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第5話 食事処

 ちょうど探索が終わりを迎える時間帯なのか、中央街道は各々の装備を身に着けた冒険者たちでごった返していた。


 大門がちょうど真西にあるようで、夕日が大門からのぞくようにひょこっと顔を出していた。


「なんか……いいな」


 街道に沿って一直線に伸びるその幻想的な光が、彼らの頑張りを祝福するように照らしているとも思えた。


 俺は王城に背を向けた。

 そして、多種多様なギルドが並ぶ通りとは反対側の、露店などが立ち並ぶ街道──"露店通り"を下り始めた。


「それにしても、こんなに和気あいあいとしてるのに、魔族の動きが怪しいとは思えないな」


 王国の情報統制の素晴らしさを伺える。

 ここまで綺麗に隠されてると、少し恐怖も感じるが。


 そして、数分も歩けば、大門の大きさがひしひしと伝わってくるくらいのところまでには近づいてきた。

 そのまま王都を出ることはなく、左手にあるこじんまりとした食事処──イーストに入る。


 俺が王都で1番訪れる場所だ。

 味はもちろんのこと、それなりのボリュームの料理、店員の人当たりのよさ。

 そしてなにより、安い。


 カランカラン。


「いらっしゃせー、おっルイさんじゃないっすか! お久しぶりっすね!」

「前来てから、もう二ヶ月経つっけか? 久しいな」


 絶妙な時間帯のせいか、客まだいなかった。

 そのため、彼女はそのへんの椅子に座って、暇そうにしながら足をぶらぶら揺らしながら俺に声をかけてきた。


「もー、全然来てくれないから、毎晩魔物に襲われて死んじゃおうかなって考えてたっすよ!」

「エレンならそこらの魔物に襲われても、傷一つつかないだろ」

「にゃはは、バレちゃったっすか?」


 たったったーっと。

 俺のところにまで、ショートに整えられたサラサラの黒髪を揺らしながら駆け寄ってきた。

 ロングスカートの給仕服も相まって、めちゃくちゃ可愛かった。


 エレンは、成人年齢である十五歳は優に超えているどころか、俺と同じ二十二歳のはずである。

 なのに、百五十cmを超えていない身長のせいで、どこか子供らしい雰囲気を与えてくる。


「ほんと、どこにそんな力があるんだか」


 そんな彼女も、兼業として冒険者をしているのだ。

 彼女の身長よりも少し大きいくらいの、超重量級のハンマーを扱っている。


「ん? うちのこと可愛いって言ったっすか?」

「いや、力持ちのバカとしか言ってないが」

「はは、ぶっ飛ばすっすよ?」

「エレンが言うと冗談に聞こえな……おい待て待て待て、ハンマー取りに行くな」


 俺は店の裏にある彼女の自室に歩き出したエレンを慌てて静止させる。


「にゃはは、冗談っすよ! ルイさんは今日も、コケッコのふわとろオムに、モーウのビーフシチューのトッピングでいいっすか?」

「ああ、頼む」


 俺が何か注文するまでもなく、エレンは厨房に向かって「オム一、ビーフシチュートッピング〜」と言った。


 別に毎回コレを注文する訳では無い。

 なんらかのスキルを使ったのか、はたまた長年の付き合いのおかげかは分からない。

 ……前者はもはや恐怖なので、後者であることを願うが。


 俺は客が来ても会話が聞かれないように、奥の方にあるテーブル席に移動して座った。

 エレンも俺の向かい側に座る……店員が座っていいのか?


「今回はなんで王都に来たんすか?」

「ああ、それはだな──」


 俺は特に隠すことなく話した。

 エレンはメンテナンスのことも知っている、数少ない親友の一人なので、遠慮する必要もない。


「ひえー、そんなことが」

「エレンでも、あれだけ急にだったら勝つのは厳しい気がしたな」

「じゃあほんとに、バカであったことだけが奇跡っすね。あと、王国で五人しかいないSランク冒険者のうちのことナメてるんすか!」


 冒険者ランクは、最高ランクのSから、A、B、C、D、Eと続く。

 エレンはそのSランクに、史上最年少の19歳で昇格したらしい。


 冒険者一本で、十分すぎるほどに生きていけたはずなのに、なぜかイーストを開業したのだが。

 本人曰く、「冒険者頑張ったのは、強いドラゴンを自分で狩って、その肉を食べてみたかっただけっすよ?」らしい。


 ……そういえば、以前シュリが「Sランク冒険者が働いてくれない」と苦言を漏らしていたが、もしかして……。


「エレン」

「どうしたっすか?」

「最近、冒険者業やってるか?」

「やってないっすよ?」


 やっぱやってないのか。

 まぁ、俺が困ることは何もないし、いいか。


「それで、今ルイさんの腰にあるのが、例の魔剣と……」

「見るか?」

「いいんすか?」


 カルドの話を踏まえると、ただの知人程度ではおそらく駄目なのだろう。

 そのことを考えると……。


「あぁ、いいぞ」


 俺は、細かいことを考えるのを諦めて、鞘から魔剣を取り出した。


「む、こ、これ……すごいっすね……」

「へぇ、エレンも【鑑定】スキル持ってるのか」


 獲得率だけで言えば、Dランクに値するスキルなので、Sランク冒険者が持ってないわけないか。

 結構いろいろ活用方法あるらしいからな。


 俺はめんどくさいからやらない、が……


「……ん? いやこれ、まさか……」


 俺はあることが頭によぎり、手を口元に寄せながら考える。


「ん? どうしたっすか?」

「いや……農作物の状態も鑑定して調べられたら、めっちゃ良くね? と思ってな」

「こんなにすごい魔剣手にしたのに、戦闘系スキル取りたいと思わないの、ルイさんだけっすよ」

「そんな褒めんな」

「よく褒めてるって分かったっすね!」

「俺がエレンに何回、"変人"って褒められてると思うんだ」


 まったく、こんな変わり種の職に就いてる俺を、"変"動しないで頑張ってる"人"、って言ってくれるとか、優しすぎるな。


「ってか、この剣どうやって運んだんすか?」


 俺の思考を遮るように、エレンはそう質問してきた。

 カルドと同じ理由だろう。


「どうも何も、普通にこうやって」


 俺は椅子から立ち上がり、魔剣が持っている魔力だの瘴気だのを一切機にせず、たどたどしい様子で剣を振ってみる。


 剣術については一切詳しくないため、見るに堪えない動きだが、剣の覇気の影響はまったく感じなかった。

 やはり、何故か俺に影響は無い。


「ちょっと待てやおい」


 ガタッという音を立てながら、エレンも椅子から立ち上がる。

 そして、俺に手を伸ばしてきた。剣を渡せという意味だろう。


「お嬢さん、語尾が抜けてるデュフ」

「ははっ! きもいっすー! あと、今の状況、うちの語尾がルイさんに移ったみたいに見えるんで、マジでその語尾やめないっすか?」

「そんなに拒絶するなよ、興奮す……いやごめんて、ハンマー取りに行こうとしないで?」


 ふざけながらも、俺はエレンに魔剣を手渡す。


「くっ……ッ! な、るほど……!」


 エレンが柄を握り、俺が魔剣から手を離す。

 すると、急にエレンは苦しそうな声を上げながら、一気に本気モードへと切り替えた。


 彼女の魔力量など、ステータス値が一気に上昇したのが、【鑑定】スキルを持っていない俺にも分かる。

 バフ魔法を自分に付与したのだろう。


「……っふぅ、完了っすね……」


 そして、わずか数十秒後。

 エレンはただの剣のように魔剣を握っていた。


 カルドが手も足も出なかった魔剣。

 エレンは俺と違い、魔力量や瘴気の影響をもろに受けているのだから、この速さで対応したのはまさに『異常』の一言に尽きるだろう。


「……今、失礼なこと思ってないっすか?」

「そのセリフ、本当に思ってないときに言われること、なかなか無いぞ」

「えっうそ。うち、こーいう勘あんまり外さないんすけどね。ちな、何思ってたんですか?」

「異常だな、と」

「それ、世間一般では失礼に値するんすよね」


 エレンは空気を切り裂く音が聞こえてくるほどの速さで、華麗に演舞した。

 ハンマーと剣だと、かなり勝手が違う気がするが、誰が見てもあきらかに俺より上手い。


 俺の方が剣と関わった時間は長いと思うのだがな……。


「うちもあのハンマー見つけるまでは剣士だったっんすからね?」

「え、なに、心読んでる?」

「え、純度百パーセントのかまかけだったんすけど」


 完全にハメられた。

 もしこいつが年下ならグーで言ってたな。

 性別とか知らん。俺は平等主義者なんでね。


 返り討ちに合うというツッコミは無しでいこう。


「それにしても、ルイさんマジでなんで影響無いんすか……これ結構、というかかなりヤバめのヤツっすよ」

「ま、でもエレンも使えてるだろう」


 誰も使えないものを俺だけ扱えるともなれば、さすがに怖いが。


「い、いやいや、うち今ほぼ全力っすよ? 今ルイさんにデコピンしたら殺せるっすよ?」

「へー、そんなにか……え、待って俺もしかして、今生きてるの奇跡のレベル?」


 衝撃の事実が聞こえてきたような気がするが、エレンは特に気に留めずに、話を進めた。


「このうちが全力でやっとなのに、ルイさんなんで……」

「なんでだろうな」

「ほんとに知らない人に言ってほしくないセリフナンバーワンっすよ、それ……」


 『なんでだろうなニヤリ』にしてください、とエレンは続ける。


 とはいえ、俺も本当に分からないのだからどうすることもてきない。

 カルドの鑑定で、何か分かればいいものだが。


「お待たせしましたー!」


 すると、先ほど注文していた料理が来た。それとともに、カランカランとドアベルも鳴る。

 客が来たようだ。


「ま、何かあったらうちも頼るんすよ!」


 エレンは俺に魔剣を返しながら、入ってきた客の接客に当たりにいった。


 料理はいつものことながら、めちゃくちゃおいしかった。






 ◇ ◆ ◇






 このあと、王都を軽くぶらぶら歩き回って時間をつぶした後、カルドのいる武器屋に帰ってきた。

 受付の人と話し、先ほどと同じ応接間に案内される。


「カルド、おつかれ」


 ソファに座り、飲み物を飲んでいたカルドに話しかけた。

 奥にある窓からは、少し暗みのかかったオレンジが差し込んでいる。


「戻ってきたな。鑑定は終わってるぞ」

「さすがだな。ありがとう」

「こいつはすげーぞ……ほら」


 カルドは文字が綴られた紙を俺に渡してきた。

 この魔剣の情報がまとめられたものだろう。


「詳しくはあとで見てもらって構わない。が、結論から言うと、えげつないな」

「えげつないのか」

「あと、これもあげよう」


 カルドは一冊の本を渡してきた。表紙には『剣術指南書』と書かれている。


「メンテナンスしながら、こっちの剣術学校には通えないだろう?」

「本当、ここまでしてくれてありがとう」

「気にすんな。俺もいいもの見れたしな。あ、王都に来たときは、うちにも来てくれ。魔剣のメンテナンスしてやるよ」

「あぁ……メンテナンスは俺ができるからいいよ」

「聖剣以外もできるのか?」


 俺のこれまでの知識をカルドに伝えてみる。

 微量の魔力を流すことで異変を見つける──魔力の変形を活用し、修復する──研磨、洗浄──。


「……すげえな。メンテナンス業って、国でも重宝される困難職なんだぞ」

「そうなの……えっ、もしかして給料高い?」

「まぁ、かなり」

「おっけ、転職する」

「やめとけ、世界が滅ぶ。最低賃金とはいえ、大変な職業だ。抜かれないようにメンテナンスするんだ」

「ま、それもそうだな。誰にも抜かれないように、俺も頑張る」


 俺は「またよろしくな」と言いながら、武器屋を後にした。

 日がかなり落ちているが、聖剣のメンテナンスをするためにも、家に帰らないとだな。


その後、聖剣のある地にて。


「あれ、ちょっと緩んでるか……? いけない、誰かに抜かれてしまう!」


俺は一度()()()、また深く差し込んだ。






 ──バタン。ガチャ。


 俺は、ルイが応接間から出ていくのを見届け、足音が遠くなった後に、鍵を閉めた。


 そして、本棚に向かう。

 離れたところに置かれている2つの本を押し込む。


 ゴゴゴゴゴ──。


 俺が手を離してしばらくすると、本棚が地面に沈んでいき、その裏に隠されていた地下へと続く階段が顔を見せる。


 俺は本棚をまたぎ、壁に取り付けられたボタンを押して、階段を下り始めた。

 背後では、また音を立てながら本棚が所定の位置に戻っていっていた。


 一つの部屋にたどり着く。

 本棚には禁書、剣立てには超高ランク武器の数々。

 そして、いくつかの魔道具が置かれている。


 俺は音声通話が行える魔道具に魔力を流し、起動した。


『ザ──────カルド武具ギルド長、どうなされましたか?』

「カルドでいいと何回言ったらいいんだ……それはそうと、これから言う事を王に伝えてくれ──そうだな、"聖剣について"、とでも題しておくか」

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