47品目 飲み込む前に…
「はぁ……はぁ……あと少しだ。」
丘を抜け街に入った裕太は足を止めずデリッシュの元へ急いでいた。
「裕太……歯ァ、食いしばっとけよ。」
「…………うん!」
メンドの忠告に裕太が強く頷いたその時だった。
「死ねぇ!」
どこからともなく火炎弾が飛んでくる。
「うわぁ!」
裕太は間一髪で火炎弾を避ける。
「なんでこんな時に………!」
裕太が上を見上げた先には建物や屋上に立つバーナードがいた。
「へへ、考える限りの最悪なタイミングじゃねえか?」
「笑ってる場合じゃないよメンド!」
裕太は思わず苦虫を噛み締めるような表情を浮かべた。
(ここでやらねば、オレのこの力は食われて終わりだ……オレに後は無い!)
バーナードはサシミモリのチケットを握りしめながら裕太を睨みつける。
「オー…」
裕太が変身しようとした直前
「させない!」
バーナードは眉を吊り上げながら火炎弾を再び放つ。
「うわっ!」
火炎弾は裕太は裕太の目の前に落下し弾け、裕太変身できずそのまま衝撃で吹き飛ばされる。
「ヤバい……」
「よそ見してる場合か!」
バーナードは幾つも火炎弾を裕太目掛けて地面に落としていく。
「避けられない……!」
あまりの数に裕太が足をすくませていると
「裕太走れぇぇっ!!」
メンドががなり声で指示する。
「うっうん!」
裕太は反射的に足を動かし始める。
「とにかく走れー!」
「逃すか!」
建物の屋上を飛び回りバーナードは火炎弾を撒き散らす。
怒りによる雑念からか、彼の火炎弾の軌道は一回毎にばらけて裕太の近くにばかり落ちていた。
「足止めるなよー!」
「うわあああ!!!」
変身する余裕のなかった裕太はただひたすら、がむしゃらに前を向いて足を止めない事だけを考えていた。
飛び交う爆風の衝撃に耐えながらなんとか足を振り上げる。
「クソ…………オーダー!」
怒りの収まらないバーナードはサシミモリに変身し屋上から飛び降りる。
「ああああ!!」
「フッ!」
裕太の前にサシミモリが着地し裕太は反射的に足を止める。
「終わりだ………!」
「ぐああっ!!」
サシミモリは裕太の首を掴み持ち上げる。
裕太は気道を圧迫されながらも必死にもがくがサシミモリの前には無力なだけであった。
「お前はオレを怒らせ過ぎた。」
サシミモリはそう言いながらじゃじょに手に力を込めていく。
「この手からで炎を消し飛ばされたいか?それともじわじわと血管やら骨やらを引きちぎられたたいか?」
「っああ!!っ、うあっ……がへっへっ……ぇぇっ!!おぅ………」
裕太の顔は紅潮しきっていた。
目は白目を剥き、口からは泡が振きだしていた。
手足はだらんと伸び完全に力が入らず、なすすべない状況だった。
「裕太!しっかりしろー!デリッシュのバーナードの事伝えるんだろうがぁ!!こんなとこで寝たんじゃねーーー!!」
「ごちゃごちゃうるさい畜生が。お前からやるか。」
サシミモリは裕太を投げ捨て裕太のポケットの中からメンドのチケットを取り出す。
そしてそれを指で摘むと破ろうとしし始めた。
「簡単に破られてたまるかよぉ…………」
メンドは必死の抵抗をする。
「堅い紙だな………燃やすか。」
サシミモリは手から炎をだしメンドのチケットにじわじわと近づける。
「クソ、燃えてたまるか………この野郎!」
「戦いの中でお前を潰すつもりだったんだがな……さっきも言ったがオレを怒らせ過ぎたな。」
絶対絶命のピンチの中
「それを返しなさい!」
突如としてサシミモリの手からメンドのチケットが消える。
「!?」
サシミモリはメンドと裕太に集中しすぎてきづいていなかった。
「大丈夫!?裕太!」
「あれは………」
サシミモリが失神する裕太に駆け寄る者が誰か一目で分かった。
青く済んだ瞳、遠目でも目立つ真紅の長い髪。
最愛の姉、デリッシュその人だったのだ。
「………!」
サシミモリは思わず言葉に詰まる。
「助かったぜ!よく分かったなココが……」
「裕太が遅いから、とにかく周囲を回ってたの。と思ってたら、フードファイターに絡まれてたなんて………でも妙ね。」
デリッシュは状況を見て不審な点に気づく。
「なんでメンドに変身してないの?」
「えぇ?それはだな………」
突如聞かれたメンドは説明に困った。
(オレが全て説明してやるのが手っ取り早ぇ!でも裕太が言わねぇと意味が無ぇ!どうすりゃいいんだよ!)
「てかそれよりも変身だ!オレをブレスに刺してくれ!」
「うっうん!分かった!」
デリッシュはフィディッシュブレスにチケットを差し込む。
裕太の体はメンドに変身し即座に起き上がった。
「大丈夫か裕太?」
メンドは真っ先にメンドに語りかけた。
(なんとか!)
裕太は奇跡的に正気を取り戻す事ができていた。
「デリッシュに礼言っとけよ?」
(え?なんで?てデリッシュいるし!?)
裕太は思わずデリッシュの顔を見て驚愕する。
「寧ろ色々手っ取り早いだろ。」
(手っ取り早いって…アレ?なんかデリッシュの顔……)
裕太にはデリッシュの顔がいつもより輝いて見えた。
(もしかして化粧?なんで?)
「分かんねぇよ!とにかく目の前のアイツを黙らせるぞ!」
メンドはサシミモリに向かって飛び出す。
(姉さん………)
彼の目に映る姉は記憶の人一倍美しかった。
そしてサシミモリは自分の手を見る。
(オレは……)
「何よそ見してんだよ!」
「ぐおぉ!!」
メンドのコガシショウユ一撃がサシミモリの頬にクリーンヒットする。
「どうした!何考えてっかしんねぇけどよ!オレを倒すんじゃ無かったのかよ!」
メンドは重みのある一撃を何度も叩き込む。
「裕太ひどい……」
一方デリッシュは先程の裕太とメンドのやり取りに口を尖らせていた。
(あんな思わせぶりな事言っといてなんで化粧してるか分からないって………どういう事?信じらんない!)
と考えている中
(待って?もしかして告白じゃない……)
デリッシュは裕太の容態を思い出す。
(フードファイターとの戦いで変身前に死にそうになる事なんてある?変身する時間くらいはあっても良いはず……)
デリッシュにとって口から泡を出した裕太の顔がずっと引っかかっていた。
(まさか相手は裕太を殺そうとした?あるとしたら侵略宇宙人……まさか!)
その瞬間デリッシュの頭に目の前のフードファイター、そして先日の体育館の爆発事故の現場に落ちていたラーメンの麺か浮かび上がる。
「もしかして、侵略宇宙人がフードファイター?」
デリッシュはメンド達の方に視線を向ける。
「黙れ!良い気になるなよ!」
理性が追いついていないサシミモリは特殊技を使わず肉弾戦ばかり行っていた。
「なんだよムキになって……体育館の時よりパンチのキレが落ちてるぜ。」
メンドはサシミモリの追撃を片手で受け止めそのまま腕全体を掴み一本背負いする。
そして地面に倒れ込んだサシミモリの腹に間髪入れず突きを加える。
「元はと言やぁテメェの勝手でデリッシュも苦しんでんだろうが!何勝手にデリッシュの顔見て苦しんでんだこの野郎!」
馬乗りでメンドはサシミモリを殴り続ける。
「うぅっ!知ったような口を……叩くな!」
サシミモリは時折デリッシュを見ながらもメンドの拳を両手で受け止める。
「あのフードファイター、私をチラチラ見てる……やっばり侵略宇宙人なんだ!」
サシミモリの正体を知らないデリッシュは自身が復讐のために侵略宇宙人に盾ついている立場だからこそ相手は視線を送るのだと推測を立てる。
「豊漁凱旋!」
近距離で放たれた魚型のエネルギー弾はメンドに全弾命中しそのまま衝撃で真上に吹き飛ばされる。
「はぁ!」
サシミモリは渾身の力で浮き上がってメンドを蹴飛ばしそのまま起き上がる。
そしてデリッシュに近寄っていく。
「あぁ………」
デリッシュは後退りしながらメンドの方を見て叫ぶ。
「メンド!コイツ侵略宇宙人なんでしょ!」
「なっ!?」
(デリッシュ……!?)
デリッシュの言葉に裕太達は虚をつかれた気分に陥る。
「だから裕太も変身もせずボロボロに………容赦なく倒しちゃって!」
「くっそぉぉ……どこまでタイミング合わねえんだよ!」
(なんで、なんでそんな所で察して………!)
メンドは思わずうつむく。
(あぁ……はぁ……)
サシミモリはその場に膝をついてしまった。
目の前の姉が健在である事と美しくなっている事に対する喜び
その姉に侵略宇宙人と貶される悲哀。
そしてボノケーノという名前と故郷を捨てたにも関わらずそんな事に一喜一憂してしまっている自分に対する甘さ。
力を得たものの先程のメンドに単純に力負けしてしまい結局勝てていない自分自身の実力。
これらの感情をいっぺんに感じ、何もかもを見失ってしまっている自分に対する自己嫌悪。
彼の心の刺身を乗せた船は完全に止まってしまった。
「なんで攻撃しないの?」
デリッシュは純粋な疑問を投げかける。
「んああああーー!!もうわっかんねぇよ!!」
メンドは事態が拗れに拗れた事に天を仰ぎ叫び声を上げる。
そんな最悪の空気の中、焦がし醤油刺身の海鮮の香りを嗅ぎつけて1人の獣が悠々と歩いてくる。
「ここにいたのかサシミモリ!」
黒いブレスをつけたバーナードだった。
「んだよ、あの殺気は………!」
メンドは前回チャーシューを食べられしまった時以上に、才牙が短期間かつ脅威的に力を増している事にたじろぐ。
「少し早過ぎたのはオレでも分かってる。でもダメだ。これだけの力を蓄えたフードファイター達が近くにいると思うと……正気ではいられなくなるのも致し方ないであろう?」
才牙は頬を赤らめやや呂律の回っていない口調で舌なめずりをし、サシミモリを視線で狙いすましていた。
「そんな………」
サシミモリが振り向くとまるで発情したかのようにとろけた視線でこちらを見る才牙がいた。
普段の張り詰めたような目とは違う恐怖に脚は完全に硬直する。
「さてと……いただきまぁす!」
才牙がサシミモリを食べようと駆け寄ったその時だった。
「ブラスドリンカー・ストロングエナジー・セット、ブラスドリンカー・エナジー発射!」
力強い掛け声と共に才牙は吹き飛ばされる。
「裕太君、校庭で何をしているんだい?」
「アンタは……ベンディング!」
メンド達の目の前に現れたのは
「ドリンクマスター・ベンディング!」
学校の守り神である自販機、ベンディングであった。
「今日はあまりにも日光も激しく気温も高い日だ。部活動も停止となっている。コレを上げるから大人しくお家て大人しくしているんだ。」
スポーツドリンクをメンドに手渡す。
「てか逃げてて気づかなかっけど、オレ達校庭にいたよのかよ!?」
メンド達は校庭のど真ん中で戦っていた事にやっと気づく。
「てかアイツを吹き飛ばしやがった……」
(守り神強すぎでは?)
裕太とメンドが驚く中、才牙は体制を整えていた。
「なんだアレはぁ?」
目の前のベンディングに才牙は首を傾げる。
「フィディッシュブレスがないという事はフードファイターでは無いだと?ふふふ……面白そうじゃないか。」
「貴様からは学園の平和を乱す悪意を感じる!皆は離れていなさい!」
「デリッシュ捕まれ!アディショナル」
メンドはシオフォームにチェンジし即座にデリッシュを抱き抱える。
「おいバーナード!死にたくねぇなら来い!」
「…………」
「あぁもう!」
メンドはサシミモリの首根っこを掴む。
「今はサンキュー!」
そのまま高速移動で校庭から離れた。
「ちょっとメンド!?状況がよく分かんないんだけど、なんでコイツまで!」
デリッシュは混乱しながらもサシミモリまで連れて行った事を問い詰める。
「オレの口からは言えねぇ……」
(デリッシュ、少し待ってて!)
裕太は真剣な口調で伝えた。
「……………裕太?」
デリッシュは裕太達の心境が何一つ理解出来なかった。




