27品目 食い荒らしの常連
「あぁ、そうだ。」
才牙はそう言いながら歯を見せて笑う。
彼の鋭利な犬歯の光にグトンは思わず背筋が伸びる。
「この6年間宇宙を彷徨って気づいたんだ。全てを喰らい尽くせる者こそが頂点に相応しいとな。」
(ぜ、全部食うって……食物連鎖ってそういう事じゃなくね?)
グトンは彼の言葉にいささか疑問を感じる。
「ハッ!」
グトンをよそに才牙は右手を天に掲げる。
その瞬間彼の手にごぼうの形の槍が出現する。
「やはり食ったフードファイターの力を得られるのか。」
才牙が念じるとごぼうの槍は消えた。
一通りの変化を観察し終えた才牙は真上から降り注ぐ日光と青い空にやや視線を向ける。
「そろそろ食事に丁度良い頃合いか…グトン………今日のところは帰っていいぞ。」
才牙はグトンにそう告げながら屋上を飛び降り部屋に戻る。
そして所長室の戸棚を片っ端から開け始め、フィディッシュチケットをかき集める。
「6年ぶりの地球の料理だ……何からいただこうか。」
机に所狭しと並ぶチケットに液を垂らしながら目に才牙は舌舐めずりをする。
時を同じくして。
「ここどこ?」
舞味は手を抑えながら周囲を見渡していた。
2人は灼熱のアスファルトに投げ出されていた。
「一応ここは頂枡市だ。はぁ〜調味料ナシ生活の始まりだぁ………」
横で掛が心苦しそうな声色で呟く。
彼のは殴られた影響で大きく腫れ顔の下半分が地で埋め尽くされる痛々しい状態であった。
「何呑気な事言ってんの………掛!」
「うお!?」
舞味は掛の顔を掴み自分の視線の正面に向ける。
「少しでも気を紛らわせようって事何だろうけど幾らなんでもヘタ過ぎ。そんな顔で……」
舞味は掛の血に濡れた顔を正面から見つめる。
「………こんなんヘッチャラだい!そんな事よりお前は手を気にしろ!」
やや間をおいて掛は変わらず軽妙な口振りを崩さず舞味の手に視線を向ける。
「開発担当なんだから手は命だろ?手当するから貸してちょんまげ。」
「わ、わかった……」
舞味は彼の勢いに押され素直に手を預ける。
どこからともなく取り出した包帯や消毒液で掛は処置を行う。
「掛…………」
舞味は自分の手に触れる彼の手捌きが恐ろしく繊細かつ手早いものである事に静かに驚いていた。
舞味は続いて掛の顔をもう一度眺める。
そこには奇妙な調味料の組み合わせを毎日行い呑気で頓狂な言動ばかりするF.F.Fのトップの姿は微塵も感じられなかった。
「これでよしと。アイツの口おそらく数多の宇宙生物を食べてる。この特殊な消毒液でも何とかなるかどうか………すまない、舞味。オレが情けないばかりに。」
「そんな事ないから!」
舞味は励ましの言葉をかける。
「あのさぁ、掛?」
「…………なんだ?」
「アイツが言ってたフードファイターが戦争の道具って本当なの?」
掛は目を細める。
そこからしばしの沈黙の中、決心したように顔を上げる。
「実は、分からないんだ。」
「分からない?どういう事!?父さんは、フードファイターはゲームの為の物だって」
「一旦落ち着いてくれ!」
掛は取り乱す舞味を諭すように優しく声をかける。
「オレも最初そういう風に伝えられたんだ。でも後から『そういう事にしといてくれ』って強い語気で言われて……おそらく博士は何か真の目的があったんだ。それが何は今となっては闇の中だけど。」
「え……じゃあ父さんは私にウソを?」
舞味は信じがたい事実に動揺を抑えられなかった。
「ひとまずオレ達はF.F.Fを守る。それが最優先だ。」
掛は立ち上がり舞味に手を差し出す。
「………私は信じてたのに。フードファイターは食べ物の力で戦うゲームだって信じてたのに……父さん?何がしたいの?どういう事なの?」
舞味は混乱するあまり掛に気づかず虚な目で1人震えた声で呟く。
「なら信じればいい!」
掛は声を張り上げ上を見て宣言する。
「そう……心の底から、信じきれるように自分はもちろんのこと、フードファイターも見てる人達も関係者各位も、信じきれるような!そんなF.F.Fをまた1からやり直して、信じぬけばい!!」
舞味が顔を上げると逆光で影になる掛の背中が写る。
舞味は彼の背中をじっくりと見たのは初めてだった。
普段運動を全くせず、奇妙な調味料の組み合わせばかりを食べる彼の体は意外にも肩幅が広くしゃんと背筋も伸びていた。
シャツから露出する二の腕も細いながらも引き締まっており舞味は素直に逞しさを感じる。
「う、うぅ……」
すると突然掛が呻き声をあげ出す。
「え?何?」
「カッコつけようとわざと逆光になるように立ったら目がああああああ!!!!コレがホントの目玉焼きなんつって?目がああああああ!!!!ああああ!!!」
たちまち掛はその場に手で目を押さえながら倒れ、喚きながら足をばたつかせ始める。
「……バカ。」
舞味の声は震えたままであったが心には温もりが戻っていた。
「…………ハッ!ココは!?」
裕太は猛暑による地熱と湿気混じりの大気の息苦しさから目を覚ます。
裕太は身体中に滴る汗にかまいもせず周囲を確認しようと視線を目まぐるしく動かす。
「やっと起きた?裕太君。」
その声が聞こえたのと焼也の顔を裕太が認識するのはほぼ同時だった。
「焼也君!一体何がどうなって!?」
「ずっとあの小屋の物陰に隠れて戦いを見てたんだ。そして、メンドが吹っ飛ばされて変身解除したタイミングであの2人組が別の男に連れて行かれてどっか行ってたんだ。」
「変身解除したタイミングで?」
裕太は彼の話から疑念を抱く。
「そう。オレはあの時終わったと思ったよ。なのに帰って行ったからさぁ………オレは何とか君を運び出してここまで避難してきたんだ。ホントキツかった……暑いし……」
そう言いながら焼也は腕で額の汗を拭う。
「ごめん。助けるつもりが助けさせてちゃって。」
裕太は焼也に頭を下げる。
「いやいや、キミが来てなかったら間違いなく死んでた。しばらく見ないうちにすごく強くなってる様に感じたしさ。」
「そりゃあ当然だぜ!でもこんなもんじゃ終わんねぇぞ。フードファイターだろうが宇宙人だろうがオレがまとめてガラにしてやんよ!」
チケット状態のメンドが意気揚々に応える。
「宇宙人?」
焼也はメンドの言葉に引っかかりを覚える。
「えと……えと……メンド何いってんの!ああ、その………家まで送るからその時説明するよ。」
裕太は携帯を開き地図アプリを表示させ現在の場所を確認する。
そして地図の場所を把握して歩いて行った。
「じゃあ、また何かあったら呼んで。」
「ありがと、命の恩人。」
焼也は淡々と告げながら裕太に礼をする。
裕太は思わず目を見開いたが特に何も口に出さず背を向け歩き始めた。




