3品目 Food Fighter Fearless
「舞味、これはどういう事だ?」
一つの建物の一室に険悪な雰囲気が立ち込めていた。
「このメンドとかいうフードファイター、F.F.Fへの正式登録がされていないようだが?」
タブレット片手に低い声で語る男の机には「Food Fighter Fearless運営所長 高田堅太」という彼の肩書きを示す名刺が置いてあった。
「えぇ〜?知らないな〜?」
メンドの映るディスプレイを一瞥すると
舞味と呼ばれた女性は面倒な態度を隠す事なくあしらう。
「くっ……!フードファイターの変身者情報管理担当にも聞いたが明確な答えは出なかった。だから設備開発を担当しているお前に聞いているんだ。」
奥歯を噛み締め怒りを抑えながら堅太は続ける。
「昨日から突如現れた詳細不明のフードファイターについてお前が知っている事はあるか?」
「あーあー忙しい忙しいー!こっちは新しいフィディッシュチケットの開発で忙しいなー!あと、わたしの名前はお前じゃなくて菓折舞味って名前があるんですけど〜?」
設備開発担当の女性──菓折舞味は口を尖らせる。
「真面目に答えろ!」
堅太は机を叩く。
頭には血管が浮かび顔も紅潮していた。
「お前が真面目に答える気が無いのは分かった。ならば運営所長の判断でこのメンドというフードファイターの資格を直々に剥奪させる。いいな!」
「え……それは…!」
堅太の言葉にずっと軽く答えていた舞味が席を立ちあがる。
その瞬間堅太の携帯に着信が来る。
「なんだ一体………分かった。向かう。」
堅太はそのまま部屋を出て行った。
「あっぶねぇ……そっか、メンド正式登録できてないんだ。そりゃそうか……」
舞味は胸を撫で下ろすとパソコンを打ち始める。
(あいつにはホンットーにバレないようにしなくちゃ!)
机にあるチョコを一粒つまみ舞味は机に複数置かれているディスプレイの一つを一瞥する。
そこにはとあるフードファイターの開発中データと壁沢完人の顔写真が載っていた。
「ふぅ……今日食したマンゴープリンも実に美味だった。」
壁沢完人は今日のおやつの余韻に浸りながら散歩をしていた。
「そろそろ書くか。後にするとがうるさいからな………」
手頃なベンチを見つけ腰掛けると完人は手帳とペンを取り出す。
「立ち寄った店は『カフェテリアNAGARE』、今日食したのはマンゴープリン……」
完人はおやつの詳細を事細かに書き記していく。
「こんなものか………さてと」
完人は手記を携帯で撮影した写真を出版社宛のメールに送付した。
そして散歩の続きをしようとベンチを立ち上がった瞬間
「クッ!」
完人は何かの気配を察知し即座に構えをとる。
「うっうぅ………」
次の瞬間には完人の目の前には煙が立ち込め何らかの呻き声がなる。
「なんでだよ………オレは……ただ上手く立ち回ってただけなのにぃ………別にルール違反はしてねぇだろ!?わざわざ高ランク帯の奴ばかり狙って死ねって言うのかよ!?」
呻き声はやがて何かへの不満を訴える声に変化した。
「一旦離れるか……」
完人は胸騒ぎを感じ場から離れて様子を伺うことにする。
「おい!なんとか言えよクソ運営!分かってるかどうか知らないから言うが、運営がアンタに変わってからプレイヤーはみんな不満タラタラうぐっ!!」
不満を訴える声は突如途絶える。
(訳がわからぬ………なんの話だ?)
完人は状況を探ろうとするが意味がわからなかった。
「クッソォ………セサミリキッド!」
「詳細不明のプレイヤーとの接触、運営への誹謗中傷運営に対する直接攻撃とは………お前のフードファイターとしての資格を永久に剥奪する。」
「ギャアアアアッ!!!」
荘厳さを思わせる声の後に周囲に直視できないほどの光と衝撃波が発生する。
麺屋烏川──
「ありがとうございましたー!」
裕太は会計を済ませ客を礼を言う。
「やっぱオレ様のアドバイスのおかげで繁盛してんな。」
「シッ!いま営業中だからあんま声出すなよ。てか昨日店戻るの大変だったんだからな!」
裕太はチケット状態のメンドに小声で注意する。
「なんか店帰ったらデリッシュが店の服着て掃除してて店長が今まで無いくらいハッスルしてたからそんな怒られなかったけどさ………」
「でも自転車紛失で家で怒られてたよな?」
「それは余計なお世話だよ!」
「裕太何やってるの?」
言い合う裕太とメンドを見かねたデリッシュが声をかける。
「もう私達は帰る時間だけど?支度しないの?」
「えぇ?あぁそっか………」
(バイト1日目にしてなんかすっげぇ馴染んでんだけど?)
2人は帰り支度を済ませ店を後にする。
「やはりあなたは何もかもが異例づくめね。変身すると人格が乗っ取られ、その上人格もチケットを通じて会話できるだなんて。この星に来て間もないけど、普通ではない事は分かるわ。」
横並びに歩きながらデリッシュは裕太の身に起きる出来事を考える。
「てか、デリッシュの姿って一般人には見えない筈なんじゃないの?なんか普通にバイトしてるけど……」
「言ってなかったかしら?ステルス機能を使ってたの。でもあなたはそれが効かなくて、ステルス機能の故障かと思って一旦切ってたら、そのまま店まで来てしまって………」
「そうなんだ………」
デリッシュの説明に裕太は一応は納得する。
「んで話は変わるけどさ?そもそもフードファイターって何?メンドに聞いたけど、全然分からなくて。」
「オレはメンドだ。フードファイターなんて長い名前じゃねぇ。」
「そうねぇ……説明するからついて来て。」
2人は公園の砂場の前に立つ。
「まずフードファイターって言うのはね……」
デリッシュは近くに落ちていた木の棒で砂で図を書き始める。
「食べ物の力を秘めた『フィディッシュチケット』とその力を開放する腕輪『フィディッシュ』使って変身する戦士の事。フードファイターは1人1人、チケットに秘められた食べ物から連想された能力を活かして戦うことが出来るの。」
そしてデリッシュは大雑把に醤油ラーメン、イカ墨パスタ、レタスサラダの絵を描いていく。
「あなたが変身するメンド。あの荒くれ者が変身していたスクィンク。メンドを倒したリーフス。種類は多岐にわたるわ。とにかく、料理の数だけフードファイターがいると考えたほうが良いわね。」
「あっそうだ!あのサラダ野郎!リベンジ出来てねぇよ!!」
メンドはポケットの内側から裕太のズボンを引っ張る。
「いやもう明日でいいよ!明日土曜だからゆっくり探そう!」
「戦いに明日も今日も昨日も無い!ラーメンだってすぐ食わねぇと麺伸びるだろうが!」
「いや何その例え!」
裕太はメンドのチケットを無理矢理押し込める。
「今はデリッシュの話を聞こうよ。そういやデリッシュってメンドのチケットとブレス最初から持ってたけど、フードファイターとして戦ってたの?」
「いや。………そうじゃないの。」
デリッシュは首を横に振る。
「今も覚えてる……同胞が皆やられて、この星に来たばかりで今みたいな夕日の時………」
デリッシュは赤く沈む日を眺めて回想する。
彼女の脳裏には不安気に夕日を見つめる自分自身が浮かび上がる。
「あの時はこの赤い夕焼けの空が凄く不安に見えたのを覚えてるわ。」
「そしてしばらく歩いてると倒れてる人を見つけたの。」
『うっうぅ……』
『だ、大丈夫ですか!』
デリッシュは倒れる人物に駆け寄りすぐさま介抱した。
「助けずにはいられなかった。たとえ自分がいかなる境遇であろうとね。」
「デリッシュ………」
裕太は自身の全てがなくなってしまったにも関わらず他人の為に情けをかけられるデリッシュの心根の強さに人知れず感服する。
「その時にブレスとチケットをその人物から譲り受けたの。それから使い方やフードファイターの事も教えてもらったの。」
裕太が話を聞いていると裕太のスマホに着信が来る。
「ちょっと待って、」
(コイツ!またオレを置き去りに……!)
「何この宛先………『Food fighter Fearless』?」
「ちょっと見せてみて!」
デリッシュが突然裕太の携帯の画面を見始める。
「調査の結果、麺矢裕太様がフィディッシュブレスとフィディッシュチケットを所持している事を確認いたしました。ブレスとチケットの譲渡等については下記のリンクから手続きをお願い致します………コレか。」
裕太はリンクをクリックする。
「えっと………なんか譲渡とか出てきたけど?」
「実はわたしもそのブレスとチケットは譲ってもらった物なの。それで詳しい事は分からないと伝えようとした矢先にこのメッセージが………」
「そう言う事?まぁ良いや……」
裕太はリンク先のページの必須項目を打ち込んでいく。
「規約に同意、アカウント連携ってこれ………まるでゲームのデータ引き継ぎみたいだな。」
裕太は一通りの項目を入力し終え送信する。
「なになに……手続きを完了しました。フィディッシュブレスに端末をかざして下さい。」
裕太は言われた通り携帯をブレスにかざす。
すると携帯の画面が一瞬白く光り輝きだし、次の瞬間には『F.F.F』の文字が映し出される。
「やっと終わったかよ……」
メンドは呆れた声で呟く。
「いやちょっと待って!この画面から色々探せるかもしれない……あぁ『マッチング』とか?」
裕太を画面をタップすると自身と同ランクのフードファイターが映し出される。
「多分……この中から探せる筈……リーフスリーフス………あれ?無い。」
「まさかサラダ野郎、誰かに倒されちまったのかよ!?」
その後裕太とデリッシュはリーフスの名前を探すが見つかる事は無かった。