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ダイ4時代 最後の思い出 祖父と自ユウに

彼は、夢の中にいた。

とはいっても、そこは現実と変わらない彼の日常。彼がいるのは、つい先月世を去ったばかりの祖父が浸かっていた部屋だ。彼が辺りを見回した後、何気なく祖父が生前手入れしていた庭を眺めていた時だった。

「オプローケ」

突然、背後から声をかけられた少年は振り向く。そこにいたのは、つい先月永遠の別れを迎え、もう二度と会えない筈の人物。

「おじい…ちゃん…?」

オプローケは目を疑った。だが、目の前には確かに、死別したはずの祖父がいる。未だ信じられない光景を映す彼の目から涙が溢れ出す。

「お祖父ちゃん!」

奇跡と感動の再会を喜ぶオプローケは、無我夢中で祖父の胸に飛び込む。胸の中で泣きじゃくる孫を優しく抱き締める彼は、愛する孫の頭をそっと撫でる。

「お祖父ちゃん…!死んじゃったからもう会えないって思ってた…!けど…また会えて良かったよぉ…!」

未だ涙が流れ続ける真っ赤な目をした顔を上げ、満面の笑顔を浮かべるオプローケ。そんな目を真っ赤にする程感涙する彼と同じくらい喜んでいる筈だが、祖父の顔はどこか哀しそうだ。

「オプローケ…。お祖父ちゃんも、オプローケにまた会えて嬉しいよ。でもね、お祖父ちゃんはもういないんだ。お祖父ちゃんは死んじゃったから、もうオプローケと一緒にいられないんだよ」

「そんな…」

やはり、祖父はもう亡くなっている。再会に歓喜したのも束の間、その現実を突きつけられたオプローケから、先程までの笑顔が嘘のように消えていく。

「オプローケ。お祖父ちゃんはもう死んじゃったけど、折角こうして会えたんだから、ちょっと散歩にでも行こっか」

「うん…」



祖父と出かけたオプローケ。二人がやってきたのは、家から10分程、通学路の途中にある駄菓子屋。地球上の日本にある駄菓子屋とは、売られている菓子に多少違いはあれど、概ね同じである。

「これ、よくお祖父ちゃんに買ってもらったお菓子だ!美味しいんだよね」

それが目に入るやいなや、オプローケがおもむろに手に取ったのは、SUNYOU羹と書かれた四角い箱に入った、中はを象った羊羹のお菓子。三葉虫にも様々な見た目を持った種類がいるように、この羊羹にも様々な種類がある。はっきりと明確な違いが分かる種類だけを厳選し、全34種類。何が出るかは、開けてみてからのお楽しみ。またその見た目からか、一部の女性ダイチュウ人にダイエット中のおやつに用いられる。

「そうだったね。お祖父ちゃんも子供の頃、このお菓子が好きでよく買って食べてたんだ。オプローケも気に入ってくれるかどうか心配だったけど、喜んでくれて良かったよ」

「そうだったんだ…初めて聞いたよ」

祖父との思い出が詰まった駄菓子屋。そこが祖父が自身と同じくらいの頃からあったことは聞いていたが、そこで一番買ってもらった大好きなお菓子が、祖父の好物でもあったことは初めて聞いたオプローケ。祖父が亡くなるまで知ることはなかったが、互いに同じものを好きでいたことに、オプローケは嬉しそうに微笑んだ。

「他に、何か欲しいお菓子はあるかい?」

「え?あ、ええっと…」

祖父に促され、オプローケは首を左右に振って多種多様な駄菓子を見渡す。親が一緒の場合、一種類しか買ってもらえないが、祖父がいるといくつか買ってもらえる。なのでいつもウキウキとしながら選ぶのだが、何故かそんな気分にならない。

「…いいや。これだけにするよ」

「いいのかい?もっと買ってあげられるよ?」

「でも、これだけでいいや」

祖父は遠慮は無用だったが、オプローケの気持ちは変わらなかった。いつもだったらもう2、3種類程買ってもらうところだが、どうしてだが一つだけで十分だった。

「そっか。それじゃあ、次に行こう」

「え?」

オプローケは一瞬、優しい笑顔の祖父の言ったことが出来なかった。そして次の瞬間、理解する間もなく駄菓子屋から一変、そこはおもちゃ屋に、特にオプローケが好きだったロボットおもちゃコーナーへと早変わりした。

「え…ええっ⁉ど、どうなってるの⁉」

目の前で起きた瞬間移動に、左右に首を激しく振る孫を微笑ましく見守りながら、祖父は陳列されたとあるおもちゃが入った箱を手に取り、孫の目の前に差し出す。

「ほら。これ、一番欲しかったやつだったろう?」

「あ…」

それは、オプローケが好きなヒーロー番組の合体ロボットのおもちゃ、オプローケが今一番欲しいと思っていたものだった。同時に、両親は買ってくれそうになかったが、祖父なら買ってくれるかもしれない。そう思っていたものだった。

「僕が退院していれば、そもそも病気にさえかからなければ、きっとこれも買ってあげられただろう。もう遅いけど、ここで買ってあげても意味はないけど…お祖父ちゃんに、買わせてくれないかい?」

「!」

祖父が、切実そうに頼んでいる。オプローケはようやく気付いた。ここは夢の世界だ。亡くなった祖父がいることも、駄菓子屋からいきなりおもちゃ屋に瞬間移動したことも。

「どうして、お祖父ちゃんは僕の為にそこまでしてくれるの?なんで、なんでも買ってくれるの?いくら僕が孫だからって、そこまでしなくていいのに…」

何故祖父がそこまで自身の為に、あれもこれも買ってくれるのか。その答えは既にズーケンから聞いてはいたが、それでもやはり祖父の口から聞いてみたくなった。あれだけなんでも買ってくれる祖父に、自分でもそんな言葉が出るのが不思議だった。

「オプローケが可愛い。それだけなんだよ。それに、お祖父ちゃんが子供の頃は、お菓子もおもちゃも買ってもらうどころか、ご飯だってお腹いっぱい食べられなかった。あの頃は戦争があって皆が生きるのに必死で、とてもそれどころじゃなかったんだ。戦争が終わって大人になって、もし僕に子供が出来たら、ご飯をお腹いっぱい食べさせてあげたいって思ってたし、オプローケにもいっぱいご飯を食べてほしかったんだ。僕みたいな、苦しい思いはさせたくなかったからね」

「だから…僕やパパに、お菓子やおもちゃをいっぱい買ってくれたんだね」

祖父が何故孫である自身に何もかも与えようとする理由。それは、かつて子供だった自身になかったものを、戦争に勝つという目的の為に全てを捧げながら、その心の内に求めていたものを自身の子や孫に与えたかったのだ。

「本当はケーキとかおもちゃとか、もっといっぱい色んなものを買ってあげたかったし、お年玉もたくさんあげたかったけど、お祖父ちゃんはお金をあんまり持っていなくてね。買ってあげたくても買ってあげられなかったものばっかりだった。それに、お祖父ちゃんは死んじゃったから、もう何も買ってあげられないんだ…」

「お祖父ちゃん…」

孫への愛情とそこそこの貯金があったとはいえ、年金暮らしの彼が金銭を用いて形にするのには限界があった。祖父が生きている間知るどころか考えることすらなかった事情に触れたオプローケ。自身の身を削ってまで愛情を注いでくれた祖父は今、悲しそうだ。

「お祖父ちゃん。今までいっぱい、お菓子やおもちゃを買ってくれてありがとう。本当は大変だったのに、僕にいっぱい色んなものを買って、お祖父ちゃんの愛情を形にしてくれたよね。さっきお祖父ちゃんが僕にくれたこのお菓子は、お祖父ちゃんとの最後の思い出で、僕にとってすごく大きなものなんだ」

オプローケは、祖父に買ってもらった駄菓子を握ぎる右手を開く。正直、駄菓子よりケーキの方が好きだ。しかし、この駄菓子をくれた祖父は、もうこの世にはいない。駄菓子やケーキは何度でも食べることが出来るが、それを与え続けてくれた祖父との思い出は、もうこれ以上増えることはない。今オプロー^ケの手にある駄菓子が、祖父との最後の思い出なのだ。

「それに僕、お祖父ちゃんのこと、何も知らなかったよ。パパやママに買ってもらえなくても、お祖父ちゃんに言えば何でも買ってくれるって、お祖父ちゃんのことを都合の良い存在みたいに思ってた…。でも、本当はお祖父ちゃんも大変だったのに、それでも僕にいっぱい欲しいものを買ってくれたし、僕の話もいっぱい聞いてくれた。それに、こうしてお祖父ちゃんの子供の頃の話も聞けて、僕がいつも優しいお祖父ちゃんの孫になれたことがどれだけ幸せだったのかにも気づけた。だから、最後にお祖父ちゃんと話せてよかったよ」

「そっか…」

祖父は、孫への無償の愛と、そのきっかけにもなった自身の過去は、孫にとって必要のないことだと思っていた。だが、それを知ったことで孫が、己が戦争のない平和の時代に生まれ、無償の愛を注いでくれる祖父がいることを恵まれたと幸せを感じていることが、心から嬉しかった。

「それと、そのおもちゃ…買おうとしてくれるお祖父ちゃんの気持ちは嬉しいけど、ちゃんと、自分のお金で買うよ。といっても、お祖父ちゃんのお年玉で買うんだろうけどね」

夢の中での祖父の気持ちは、現実で貰った祖父の気持ちで受け取ろう。結局、祖父のお金で買うことに変わりはないのでオプローケは苦笑いしていたものの、その気持ちに祖父は思わず涙する程感激していた。

「お祖父ちゃん…僕、お祖父ちゃんがお菓子やおもちゃを買ってくれた時はすごく嬉しかった。でも、今はそれよりもお祖父ちゃんが僕のことを好きでいてくれたことが一番嬉しいよ。お菓子やおもちゃはお金があれば買えるけど、お祖父ちゃんの気持ちは、いくらお金があっても手に入らないからね。それに、お祖父ちゃんも…」

一度亡くなった祖父は、もう戻ってはこない。

「僕、今までお祖父ちゃんが買ってくれたおもちゃ、ずっと大事にするよ。お祖父ちゃんはいなくなっちゃたけど、お祖父ちゃんとの思い出はずっと残るし、お祖父ちゃんが遺してくれたものと一緒に、ずっと大切にしたいんだ」

祖父が亡くなっても、祖父の思いは、彼が買ってくれたものと共に残る。その思いと共に、これまで買ってくれたものを大事にすることで、祖父や祖父との思い出もいつまでも大切に出来ると思っていたからだ。

「それと、お年玉も大事に使うよ。欲しいものはいっぱいあるけど…お祖父ちゃんが僕の為にくれた、お祖父ちゃんの貴重なお金だからね」

「そっかそっか…」

お年玉も、出来ることなら使わずにとっておきたいところだが、祖父が買おうとしてくれたおもちゃ以外にも欲しいものは多い。もし使う時は、心から欲しいものだけに使おうと、オプローケは心に決めるのだった。今回、初めて大切な人の死を経験した彼は、その人の思いと過ごした日々を大事に生きていくことを決意した。たった今、自身の死を乗り越え、孫の成長をその目で見届けた彼は、安心したように頷きながら微笑んでいた。次の瞬間、再び景色が変わる。

「あっ…」

最後に来た場所は、家の前だった。玄関を背に立つオプローケの前に、向かい合う祖父の背後に、どこからともなく一台のバスがやってくる。

「…?」

オプローケは、違和感を覚える。そのバスはいつも見るものと違い、真っ黒だ。バスは祖父の後ろで止まると、ドアが開かれる。

「それじゃ、お祖父ちゃんは行くよ」

「あっ…お祖父ちゃん」

祖父がバスに乗った瞬間、オプローケは嫌な予感がした。後を追おうとバスに乗ろうとした瞬間、祖父が振り向き、それを制する。

「オプローケ。これはお祖父ちゃんが乗るものなんだ。オプローケにはまだ早いよ」

「でも…」

そのバスに乗ったら、祖父には二度と会えないような気がした。

「そうだよオプローケ。このバスは、お祖父ちゃんが乗らなければいけないもので、オプローケはまだ乗っちゃいけないんだよ。でも、いつかオプローケもこのバスに乗る時が来る。だからそれまでに、お父さんやお母さん、それにたくさんのお友達といっぱい思い出を作ってくれれば、お祖父ちゃんは嬉しいよ。今しか出来ないこともあるし、今しか一緒にいられない人もいるからね」

「お祖父ちゃん…」

このバスに乗ることは、どういう意味なのか。オプローケはそれを、なんとなく理解した。彼は、祖父が亡くなるまで人の死について考えたことはなかった。だが今回、祖父の死を、人の死に初めて直面したことで、人はいつか死ぬのだと知った。そしてそれは、自身も同じ。だが、それがいつ訪れるのか分からない。自身がどれくらい生きられるのか分からなければ、明日死んでしまうのかもしれない。親や友人、今日会えた人が明日も会えるか分からない。だから、一日一日を大事にして、なるべく誰かと会って話して、一つでも多く思い出を作ろうと決めた。その直後、バスのドアが開かれる。

「オプローケ。正直に言うとね、お祖父ちゃんは死んじゃってから、オプローケのことがずっと心配だったんだ。オプローケは人に心を開くのが苦手で、お祖父ちゃんには色んなことを話してくれるけど、学校のお友達には、まだ話を聞くばかりで少し窮屈に感じているみたいだからね。お祖父ちゃんがいなくなった後、お友達と上手くやっていけるか、それが気がかりでね」

「…!」

祖父の言う通りだった。人見知りなオプローケは、祖父や両親とはなんの支障もなく話せる一方、クラスメイト達には、自分から話しかけることすら躊躇してしまうのだ。

「それに、お祖父ちゃんのことを大好きでいてくれたから、僕がいなくなって悲しませてしまっているって。でも今日、オプローケには素敵なお友達が出来た。手術のことで不安になっていたオプローケを、あの子達は救ってくれた。オプローケも、あの子達に心を開くことが出来た。彼らがいれば、オプローケはきっとこの先も大丈夫だって安心したんだよ。これでもう、思い残すことはないよ」

「お祖父ちゃん…」

祖父は、自身のことを心配していた為に成仏できずにいた。そう解釈したオプローケだが、目の前の祖父が安心したように微笑むと、それも解消されたのだと思えた。

「ただ…あの子達は今、とても大きな問題を抱えているんだ。オプローケ、君があの子達に救われたように、今度はオプローケが、あの子達の力になってあげてほしいんだ。あの子達には、僕も助けてもらったからね」

「!」

オプローケには、思い当たる節があった。自身の見舞いに来たバウソーとズーケンが目を合わせた時、ズーケンが突然怯え始めたことだ。

「そうなんだ…。でも、どうすればいいの?」

「あの子達…特にズーケン君はとても辛くて苦しい思いをしている。あの子が抱えているものはあまりにも大き過ぎて、あの子自身もどうしたらいいか分からなくなっているんだ」

ズーケンが負った深い傷がなんなのか、彼は分かってはいたが、敢えて孫に伏せることにした。それを話せば、オプローケに大きな精神的負担をかけてしまい、ズーケンが彼に話すことを望まないことを理解していたからだ。

「ズーケン君と一緒にいて、彼の様子が突然変わってしまうこともあると思う。でも、オプローケはズーケン君に声をかけてあげたり、何気ない話をしてあげたりするだけでいいんだ。オプローケが傍にいてくれるだけで、ズーケン君の苦しみは、和らぐ筈だから」

深い心の傷に苦しむ者に寄り添うにはどうすればいいのか。オプローケの祖父の答えは、傷を負った者が本来の自分でいられなくなっても、周りは変わらずに接し続けることだった。慰めや励ましの言葉をかけることも十分救いになるだろう。だが、なんと言葉をかければいいのか分からない時もある。そんな時は、ただ傍にいるだけでも痛みや苦しみを和らげられることもある。大事なことは、一人にしないことだった。

「僕に…出来るかな」

「出来るとも。オプローケの優しさは、ズーケン君への思いは、本物だからね。ズーケン君も、分かってくれるよ」

「…そうだといいな」

ただでさえ人見知りで人と話すのが得意じゃない自身が、果たして心に深い傷を負ったズーケンに寄り添えるのか。不安は拭いきれない中、祖父が出来ると言ってくれるならきっと出来る。オプローケは、祖父の言葉を信じることにした。

「オプローケ。僕の孫として生まれてきてくれて、今まで一緒にいてくれて、僕が死ぬまで生きてくれて、ありがとう。ずっと…見守ってるからね」

今度こそ、別れの時が来た。祖父は孫に、生前伝えることが出来なかった言葉を、オプローケが生まれてから抱き続けてきた感謝を伝える。

「お祖父ちゃん…僕の方こそ、今までずっと優しくしてくれて、僕にたくさんの思い出をくれてありがとう。僕、頑張るから…またね」

もう、祖父と会うことはないだろう。それを理解し、受け入れたオプローケもまた感謝の言葉と永遠の別れ、そして、いつかの再会を告げた。

祖父の死をきっかけに、人が死ぬこと、その死と向き合い、亡くなった人の分まで今傍にいる人達と共に生きていくことを学んだ彼を、新しい一日が迎えに来た。




「オプローケ!」

「気がついたか!」

ベッドの上でゆっくりと目を開けた少年は、自身の名を呼んだ女性と男性の声がした方に目線をやる。そこには、ベッドの傍らに立つ男女が、少年の顔を見ながら共に涙を流している。

「パパ…ママ…?」

手術を終えたばかりのオプローケが状況を把握する前に、母親が意識を取り戻したばかりの息子に抱きつき、父親はその頭を強く撫でる。

「オプローケ、手術は成功したんだ!よく頑張ったな!」

「先生も言ってたわ!手術にオプローケの体力が持たないんじゃないかって…それでも手術が上手くいったのが奇跡だって…!」

両親が涙を流し、特に母親が嗚咽を漏らしながら号泣する様を見ていると、オプローケはだんだんとその身に奇跡が起きたことを実感し始めていた。

「僕は…助かったんだ…」

「そうだよオプローケ!良かったぁ…手術が成功したって聞いた時は安心したけど、このまま君が目を覚まさないんじゃないかってずっと心配だったんだよ…」

「ユウティ…」

隣の患者兼友人も、自身の身を案じていてくれたらしく、涙を流している。

「僕だけじゃないよ。みんな、君の手術が成功することを祈って、君が目を覚ますのを待ってたんだ…」

「!」

ユウティが、短い腕に顔を近づけ涙を拭いながら話すみんなとは、オプローケが上半身を起こした先にいた。

「ズーケン…それにみんなも…!」

オプローケの正面には、昨日友達になったばかりの4人の少年達の姿があった。

「や、やぁオプローケ…昨日は、ごめん…。僕も来ちゃったけど、いいかな…?」

オプローケと目が合って早々ズーケンは頭を下げ謝罪した。彼は、昨日のバウソーのことを引きずっている為、どこか気まずそうだ。

「今朝ズーケンから電話が来て、オプローケのお見舞いに行きたいって言ったんだ」

「んで、元々ヘスペローと行く予定だった俺んとこにも連絡が来て、じゃレーガリンも誘うかって話になったんだよ」

「バウソーは誘わなかったんだけどね」

「おい」

また余計な事を口走ったので、ペティが注意するレーガリンの隣で、ズーケンは俯いてしまっている。

「ズーケン。僕、昨日ズーケンは来てくれないんじゃないかって思ってたから、今日会えて嬉しいよ。だから、ありがとう」

「…!」

ズーケンは昨日、バウソーだけでなく、彼のことでオプローケにも嫌な思いをさせてしまったのではないか。そんな自分が見舞いに来てもいいのか、ずっと悩んでいた。だが、もし自分がオプローケなら、来てほしくないと思うだろうか。少なくとも自分だったら、そうは思わない。オプローケも同じか分からないが、せめて謝りたかった。そんな思いで、祖父達に会う前にヘスペローに連絡したのだ。そして今、オプローケから、ありがとうと感謝された。その言葉でズーケンは、心が救われるような気がした。

「みんなも、来てくれてありがとう。僕の手術が上手くいったのは、きっと昨日みんなが僕のことを励ましてくれたおかげだよ」

「そっか。来て良かったよ。きっと、お祖父ちゃんも喜んでいるよ」

嬉しそうに笑うオプローケを見ていると、ヘスペローも自然と笑顔になれた。

「そうだ…夢の中で、お祖父ちゃんに会ったよ」

「やや!そうなのか!」

ヘスペローとの会話で、夢の中で祖父と過ごしたことを思い出したオプローケは、その内容を全員に語る。いつもの夢なら内容もろくに覚えていないが、今回は何故だか、駄菓子屋やおもちゃ屋に行ったこと、そこでの祖父との会話の内容、祖父から言われたこと等細かく鮮明に覚えている。

「そうだったのか…。会いに来たんだろうな。お祖父ちゃん、オプローケのこと大好きだったし」

「そうね…きっと、お祖父ちゃんが守ってくれたのね…」

生死の境を彷徨う我が子を助けてくれたのだろう。夫婦はそう思い、彼に感謝しながら再び涙を流していた。

「どうやら多分、マニヨウジから解放されたみたいだねぇ」

「だな。オプローケの手術が上手くいったから、もう安心したんだろ。これで、成仏できるかもな」

オプローケの祖父が最後、バスに乗って去っていった結末を聞く限り、もう彼に未練はないのだろう。あとは、ルーズ達が彼を成仏させるだろう。

「みんなもありがとう…。オプローケのお見舞いに来てくれて…」

「いやいやそんなそんな…あう」

オプローケの母親に感謝されると、ズーケンは両手を振って謙遜する。オプローケの手術に関しては、オプローケの祖父のおかげだと思っていたからだ。最も、一番の功労者は彼を手術した医師だ。ふとズーケンがそう結論づくと、病室のドアが勢いよく開かれる。

「オプローケ!手術は…」

「!」

彼はドアを開けた直後、最初にとある人物と目が合う。彼らは互いに、咄嗟に目を逸らしてしまった。

「ど、どうかしたの?」

昨日のことを知らないオプローケの両親からして見れば、今何故少年達の間に気まずい空気が流れているのか理解出来なかった。彼の父親が困惑しながら尋ねても、誰もが説明に困っていた。

「バウソー。折角お見舞いに来たんだから、早く来なよ。ほら!」

「あ、ああ…」

ユウティはベッドから下り、病室の入口前で佇む彼の手を引き、オプローケの前まで連れて行った。その際ユウティは、バウソーから顔を背けたままのズーケンを隠すかのように、彼の前に立った。ズーケンとバウソーが、お互いに顔を合わせないように。

「オプローケ…手術は上手くいったんだな。良かった…」

「バウソーも、来てくれてたんだね。ありがとう。みんな来てくれて、嬉しいよ」

まだ気まずさは拭いきれないからか、少々溜息混じりに話すバウソーは浮かない表情だ。オプローケは咄嗟に笑顔を作る。祖父からズーケンに寄り添うよう言われたものの、今はそれが精一杯だった。

「そうだ。お前に土産を持ってきたんだ。ほら、これだ」

「あ!」

バウソーが、右手の二本指に挟んでいたあるものの存在を思い出すと、それをオプローケに差し出す。それを見たオプローケは驚いた。

「これ…夢の中でお祖父ちゃんに貰ったお菓子…」

「何⁉そうなのか?」

バウソーも驚いた。たまたま買ったお菓子を、見開いた目で見つめるバウソー。すごい偶然もあるもんだ。

「バウソーも、それ好きなの?」

「いや、俺はそもそもあまり甘い物は食べないんだが、何故だか知らんが気が付いたら駄菓子屋に入って、気が付けばこれを買っていた。俺もよく分からんが…こいつが目についた時からどうも気になってな…まあ、とにかく受け取ってくれ」

「あ、うん…」

レーガリンに尋ねられたバウソーは、自分でも何故買ったか分からない駄菓子を、ひとまずオプローケに渡す。オプローケは、バウソーと同じ不思議そうな顔で受け取る。

「もしかしたら、お祖父ちゃんからのプレゼントかもしれないね」

「なら、ちょっと食べるの勿体ないかもねぇ。とっておけば?」

オプローケは、ヘスペローの言う通り、このお菓子は祖父からの最後のプレゼントなのだろうと感じた。レーガリンの言うように、ずっと取っておきたい気持ちもあったが、それが祖父の、バウソーの気持なのだろうか。

「いや、食べるよ。おじちゃんからの、バウソーからのプレゼントだもん。その気持ちを、ちゃんと受け止めるよ」

きっと祖父なら、バウソーなら、食べてほしいと思うだろう。なら、食べるべきだ。ただ、二人の気持ちに感謝しながら、大事に食べようと決めた。


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