルを右に左に動かし目的地に向かう。
段々と建物の数がまばらになるにつれ緑色の木々が増えていき自然豊かな風景が広がっていく。
「ここ。オレの両親の墓のある墓場。」
裕太は墓場の横にある寺の脇に自転車を停め、カゴの中から花束や供物がまとまった袋を取り出す。
「………………………」
裕太は墓の前で手を合わせる。
「………これでよしと。」
裕太は荷物をまとめるると墓前の前のお供え物に手を伸ばす。
「食うのか?」
「うん。供え物って放置するのも良くないらしいからさ、毎回墓参りが終わったら食べてるんだ。」
裕太は袋の中に供物が入った弁当箱を詰め込む。
「今日6月にしたって暑いなぁ……」
裕太は墓場横の寺の軒下の日陰に座り込む。
「オレはチケットだから分かんねぇな。」
「なにそれ……」
裕太はやや呆れながら弁当箱を開ける。
「いただきます。」
裕太は箸で供え物を摘んでいく。
「アジの塩焼きと豚の生姜炒めか?」
「塩焼はお母さんが、生姜炒めはお父さんが好きだったみたい。実際どういう味なのかは、食べた事ないから分かんないんだけどね。」
「そうなのか。ラーメンに合うと思うか?」
「お前またラーメンの事……頭ラーメンかよ。」
「そうだぜ!」
メンドは自身気に言う。
「まぁホントにラーメンだし仕方ないか。いやぁ合わないことは無いとは思うけど全部乗ってたら重くない?」
裕太は苦笑いしながら小鉢程度の量の塩焼きと生姜炒めを噛み締めるように食べる。
(コイツ……普段まかないのラーメン食ってる時の倍噛んでやがる。)
メンドはこっそりと裕太の表情を伺う。
「なんだよ変わんねーじゃねーか!」
「え、いきなり何!」
メンドは残念そうな声を上げる。
そこにはいつもと変わらぬ顔で供え物を食べる裕太の姿があった。
すると裕太の携帯に着信が来る。
「あっデリッシュだ。」
メッセージの送り主はデリッシュだった。
「てかアイツ携帯持ってんのな。」
「言われてみれば。でもあの髪色でバイトとして馴染んでるし携帯も割となんとかなって………これは!」
裕太は談笑しながらメッセージの欄を開き言葉を失う。
「メンド、これって……」
「あぁ、今すぐ向かうぞ!」
その後鉢合わせた裕太とデリッシュはまた公園で話し合う事にした。
「えぇっ!!デリッシュの星を滅ぼした厄災が」
「しーーっ!」
裕太はデリッシュに指で口元を押さえられる。
「もむん………いあおろろいらあら……」
(ごめん…………いや驚いたから………)
「わたしこそごめん、いきなりだったわね……」
指を離しデリッシュは咳払いをする。
「その通り単刀直入に言えば、地球が次の標的に狙われたらしいって情報が、宇宙に散らばった僅かな同胞から来たの。」
「ヤバいんじゃねぇのかソレ?ここでうだうだやってる暇ねぇだろ?」
メンドの指摘にデリッシュは頷く。
「確かにそう。でも………」
「何かする手立てが今のオレ達には無いって事でしょ?」
「裕太………」
そう語る裕太の表情はいつになく切ない物だった。
「どうしたのその顔?」
「いやいや!なんでもないなんでもないから………」
「コイツも両親死んでんだよ。」
メンドがさらりと口にする。
「えっ!?」
「ちょ言うなよ!」
驚くデリッシュをよそに裕太はメンドのチケットをポケットの内側から抑えつける。
「死んだっつっても…………物心ついてないぐらい昔の事だから覚えてないからさ。だからあんま気にしないで。」
裕太が両親についての話を語った瞬間
「マズイ!!」
メンドが強制的に変身してデリッシュに覆い被さる。
「ナニモンだ!」
メンドは空に浮かぶ一つの光に声を荒げる。
「なんだアレ?ロボットか?」
光の正体は銀色の装甲に身を固めた人型の機械の様なモノだった。
「何だお前……こねぇならこっちから」
メンドが飛びかかろうと地面を踏み締めた瞬間
「ヤベェっ!!」
機会は即座に光線を放ちメンドはとっさにかわす。
「クソ……しゃべらねぇ癖に血の気だけは多いんだな……デリッシュ逃げろ!」
(メンド、コイツ………)
「なんだよいきなり?」
(目の前の………ロボット……まだ攻撃しようとしてる!)
機械は再度光線を放つ。
「うっ!話してる暇がねぇなら、一気に決めるか!トッピング!ショウウラァッ!!」
メンドはチャースラッシャーを装備し間も無く投げつける。
円盤は機会を切り裂き、その場で爆発が巻き起こる。
「ハァ……なんなんだよ一体。」
(フードファイターじゃなさそうだね………)
メンドと裕太が途方に暮れていると
「あれは惑星ショークを破壊した兵器よ。」
「え?」
背後からデリッシュが神妙な面持ちで語る。
「なんだよ、そりゃホントかよ……?」
デリッシュの言葉にメンドと裕太は思わず一瞬固まる。
「えぇ……わたしの星を……焦土にした、わたしの……家族を……」
デリッシュは額に青筋を立てて怒りに燃えていた。
「オイ?そりゃあよぉ、イライラすんのは分かるけどよぉ、少しは落ち着けよ……」
メンドが気を落ち着かせようとデリッシュの肩を叩こうとするが
「落ち着ける訳ないでしょ!!」
メンドの手を払いのけ叫ぶ。
デリッシュの目の声と視線には怒りと憎しみがたぎっており顔も興奮のあまり赤くなっていた。
「あっ………あぁっ…………?」
メンドはデリッシュの激昂する姿に呆然とする。
「目の前に仇がいるのよ?……落ち着いてられるもんですか!!………そうか。メンド、貴方がいたわね。そう。そもそもあの兵器を倒す為にアナタの力を求めてわたしも協力したの!だからメンド、アイツらを倒して!」
デリッシュは荒い息を吐きながらメンドの肩に触れる。
「ホラボサッとしないで!まだどこかにいるかもしれない!なんならもう街や人が既に!早く!早く!!早くしろ!!!」
デリッシュは目を見開き怒声を響かせながらメンドの体を何度も叩き
「お前は何を言ってんだ?てか急にベタベタ触んなよ!」
メンドは落ち着かせようとデリッシュの手を取ろうとした瞬間
「っ!!」
突如デリッシュが事切れたかのようにメンドの体に倒れそのまま崩れ落ちていく。
「えっ?お前どうした……」
メンドは構わず払い除けようとした時だった。
(待って。デリッシュ…………泣いてない?)
「は?…………っ!」
視線を移したメンドは目を剥く。
「うぅ……………うっ、あっああぁ………!!」
そこには弱々しい嗚咽を漏らしながら涙がとどまる事の無いデリッシュがいた。
「んだよ………突然怒ったかと思えば泣いたりしてよぉ………」
メンドはため息を吐く。
「ココじゃ目立つだろうが。ちょっと待ってろ。」
メンドはデリッシュを抱き抱えその場から飛び立つ。
数分後──
「食えよ、オレ出来る事は戦う事とコレしか無い。」
路地裏に出向いたメンドが出したラーメンは湯気共に香りをそそらせる。
(メンド良いところあるじゃん!普段はオレのこと暇があれば振り回して戦い戦い言ってるのに……)
「いや、オレはラーメンなんだぞ。ラーメン出して食わせることがオレの出来る精一杯のまぁ……アレだよ?励まし?みたいなモンだよ……」
そう語るメンドの口調は至って真面目だった。
(えぇ?メンドって意外と自己肯定感低っく…………)
裕太は内心でメンドの精神性に驚いていると
「うん?」
裕太の携帯から通知が鳴る。
「コイツって………」
(壁沢さんからだ!)
「何々……『お前達に聞きたいことがある。お前達と話し合いを終えたすぐ後に、破壊光線を撃つ未確認物体を発見し襲いかかってきたので正当防衛のつもりで実力を行使した結果破壊してしまった。これはその残骸だ。』」
完人が送った写真付きのメールにはメンドが破壊した機会兵器と瓜二つの物が写っていた。
「待てよ!あの壁沢の野郎……生身でやっちまったのか?ヤベェな………」
「いやそれもそうだし………LINE教えたのにメールで来たし……壁沢さんも狙われてたなんて、どういう事?」
そのころ完人は
「むぅ……つい昨日の話をするのに1日かかってしまった。まぁ誤字脱字なくメールが打てただけ成長と思う事としよう……」
ショッピングモールでプリンを食べながら携帯を片手にため息を付いていた。
そんな中突如
「キャーーッ!!」
「うわあああっ!!」
建物内に悲鳴が響き渡る。
「アレは………!」
完人は悲鳴の原因が自分が破壊した兵器の集団である事に気づく。
「何がどうなっているのだ……!」
完人は動揺を隠せなかった。
そんな中
「オーバーヒートババネート!」
とある攻撃により兵器は全て破壊される。
「まさか………フードファイターか?」
完人は攻撃が飛んできた先を見つめる。
そこには
「ああもう!どうなってんだよ!運営どうかしちゃってるよ!訳わかんないのをノルマ倒さないと資格剥奪ってこんな事してる場合じゃないのに!」
運営に対する文句を叫ぶピザのフードファイターがいた。