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ダイ7時代 ユウ者達の再会 新たなるユウ者の予感

ケルベロ3兄弟からダイナ装備のことを聞いたバザル達3人は、ズーケン達4人とケルベロ3兄弟の案内の元、現在のアサバス達4人の住処兼銭湯てるまとろまえに訪れていた。一行は隠居であるテルエにより彼女の家のリビングに案内される。これから行われる勇者達の同窓会には内心テルエも参加したかったが、この日は休日なこともあって店が繁盛しており、娘夫婦の補助に専念することにした。一つのテーブルにダイナ装備4人とティラノズ剣を並べ、彼らを囲むようにズーケン達が席に着く。

「初めまして。私の名はアサバス。60年前、マニヨウジをあの世に送る為、心優しきシゲン人ラミダスの手で、ここにいるアムベエ、カンタ、レーベルと共にダイナ装備となったダイチュウ人です」

「私はズールのルーズ。私もあなた達に会えて嬉しいわ」

「拙者、ザナバザルのバザルでござる。よろしく頼む」

「あちきはキチパチの、パチキチ。会えて嬉しい上、お主達はお友達と一緒で良かったですわ」

「お主達は…と言いますと?」

アサバス達ダイナ装備と3人の霊能力者達。互いに会えたことを喜んで間もなく、アサバスはキチパチの言葉に引っかかる。

「私達も、あなた達と同じダイナ装備の子を知ってるのよ」

「なん、なんだってぇ⁉」

「ええちょっとやだぁ!道理でリアクション薄いと思ったら!ねぇ誰⁉誰なの⁉今どこにいるの⁉」

「あらあら。そう慌てなさんな」

もっと驚かれると思っていたダイナ装備達に、思ってもみなかった衝撃の事実が飛び込んできた。ルーズは、すっかり大興奮のダイナ装備達に驚きながら両手でなだめる。

「そのダイナ装備の子はね、おりんのダイナ装備で、今ダイ海域にいるわ。確か、メトリオリンクスっていう両手両足にヒレがついたワニみたいな子で、名前はオリンクス。2、3年ぐらい前かしら…そのダイナ装備の子を持って私のところに訪ねてきた人がいてね。その人、メトリンとオリンクスは兄妹で、オリンクスの方がお兄さんね」

「兄妹か…いいな。つーか、おりんってなんだ?」

「ほら、お仏壇で鳴らすやつよ」

「おおあれかぁ!けど、どうなってんのか想像つかねぇな」

ルーズにもう一人のダイナ装備の詳細、カンタにおりんとはなんなのかを教えてもらったアムベエ。自身が弟を喪った過去を持つ故、今も兄妹一緒にいる彼らが羨ましく思う一方、おりんのダイナ装備の姿はイメージし辛かったようだ。

「そもそも、何故彼はダイナ装備に?」

「戦争があった頃住んでた村がシゲン人に襲われて、二人で逃げている最中にオリンクスは大怪我を負っちゃったのよ。出血が酷くて一歩も動けない上に、村も襲われている真っ最中だったからお医者さんに見せることも出来なかったそうよ。そこへ偶然通りかかったシゲン人が、オリンクスを近くに落ちてたおりんを使って彼をダイナ装備に変えたそうよ。その後シゲン人は、駆け付けた仲間のシゲン人と一緒にダイ大陸へ戻ったみたい。仲間達には、兄妹のことは何も言わずにね」

自分達以外のもう一人のダイナ装備と、オリンクスをダイナ装備に変えたシゲン人の存在。彼がダイナ装備になった経緯と合わせて、一同は彼をダイナ装備に変えたシゲン人が、兄妹を庇ったように感じた。

「なぁ…そのシゲン人ってまさか…」

「いや、もしラミダスならそのダイナ装備のことも我々に話したに違いない。おそらくそのシゲン人はラミダスではないとは思うが…」

「そのシゲン人の名前が分かれば一発なんだけど、名乗らなかったそうなのよ。まあそれどころじゃなかったからしょうがないんだけどね」

誰もが一瞬、アムベエと同じことを思った。だが、アサバスが言うようにそのシゲン人がラミダスかどうかは分からない。

「でも、侵略に来た筈のシゲン人の中にも、ラミダスのように優しい人が他にもいたってことよね。私達とラミダス以外にも、シゲン人と分かり合えた人達がいたなんて嬉しいわ~」

侵略者として襲来したシゲン人と、故郷を戦場にされたダイチュウ人。二つの種族が相容れる筈がない中、分かり合えたのは自分達ぐらいだとカンタは考えていた。自分達だけでも歩み寄れたことを奇跡だと思う一方で、それは自分達ぐらいだろうと少し寂しさを覚えていた。だが、自分達だけではなかった。しかも、深手を負っていたダイチュウ人の子供を、侵略に来た筈のシゲン人が助けた。つまり、戦争に参加したシゲン人が皆、悪意を持った存在でないことが改めて証明されたことに、カンタは安心感と喜びを感じていたのだ。

「そうね。あなた達ダイナ装備の存在そのものが、ダイチュウ人とシゲン人の信頼の証なのよね。ラミダスさんやあなた達がいてくれたから、私達の今があるのよね。となると、あなた達は私達にとって恩人よね。会えて良かったわ~」

「こっちこそ。あたし達も、あなた達が会いに来てくれて嬉しいし、こうしてズーケン達以外の人達と話せるなんて夢みたい」

もし、カンタ達やメトリオリンクスの兄妹が、ラミダス達のような戦う意思のないシゲン人と出会い、信頼し合うことが出来なければ、今の平和はなかっただろう。60年間故郷の平和を繋ぎ、今ある平和を守る為に戦ってくれた英雄達に会えた喜びと感謝と敬意を胸に、ルーズ達3人は、レーベル達ダイナ装備を一人一人手に取っていく。

「あなた、あたしと同じヨロイ系でしょ?」

「あ、分かります~?」

「分かるわよ~!一目見た時からそうだと思ってたし!今度、私が倒れたら運んでちょーだい」

「いや~ね~そもそも倒れちゃダメよ~!」

「あらやだ!そうよね~!」

ズールとタタンカケファルス。カンタの担架の柄をまるで握手するかのように握ってはしゃぐルーズ。同じ鎧竜の上お喋りなダイチュウ人同士仲良くなれそうだ。

「そんで、これも立派なダイナ装備…意思は宿らずとも、平和への、人々への思いは宿っとるに違いないでしょう」

キチパチは、横一列に並ぶダイナ装備達の真ん中に置かれたティラノズ剣を手に取り、まじまじと見つめる。命を削ってまでこれを遺してくれたズーケンの祖父には、その孫であるズーケンとその親友達には、一生頭が上がらないだろう。

「ああ。一番はそいつのおかげだな。そのティラノズ剣がなきゃ、マニヨウジを倒すこともバウソーやアンゾウを救うことだって出来なかった。ラ―ケンがそいつを遺してくれたから、ズーさんが一緒に戦ってくれたから、俺達は勝てたんだ」

「僕達も頑張ったんだけどねぇ」

「分かってるって。お前らにも感謝してるよ」

勿論、アムベエはダイナ装備達ばかりが持ち上げられた為かやや目を細めるレーガリンや、他の親友達のことも忘れてはいない。彼らが一人でも欠けていたら、勝利はなかっただろう。特に、レーガリン、ヘスペロー、ペティがいなければ、ズーケンと共に合体したズケロッティになれず、ズケロッティの力で得るダイナ装備達も光の肉体を与えられず、あの逆転劇は生まれなかっただろう。勿論、ケイティや血怨城に取り込まれたラミダス含めたシゲン人達の霊。様々な人物の助けがあってこその勝利である。

「なぁ、そのおりんのダイナ装備の奴には会えないのか?一辺会ってみたいんだよ」

「そうよ!私達はみんなと一緒にいるから寂しくないけど、その子はダイナ装備は自分だけだって思ってるかもしれないし、寂しがってるかもしれないわ。お願い!私達をその子に会わせて!ダイ海域に連れてってちょうだい!」

自分達以外にもダイナ装備がいたとなると、アムベエやカンタ達ダイナ装備は、身動きは取れないもののじっとしてはいられない。

「そうね。どの道ダイ海域には行かなくちゃいけないし、いいわ。ダイナ装備の子はみんな連れていきましょ。あなた達もそれでいいわよね?」

「せやなぁ。あちきがもしダイナ装備やったら、同じ仲間がいるなら是非会いたいと思いますわ。それに、あちき達も会わせてあげたいでしょうし」

「無論。母星の危機を救ってもらった、我々からのささやかな恩返しだと思ってくれ」

「「やったー!!」」「よっしゃー!!」

「ダイ海域か…久しく行っていないな…楽しみだ」

ルーズ達3人の厚意と恩返しによって、6つ目のダイナ装備に会えることになった。ダイナ装備達は歓喜し、胸を躍らせる。特にアサバスは、ラーケンが存命の頃はよく里帰りに連れて行ってもらっていたが、彼の死後は一度も訪れていない。アサバスにとっては、新たな同志に会えるだけでなく、9年振りの里帰りでもある為、己の傘を広げて回りたくなる程気持ちが高揚しているのだった。

「あの、僕達は?」

「勿論全員…と、言いたいところやけど、予算の都合上3人までやな。堪忍してや」

「んもぅ。僕達も母星を救ったのになぁ」

「ま、ダイ海域行くにも金掛かるだろうしな。ここは、じゃんけんで決めるか」

頬を少々膨らませるレーガリンと共に、ポン。と一斉に手を出すペティ達。文字通り、一発勝負だった。

「俺と、ヘスペローか…」

「そうだね…ベロン」

「ややや…僕か」

人見知りな二人は、気まずそうだ。また、まさかダイ海域への切符を手にしたズーケンが、想定した中で一番困る組み合わせだった。どう会話を弾ませるべきか、ダイ海域に着いてからも考えっぱなしになるだろう。因みに3人が出した手はグーであり、ズーケンのように指が二本しかない場合は両手の二本指、合計4本の指でパーを表現する。

「ちぇっ。結局留守番かぁ」

「まあまあ。また今度連れてってあげるから」

「ややや…」

ルーズが苦笑いしながら、ふてくされるレーガリンをなだめる光景に、ズーケンは少々気まずさと申し訳なさを感じる。ただ思い出したのが、レーガリンは家族旅行で何度かダイ海域に行っているような…。それだけ、ダイ海域は魅力的だということだろうか。

「悪いな。俺だけ」

「何言ってるんだよ。折角勝ったんだから、俺達の分まで楽しんでこい」

「そーそー。俺は別にどっちでもよかったしさ。その、おりんだかのダイナ装備に会ったら、よろしく伝えとけ」

「そうか…」

兄二人を差し置いて、自分だけダイ海域に行くことになったベロンは、少し罪悪感を感じている。二人の兄としては兄弟3人で行きたかったが、せめて弟だけでも行けて良かったと少し安心していた。あとは弟さえ楽しんでくれれば十分であり、ベロンはそんな兄達の気持ちを感じ取った。

「まあ…お前らも気をつけてけ」

「あ、うん…」

「ややや、了解」

一方ペティは、同じ人見知りと共にすることになる友人とその間に入ることになるであろう友人の先が思いやられていたが、それは友人達も同じようだった。

「そーいや、ユモルのおっちゃんのことはどうなったんだ?かーちゃん死んじまったのか?」

「え?」

「あっ…」

ダイ海域と新たなダイナ装備のこともそうだが、ルベロとしては母を亡くしたご近所さんのその後が気になっていた。だが、ユモルのことはおろかマニヨウジが復活しようとしていることさえズーケンが首を傾げる一方、ヘスペロー達は互いの目と口を開いた顔を見合わせる。

「ユモルはんは、バザルとルベロはん達のお知り合いで、父親を亡くし、母親も余命宣告を受けておったんですわ。その母上殿は先日亡くなられたものの、二人は親子の最後の時間を過ごせたそうでご両親揃って喜んでおられましたわ」

「お、おー。なら、いっかー」

「さよさよ左様」

皆の表情に焦りが見える中、パチキチとバザルだけは顔色一つ変わらなかった。パチキチはズーケンにマニヨウジのことを悟られないよう、ユモルの事情について説明しつつ、彼の両親の霊のその後をルベロ達に伝えた。ルベロとバザルは互いに焦りが口調に表れながらも、ズーケンに疑問を持たれる前にどうにかユモルの話題を終わらせようと必死だった。

「今朝、バザルが起きたところユモルはんの両親の霊がおったそうで、ルベロはん達の頑張りのおかげと感謝しておりましたわ。そして息子を頼むとあちき達に託し、成仏していかれました」

「そうですか…よかった…」

「しかし、成仏したのはなによりだが、俺達に託すとは一体…どうすればいいんだ?」

「今、ユモルはん唯一の家族を亡くし、深い悲しみに暮れているでしょう。少しずつ、親を喪った現実と向き合う時間が、それが出来るまでそっとしておき、また会った時におはようとか、軽く挨拶するだけでもええかと。声をかけてくれる人がいるだけで、ユモルはんは孤独を感じなくて済むと思いますわ。今は一人になりたいでしょうが、ずっと一人はしんどいでしょうからなぁ」

ユモル一家を救えたことにケルベが胸を撫で下ろす一方、両手を後頭部に回すルベロにはパチキチが答える。慰めや励ましの言葉は確かにユモルの苦しみや悲しみを和らげ元気づけるが、それは彼の気持ちが落ち着いてからでいいだろう。

「ズーケンちゃん、ちょっとあなたの中のガーティちゃんと話をさせてもらってもいいかしら。みんな話したいって前から言ってたし、多分今皆と話せなくて寂しがってるっぽいし」

「分かりました」

ズーケンのままでは、今後の話手を合わせるズーケンの両肩に、ルーズが両手を置きふっと息を吐くと、ズーケンががくりとうなだれる。そして間もなく、ゆっくり顔を上げる。

「…ったく、口には気をつけろ。ズーケンに知られたらどうする。あと俺は、寂しがってなんかいない」

「うわっ⁉マジか!」

顔はズーケンだが、声も目つきも全くの別人。彼が振り向くと、ルベロ達3人は揃って身体が跳ねる。

「聞いてたと思うけど、あなたと話がしたいんですって。いいでしょ?」

「ああ。丁度、お前達には礼が言いたかったからな。お前達のおかげで、また一人マニヨウジから解放された。ありがとう」

「あ、ああ…どうも」

今、目の前にいるのは親友だが、話しているのは親友ではない、全くの他人の霊だ。ケルベの初めての霊会話は、緊張と恐怖少々。だが、3兄弟揃って彼から悪意のようなものは感じなかった。

「俺は、お前達とマニヨウジの戦いを全て見ていた。お前達のこともな。弟がマニヨウジによって命を奪われそうになった時も、お前達兄は弟を見捨てず、命を懸けて助けに行った。そのお前達の兄弟愛と勇気には、胸を打たれた。手を貸してやることは出来なかったが、お前達が勝ってくれて心から安心した上、心から感謝しているんだ。ありがとう」

「ま、まー…気にすんな」

意外といい奴かもしんねー。正直なところ霊が苦手だったルベロは、感謝の気持ちを伝えるガーティには、苦手意識も和らいだようだった。霊のことを少し克服出来たような気がするも、それが逆に彼のイメージと離れていた為か、頭をボリボリ掻きながら戸惑うのだった。

「それに、近所のユモルのこともよくやってくれた。お前達3人にとっては只の近所に過ぎないユモルの為に、初対面のこんな不審者全開の坊さんの言葉に耳を傾けた。今回は信じてくれて助かったが、次からは気をつけろ」

「不審者全開。返す言葉もない。受け入れるつもりだ」

「そ、そこはいいのか…?」

一応自覚はしているらしい。ガーティから感謝と注意喚起を同時に伝えられたベロン達は、不審者呼ばわりされ、まるで裁判の判決を受けるかのように真っ直ぐガーティを見つめるバザルに困惑していた。

「初めまして。私はアサバス…といっても、もうご存じか。あなたのことはルーズ殿から聞いていた。一度話がしてみたいと思っておりました。どうぞよろしく」

「ああ。俺も一度、話がしたいと思っていた。お前達にも深く感謝している。特に、光の身体を得たお前達の姿には感動すら覚えた。その後のお前達の戦いには、見ていて清々しさを覚えた上久しぶりに胸が躍った」

「だろぉ!俺も、はらわたが煮えくり返るぐらい全ッ然歯が立たなかったマニヨウジをみんなでボコボコに出来た時はスカッとしたぜ!」

「へぇ~あたしも見てみたかったなぁ~」

アムベエ達3人がマニヨウジと対峙している頃、レーベルは合体したズーケン達と共にマニヨウジが生み出し自ら操る血怨城の体内に入り、血怨城内に取り込まれたアンゾウの救出に向かっていた。マニヨウジに一発入れたい気持ちはなかったが、親友達がマニヨウジを一方的に叩きのめす様は、長い間共に本来の肉体を失った彼らが自由に動ける身体を得た姿は、一度でいいから目に収めておきたかったのだ。

「正直、俺もお前達のように身体を得られなくても、何かしらお前達の為に手助けをしたかったがな。出来るものなら、俺が戦争に行った時も…」

「何を言っておられる。かつてあなたもこの星の為に、愛する者達の為に戦ったではないですか。あなたのような兵士一人一人が、今ある平和を作ったのです。そして我々は、あなた達のような同志達の思いを背負って戦いました。私達はいわば、同志です。あなたもまた、この星の為に立派に戦った…それはかつてのあなたの同志達も、分かってくれる筈です」

「同志か…。そうだといいな」

目の前にいる自身より幼い少年達が怨霊に立ち向かっている時、かつての同志達と共に戦地に赴いた時のことを思い出していた。当時、戦場に出て程なく戦死したガーティは、魂だけとなり、目の前で凶弾に倒れていく同志達を前に、何も出来なかったことへの無力感と罪悪感を抱いていた。しかし、時代は違えどかつて自身のように平和の為に戦ったアサバスに、同志として認められたことで、その無力感と罪悪感が少しだけ和らいだような気がした。

「そういえば、ギョリュー霊の未練の相手は、誰か分かったんですか?」

「ええなんとか。けど、大変だったわよ~。念を辿ればいいとはいえダイ海域は水の中を泳ぐように移動しなきゃいけないから、泳ぐのが苦手な私は辿り着くまでが大変でね~も~」

「その者は、ギョリュー霊の夫にして、幼い娘の父親でもある」

ダイ海域は主に、アサバスのような背びれがないイルカのようなギョリュー系のダイチュウ人が暮らす海底都市である。水中ではないが水中に近い環境になっており、そこで暮らすダイチュウ人達は泳ぐように移動する。元々泳ぐのが不得意なヨロイ系のルーズの渋い顔からしてその苦労が伺えるが、話が長くなりそうだ。そうなるとレーガリン達は勿論、皆も堪えるのでバザルが簡潔に答える。

「ギョリュー霊は、妻であり母親ってところでしょうなぁ。まだこれからっちゅう時に、さぞ無念やったでしょう」

亡くなった母親の霊は、これから子供の成長を楽しみにしていたに違いない。二人の子を持つ父親でもあるパチキチは、彼女がどれだけ悔しさと深い悲しみを抱え込んでいるのかが分かる気がした。

「というか、そもそもなんでダイ海域にいる筈のギョリュー系の霊がダイ大陸にいるの?マニヨウジがダイ海域まで行ったってこと?」

「なら、他の霊もダイ海域の住人を選ぶ筈ですわ。おそらく、何らかの理由でダイ大陸におったギョリュー霊の夫人をマニヨウジが利用した、でしょうなぁ。ズーケンはん達にやられたてのマニヨウジは、一秒でも早く復活する為に目についた霊を片っ端から取り込んだ。それがたまたまギョリュー夫人の霊やった…とも考えられるかと」

首を傾げながら天井を見上げるレーガリンの憶測も、間違っているとは言い切れないが、残る2人の霊がダイ大陸出身であったことから、キチパチはそう推察した。実際のところは分からないが、今はギョリュー夫人の霊の未練を解消するのが最優先だ。

「あの…その人の未練って…解消出来るものなの?ほら、お母さんが子供を残して死んじゃうなんて、絶体子供の事が心配だと思うし、下手すると子供が死ぬまで成仏出来ないんじゃないかって思うんだけど…」

「…」

レーガリンがギョリュー霊の母親としての心情に思いを馳せていく内に、ヘスペローは思った。もしかしたら父は、今でも自身のことが心配で成仏していないのではないか。話に区切りがついたので、おそるおそる手を挙げるヘスペローは、今は亡き父親に思いを馳せた。

「それもそうなんだけど、どうやら旦那さんとお子さん以外に、気がかりなことがあるみたいなのよ」

「それは一体…?」

アサバス達の疑問、その気がかりなもう一人の未練の相手は、バザルが突き止めた。

「ギョリュー霊夫人の未練の念は、3つあった。その内二人は夫と娘、そしてもう一人は…ある女性に辿り着いた。そしてその女性は、ギョリュー霊の娘が通う保育園に勤める保育士だった」

「要は、そういうことでしょうなぁ」

「どういうことだよ?」

この手の事情に疎いアムベエは全く想像もつかなかったが、女性陣にはよく理解出来た。

「まさか、その保育士の人とギョリュー霊の旦那さんって…」

「じゃないかなぁって私は読んでるのよ~」

「うそー⁉なんだかドラマみたい!」

「でしょう?けど、ドラマとかで見る分には面白そうなんだけど、いざ現実の話になると複雑よねぇ…」

「だからどういうことなんだよ?」

「付き合ってるんじゃないかってこと」

「嘘だろ⁉死んだ奥さんはいいのかよ!」

大人の複雑な恋愛事情にカンタとルーズが盛り上がる中、全く理解出来ないまま完全に置いて行かれたアムベエ。見かねたレーベルに教えてもらうと、すぐ様怒りを露わにする。

「そう思うでしょう?でも、旦那さんも最初はそうだったかもしれないけど、一人で子育てするのって想像以上に大変だと思うのよ。お子さんが幼いと猶更ね。だから、やっぱり母親が必要なんじゃないかって思うのも分からなくもないし、奥さんがいなくなったことで空いた心の穴をその保育士さんが埋めていたんだとしたら…え~もうこれどうしたらいいのよ~!」

「彼らの事情に関しては、少なくとも我々がどうこう言う話ではありませんわ。我々の成すべきことは、ギョリュー霊の未練がなんなのかを突き止め、それを断ち切ること。さすれば、マニヨウジに利用されているであろうギョリュー霊はんと、ガーティはんの元恋人レイコはんも救えるでしょう。その為には、ここであれこれ言うより、ギョリュー霊はんのご主人に直接聞く方がええかと」

「ま…そうよね」

想像だけで盛り上がっていても仕方がない。恋バナ感覚で盛り上がるルーズ達に、今自分達の成すべきこと、怨霊の復活がかかった緊急事態であることを再認識させるべくパチキチが諭す。

「けど、どうやって聞くんだ?正直、どう頑張ってもその話題に持ってくの無理だろ…」

「難しいんじゃないかなぁ。まず話したいと思わないだろうし、僕だったら聞かれたくないしさ」

ペティやレーガリンの言うように、家庭内のデリケートな問題を、世間話感覚で尋ねるわけにもいかない。ユモルの母を訪ねた時のような偶然を装ったやり方でも、よっぽどのことがない限り向こうから話すことはないだろう。

「だが、それでも聞き出さねばならない。マニヨウジの復活を阻止する為には、奴が復活の為に利用しているギョリュー霊の未練が何なのかを知る必要がある。だが、ギョリュー霊から事情を聞き出すことが出来ない以上、どうにかして遺族にギョリュー霊のことを話してもらうしかないだろう」

「そうね…。まあ、ひとまず明日ダイ海域に行って、オリンクス兄妹に相談してみましょ。ここでうんうん唸ってもどうにもならないし、もしかしたら何か良い案が浮かぶかもしれないし」

現状、これといった妙案は思いつかないままだが、アサバスやルーズの言うように、ギョリュー霊の事情を把握し、彼女が抱える未練を解消しなければならない。まずはダイ海域にい兄妹の元を訪ねる。それだけは確定した。

「ねぇガーティ。差し控えなければなんだけど…あなたとあなたの彼女について、色々教えてくれない?ルーズさんから聞いた時からずっと気になって気になって仕方なくって~!」

「…は?」

話が一段落したところで、どうやらカンタは恋バナがしたいらしい。ガーティはズーケンの口を開けたまま、呆気に取られている。差し控えなければとは言っているが、その勢いと気持ちは控える気はなさそうだ。

「そうよ!私もずっと気になってたのよ!でもあなた全然話してくれないし、状況が状況だからあんまり踏み込めなくて~!」

「あたしも…ちょっと気になるけど、ガーティが話したくないならそれでいいから…無理しなくていいからね」

「…」

身振り手振りが激しいルーズや、やや控えめに話すレーベルも、内心気になっているらしい。正直、話すのが恥ずかしいガーティは、ズーケンの眼球を上、右、左、下と動かし、正面に戻す。

「…まあ。聞きたいなら、俺は構わない」

彼女達には、マニヨウジを倒してもらったり、ズーケンの身体で話せるようにしてもらった恩がある。自身の恋人のことを話すことで、多少は恩返しになるのかもしれない。

「ほんと⁉じゃあまず出会いから全部片っ端から教えてちょ~だい!」

「あ、ああ…」

ルーズ達女性陣は大喜びだ。果たして、彼女達の期待に応えるだけのエピソードを披露できるだろうか。小刻みに頷くガーティは少々不安を覚えるものの、内心自信があった。その後、彼が語るレイコとの甘く淡い日々。保育園の頃からレイコに思いを寄せていたガーティが、中学卒業をきっかけについに告白したことがきっかけで交際が始まったこと。高校時代はほぼ毎朝レイコの家まで会いに行き、一緒に登校したこと。また、ガーティがレイコにあまりにも夢中、ゾッコンだった為か授業が終わる度にレイコの教室まで押しかけたそうだ。その事で度々注意されることはあったが、喧嘩になることは一度もなかったそうだ。

在学中、シゲン人との戦争が始まりガーティが徴兵され、以前のように会えなくなった時は、手紙でやり取りするようになった。その際、基本レイコが3枚書いた場合、ガーティは5枚にして返すことが多かったそうだ。そして、ガーティが出撃する前日、もし俺が帰ってこなかった時は、他の男と生きろ。そう言いたかったが、心のどこかがブレーキをかけた。自分の幸せを優先させろ。どうにかそれだけを絞り出した。するとレイコは、あなたはきっと帰ってくる。私は、いつまでも待つ。と返したそうだ。

その甘く淡く、そして最後は切ない恋の日々一つ一つが語られる度に、女性陣は黄色い声を上げた。

一方、男性陣のほとんどが退屈そうにあくびしたり、溜息をついたり、話の途中に他の誰かと全く関係のない話をしたりと、彼らには甘ったる過ぎたらしい。因みに、最後まで真面目に聞いていたのは、ズーケンとバザルの二人のみであった。


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