33品目 オレの為の大盤振る舞い
8月4日──
世間は夏休みシーズンの真っ只中であった。
その間、掛達は有効打を思いつけず、完人達は時折現れる怪物化したフードファイターを優先的に対処していた。
一方、バイト終わりのメンドと裕太は
「おい、そろそろ話さねぇのかよ?こういうのは伸ばしたら伸ばしただけ辛いんだぞ。」
麺屋烏川の控え室で2人話込んでいた。
「分かってるよ……分かってるけどさぁ……」
裕太の頭の中にはバーナード──ボノケーノの姿が未だに色濃く残っていた。
「泣こうが喚こうが、デリッシュが荒むのは避けられねぇんだよ!腹くくれ!」
裕太の優柔不断な態度にメンドは苛立ちを隠せなかった。
「でも………そうだけど………」
裕太はボノケーノの訴えを、未だデリッシュに打ち明けられずにいた。
「何騒いでるの?」
「ウッ!!」
不意なデリッシュの声に裕太は飛び上がる。
「なっ、なんでもないよ……!」
「声が裏返ってるけど?」
「本当、なんでもないから……え?」
裕太はデリッシュの姿に目が点になってしまった。
「?」
裕太は店内の制服を着る前にデリッシュの今日の私服をあまり気にしていなかった。
そして不意に視線に映ったデリッシュが想像以上に肌を露出した服を着ている事にやっと気づく。
上半身は白い上着に黒のキャミソールで下は丈の短いデニムスカートで白く細い太ももが露わになっており、赤い髪色も相まってとても活発な女子というスタイルだった。
「え……えぇ?」
「なんか具合悪いの?」
デリッシュが不意に裕太に近づく。
上着から僅かに移るキャミソール上着の間の素肌とスカートの下から伸びる細いながらも肉感のある太ももに裕太は見てはいけないものを見てしまった気になる。
(そ、そんな………デリッシュにこんな感情を……!)
急速に鼓動が速くなった。
今までに沸いたことのない情感に混乱に陥る。
だがすぐに
(ダメだ………こんなデリッシュを見てると余計言えなくなった!)
おかしな理由でふと冷静さを取り戻した。
「あのさぁ、デリッシュ?どうせなら2人でどっか冷たい物でも食べに行かない?オレ奢るからさ。」
「ホント!奢ってくれるの!?ありがと〜!!」
(あっ、裕太の野郎!コレじゃ絶対言えねぇな………)
裕太の作り笑いにメンドは呆れる。
裕太とデリッシュの心底の距離は2人の知らぬ間に遠ざかり始めていたのであった。
運営事務所──
「入れ。」
「失礼します……」
才牙の一声で職員は所長室に入る。
何度も補修された扉は建て付けの悪い音を立てながらゆっくりと開かれる。
顔を強張らせながら所々に傷のある部屋を歩き職員は才牙の元へ近づくが歩幅はとても小さく数メートルの距離でさえ10数秒の間があった。
「所長………こちらをご覧下さい……」
恐怖による手の震えを抑えながら職員がタブレットを差し出す。
「コレをオレに見せてどういう意味だ?」
才牙が画面を覗き込んだ先には地球には存在しない言語が並んでいた。
「その………宇宙最大のF.F.Fのファンコミュニティなのですが、この頃そこで『近々F.F.Fはサービスを終了してしまうのではないか』という根も歯もない噂が立っておりまして、瞬く間に拡がりこちらとしても無視できない状況となりましてですね………」
「所詮オレの胃袋には勝てない連中の言葉に価値は無い。」
そう言いながら才牙はタブレットに齧り付き出す。
バリバリと音を立てて咀嚼し飲み込むと煎茶に口をつけ一息つく。
そして再びタブレットに歯形をつけ始めた。
「うぅ……………」
まるで煎餅のようにタブレットを食す異様な光景は職員の血の気を引くには十分過ぎるものであった。
「にしても勝手な奴らだ。フードファイターを強くするイベントを何度も積極的に行って、戦闘技術は大幅に上がっている。側から見る分にも面白いモノになっている癖に、自分たちが食い切れない領域に行くと勝手に畏怖し始め、忌避するようになる。」
タブレットが手元からなくなり才牙は湯呑みの中身を一気に流し込む。
「答えるとするならば、変える気はない。味変についてこれないやつに用はないって事だ。分かったら失せろ。」
「は、はい!」
職員は震えながら走り去っていった。
「おいおい、これどういうハラスメントだよ。上司が悪食のバケモノで価値観が共有できないってさ?」
グトンの声が不意に窓越しに響く。
グトンは窓の枠を指でつまみながら事務所の壁に張り付いていた。
「オレは一応まだ地球人だぞ?現在の地球は宇宙のものを食べる事を禁ずる法律はどの国にも存在しないからな、くだらないアホ宇宙人どもの決めた法律なんぞにオレの食事を邪魔される謂れはない。」
「ひゃあ、ホント怖いですなぁ、肉食獣と人間の食に対する負の面が全部出てる……んで、F.F.Fで今やってるイベントって何スか?」
「暇だからな、見せてやろう。」
才牙は窓を開けて手招きした。
「まずは無償の配布だ。」
パソコン画面を見たグトンは目を見開く。
「えぇ!?こんなにスキルチケットが!?」
「あぁ、F.F.Fアプリを1日1回ログインした者には全種類のスキルチケット×100枚授けるサービスを30日間行っている。今日で10日目だな。」
才牙が一つ目に実施したのはログインボーナスによるスキルチケットの無料配布だった。
「こんなに貰ったら逆に持て余しますよぉ〜」
「次の施策はコレだ。」
才牙は部屋の左側を指差す
「え?何コレ?ルーレット?」
そこには『麺類』『和食』『お菓子』『5文字以上の食べ物』『白い食べ物』など食べ物を細かく区分けしたルーレットが設けられていた。
「あぁ、フードファイターを食べ物のジャンルで区分けし、オレがダーツで当てた的に当てはまるフードファイターはその日勝った時のランクの上がり幅が倍位になるという物だ。今の所コレは中止する気はない。」
「えっ!?中止しないの!?じゃあランキング表ってもしかして………」
「この通りだ。」
才牙はパソコンを操作しフードファイターのランキング表を表示する。
「上位も下位も毎日名前が違う………」
グトンの言う通り日を跨ぐ事にランキングがごっそりと入れ替わっていた。
「コイツなんか、1日で100位も順位が上がってるぞ。逆にコイツは200順位が下がった。」
さすがの才牙もフードファイター達のランキングの変わり具合に笑みを浮かべていた。
「あとこのフードファイター、ずっと同じ位置にいる、すごい強いんだなぁ………なんか、凄いなぁ。でもコレだけでここまで変わりますかねぇ?」
「それだけじゃない、3つ目の施策だ。」
そう言いながら緑色の液体の入った瓶を差し出す。
「コレをチケットにかけることで人間なしでフードファイターを生み出せる事は分かっているな。」
「ですね。」
「ただこのフードファイターは人間が無い分、戦闘力しか無い。いわば暴れる事しかできない、外に放り出したり手当たり次第に人を襲う………」
「え?団体口調って事は………」
グトンは何かを察する。
「3つ目の施策は外に放ったコイツを倒したフードファイターをランク一つ上げると言う物だ。」
「あぁーーー!!だからこんな上がり幅に。」
グトンは手を打った。
「いやでもこんなに上がってる事はメチャクチャ放しってる事!?」
「まぁ、1日100体は最低でもでてるんじゃないか?」
「エッグいわぁこの人ぉ………」
グトンは後退りする。
「まぁ、倒しきれなかったらオレの食事になるだけだ。別にこんな雑魚、取るに足らん。」
「イヤージブンデセキニントッテテエライナーエライエライ」
グトンは棒読みで褒め称える。
「だが足りない。フードファイターにはもっと強くなって貰う。オレがヨダレを滴りたくなるくらいにはな…………」
才牙は鋭い歯をみせながら笑うと突如
「なんだ騒々しい。」
所長室のドアが豪快に開けられる。
「バーナードくんじゃ〜ん?怪我大丈夫なの?」
立っていたのは身体中に治療の跡が残るバーナードだった。
彼は情念のこもった目で才牙をまっすぐ見つめる。
「オレも…その………フードファイターってのになれるのか?」
「お前、フードファイターになりたいのか?」
バーナードの言葉に才牙は僅かに腰を浮かせるのであった。




