ダイ1時代 ユウは何者 拙者はザナバザル バザルでござる
「うわああああっ!!!」
誰もが寝静まる真夜中、目と口を大きく開き布団から飛び起きる、ティラノサウルスによく似たズケンティラヌスの少年ズーケン。彼は滝のような汗を流しながら呼吸を荒くしている。彼は時折、悪夢を見る。災厄の怨霊によって、心身共に深い傷を負わされたあの日の悪夢を…。
まるでモンスターを捕まえて育てるゲームに出てきそうな恐竜達が暮らす星、ダイチュウ星。ここはとある墓地。たくさんの墓石が綺麗に整列されている中、その内の一つラーケンと刻まれた墓石の前に、ズーケンとその両親、父親のズケンタロウ、母親のアティラと共に手を合わせている。目を閉じているだけで眠ってしまいそうな程眠気を感じているズーケンが、10人の親友達と共にマニヨウジとの戦いを制してから早一か月。今日は50年前に世を去ったラーケンの月命日であり、ズーケン一家は墓参りに訪れていた。
「それじゃ、いきましょっか」
「うん…」
それぞれ亡き父、亡き義父、亡き祖父に合掌し、それぞれの思いを伝え終え、もしくは数秒の仮眠を終えた一家は、次の目的地へと向く為、その場を後にする。その際ズーケンとズケンタロウは、アティラの瞳に闘志が漲っていることを感じ取っていた。
「ぎぇあああああああああ!!!」
一家が向かったのは、とあるショッピングモール。そこの一階にある洋服店では、ただいまバーゲンセールの真っ最中である。そこでアティラは、次々と他の女性達と共に雄叫びを上げながら、値下げの札がかけられた衣類を次々と買い物かごに入れていく。
「いやはや…ありゃすごい…」
「母さんはバーゲンになるといつもあんな感じだからね…俺達はここで見守ってよっか」
勢い任せに、片っ端からに見えて、予め定めておいた品物を一着一着素早く確実に確保しているアティラ。二人が圧倒されている中、彼女が狙っていた最後の一着を手にかけた直後、アンキロサウルスのような鎧竜ズールの女性が、それを阻む。
「んげぇっ!」
「それは私のよ!よこしなさい!」
「んぎぃっ!」
「ぬぅおおお!」
力が入るあまり、ほぼ唸り声しか発さなくなった両者が、猿のイラストがプリントされたTシャツを引っ張り合い、その闘志と執念をぶつけ合う。
「離しなさいったら離しなさい!」
「んげげげぇ!!」
「あやや…」
「ズーケン。おもちゃでも見に行こうか」
これ以上は教育上問題が発生する。そう判断したズケンタロウは、我が子を連れ一旦2階にあるおもちゃコーナーへ向かおうと判断した。
「流石ルーズ殿。バーゲンになるとすごい気迫だ」
「隣のご婦人も凄い迫力ですよ。ありゃティラノサウルス…のマダムかいな。ルーズはんと渡り合うとは、スーパーレディですわ」
その直後、まるでモンゴルの修行僧のような恰好をした二人の男が、おそらくアティラのことを褒め称えている。一人はオヴィラプトルに似た長い脚と尾を持ったオウムのような、もう一人はヴェロキラプトルに近い姿をしている。二人は、あのズールの知り合いなのだろう。いつもなら妻のことを褒められるのは嬉しいが、今回はどうも恥ずかしい。その一方で、女の戦いは続く。
「しつこいわね!いい加減離しなさい!」
「ぎぎぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
無意識の内に引っ張り合いながら回転する両者。その際、アティラの視界に、我が子の姿が目に入る。
「あ…」
その瞬間、ふと我に返ったアティラ。その際、ズールに言われた通り服から手を離してしまう。
「きゃああああああたっっっ!!」
すると、アティラと引っ張り合うことでバランスを取っていたズールの態勢も崩れ、彼女はそのまま背中を床に叩きつけた。
「あいた!!」
「あっ!ごめんなさい!ちょっと大丈夫ですか⁉」
血走った目をしていたアティラは血相を変え、ひっくり返ったルーズの身体を抱き起こす。ルーズのような鎧竜は一度ひっくり返ると、中々自力では起き上がれないのだ。
「母さん!」「ルーズ殿⁉」「や!あっ!」
「ありゃま!こいつはいかんな!」
思わぬ緊急事態に、少し離れた位置から見守っていた、それぞれの付き人達も二人の元へ駆けつける。
ズーケン一家、占い師のようなルーズと僧侶のような二人の男達。この出会いが後に、新たな戦いの始まりとなることを、ズーケンはまだ知らない…。
「先程は大変申し訳ありませんでした…」
「いえいえ。私もつい感情的になっちゃって…」
ショッピングモールの2階にあるフードコーにて、向かい合うように座るズーケン一家とルーズ一行。アティラとルーズ。つい先程まで、一つの服を争っていた同士とは思えないくらい両者共に縮こまり、頭を下げ合っていた。
「ズーケンもごめん。怖がらせちゃったよね…」
「ほんとほんと。こんなに小さな子に情けないところを見せちゃって…」
「いやいやそんなそんな」
ズーケンは見慣れてはいるので、恐怖は然程なかった。それに、母が元気な証拠ではある。
「まあこれで一件落着や。そんで、紹介が遅れましたわ。あちきはキチパチのパチキチ、僧侶やっとります」
「同じく僧侶のザナバザルの、バザルでござる」
「僧侶…というと、お坊さんなんですか?」
「そうや。南無阿弥的なやつや。そんで、お父さんは?」
聞いたことがない表現だが、意味は伝わる。
「僕はズケンタロウといいます。会社勤めをしています。二人は、妻のアティラと息子ズーケンです」
「どうも」「どうもどうも」
母子はほぼ同時に一礼し、ほぼ同じタイミングで顔を上げる。それが可笑しく微笑ましかったからか、ルーズとキチパチは思わず笑みを浮かべた。バザルは、特に可笑しいとは思わず、二人と同じ様に礼で返した。
「そうかそうか会社員でっか。そら大変やなぁ。あちきも昔やっとりましたが、どうも性に合わんかったようで1年も持ちませんでしたわ」
「そうだったんですか…。まあ、合う合わないはあると思いますからね」
本来なら苦い思い出の筈だが、キチパチは単なる思い出話のように笑い飛ばしていた。会社勤めが出来なくてもどうにでもなるらしい。ズーケンはカレーを頬張りながらなんとなくそう思った。因みにカレーのような地球の食べ物は、ダイチュウ星にも数多く浸透しているが、材料は地球とは異なる場合が多い。ズーケンが食べているから揚げカレーのから揚げは、鶏ではなくヒライドリいうダイチュウ星独自の鳥である。かつて地球に実在した雷鳥の一種ヒースヘンによく似ており、地球でいう鶏のような存在となっている。さらにズーケンはカレーをスプーンで食べているが、二本の指でスプーンを持っているのではなく、スプーンの柄の先にある差し込み口に二本指をはめて使っている。ダイチュウ星では、種族によって手の形や指の数が異なる場合が多く、それぞれの種族に合わせた食器等が存在している。
「そしてあたしはズールのルーズ。霊能力者をやってるわ」
「ええっ⁉」
ルーズはさらっと紹介したが、一家は揃って目と口を大きく開ける。僧侶はラーケンの葬儀のことで、何度か会ったことはあるが、霊能力者は初めてだった。しかも、まさかバーゲンセールで一着のシャツを争った相手が、本物の霊能力者だったとは…。
「びっくりしたでしょ?私も普段自分からは名乗らないんだけどね。だって、胡散臭いでしょう?霊能力者なんて」
「い、いえそんなことは…」
ルーズは自虐しつつ豪快に笑い、片手の紅茶を一気に飲み干す。その時、自身が霊能力者であることを、アティラだけは半信半疑なことを見抜いた。
「まあ、あなた達の場合は、ご先祖様のご加護が強いみたいだけど…特にお父さんのお父さん…あなたのお祖父ちゃんの霊が強いわね。それこそ、悪いオバケと戦うぐらい」
「ぶべっ!」
「ちょっと大丈夫?」
アティラに背中をさすられるズーケン。危うく、ついさっきに口に入れたばかりのから揚げを、丸ごと戻すところだった。
「それに、もう一人。あなた達のことを見守っている子がいるわ。その子、なんだか嬉しそうだわ。最近、色々あったんじゃないかしら?」
「!!!」
その瞬間、ズーケンの背中をさすっていたアティラの手が止まる。彼女の言う通り、一か月前色々あった。ただ、同じ最近でも、揃って顔を見合わせるズケンタロウとアティラ、固まるズーケンとではかなりの差があった。
「あなた達、よく頑張ったわね。辛かったでしょうけど、もう大丈夫よ。あの子、安心しているわ」
「…!」
アティラは、ルーズのその言葉を聞いただけで、思わず涙が溢れそうになった。どんな形でも、あの子に会えるのなら。かつて第二子を喪った後、その考えが何度も過り霊能力者を頼ることを考えていた時期があった。だが、あたしにはズーケンがいる。遺された最後の息子が、母親を子を喪った現実に引き戻し、前を向かせたのだ。以来、今を生きる我が子と向き合う為に、霊能力者のことを考えないよう、霊能力者の存在そのものを信じないように生きてきた。だがそれも、たった今終わりを告げた。
「ありがとうございます…」
アティラが涙ぐみながら深く頭を下げると、ルーズは穏やかな笑みを浮かべる。長年アティラの心にあった葛藤を終わらせることが出来て、ほっとしたようだ。
「…?」
さらにルーズは、既にカレーを完食したズーケンの方に目をやる。だが、ズーケンは彼女と目が合わない。彼女が見ているのはズーケンではなく、その後ろのようだ。さらに、ルーズの両隣の僧侶達も同じところをじっと見つめている。しかし、そこには誰にもいない。
「皆さんは、どういった関係なんですか?」
すっかりルーズを信頼し切ったアティラは、彼女自身に踏み込む。
「私達は仕事仲間みたいなもんで、今日もちょっと調べたいことがあって二人に一緒に来てもらってたんだけど、その帰りに今日のバーゲンセールのことを思い出して付き合ってもらったのよ。でも私って絶対一人じゃ持ちきれない程買っちゃうから二人がいてくれてよかったわ~!でもやっぱりあんまり持たせちゃうと悪いから加減はしてだんだけどね~」
「分かります~!私も夫と子供連れているからあんまり持たせられないと思って~!」
「エラいわあなた~流石お母さんね~!」
「いえいえ私なんてまだまだです~!ルーズさんこそ立派です~!」
バーゲンセールではあれ程バチバチしていた二人が、今では互いを称え合いパチパチしている。二人は良い友達になれそうだ。一時は苦労した荷物持ち達3人は、揃ってそれぞれの主を温かく見守りながらそう思えた。
「ところで皆さんは、どうして今の道に?」
かつてアティラは、以来、始めはルーズが霊能力者であることを、霊能力者そのものを疑っていたアティラだったが、今ではすっかり心を許し、信頼し切っていた。が踏み込む。
「家業を継いだもので」
「私は生まれた頃からなんかそれっぽい力があったみたいで修行したらあれよあれよとこの通りよ」
「なんかいけたのですわ」
「そんな馬鹿な…あ」
ズーケンは思わず、心の声が出てしまった。そして、年上相手にタメ口をきいてしまったと焦り後悔した。
「かまへん。驚くのも無理はないわ。それに、子供やからな。それでええんや」
「そうよ。あたし達いい加減だったものね。気にしないで」
「ややぁ…」
しかし、当のパチキチや、他の二人も特に気にしていないようなので、そこは安心出来た。
「ま、何かあったらここに連絡してちょうだい。相談は無料ヨ。いつでも待ってるからね」
「あ、ありがとうございます…」
ルーズは、テーブルに名刺を差し出す。ただし、ズケンタロウとアティラではなく、ズーケンに向けてである。名刺には、霊能力者の館おもんズール 代表取締役 ズール と書かれている。ズーケンは何故自身に差し出されたかは分からないが、なんとなく保育園の卒園式の賞状を受け取った際の要領で両手で受け取った。
「それじゃ、またね。ズーケンちゃん」
「ほなまたな」
「御免」
「や、はい」
陽気に小さく手を振るルーズ。軽く手を挙げるパチキチ。両手拳を握り律儀に一礼するバザル。バザールによって引き寄せられた奇妙な出会い。名刺をまじまじと見つめるズーケンはなんとなくだが、妙な胸騒ぎと、両肩の重みを感じていた。
「あ。ほら、ズーケン」
「やや。んが、あむ」
すると、ズケンタロウが、ズーケンのカレー皿に残ったから揚げを箸で取り、ズーケンの口元に近づける。ズケンタロウの箸は、ズーケンのスプーンと同じように二本の指をはめて使うタイプである。名刺を両手で受け取ったズーケンは、ズケンタロウから残ったから揚げを、大口で受け取った。
翌日。学校にてズーケンは、教室に入って早々レーガリンに一枚の写真を差し出された。
「ちょっとズーケン。これ見てよ」
「ややや?」
それは以前マニヨウジを倒した記念に四人で公園に行った時、レーガリンの子供用携帯電話で撮影したものだ。タイマー機能を利用して撮った勇敢な友人達の集合写真。己含めてみんな良い笑顔だ。みんなでだるまさんがころんだやら滑り台やら雲梯やらで遊んだ、色んな楽しい思い出が出来た。
「ほらここ」
逆上がりに挑戦するヘスペローの、背中に生えた棘をなるべく触れないよう支えたり、ジャングルジムから足を滑らせ背中を強打したペティの背中をさすったり、ブランコに乗るレーガリンの背中を押してあげたり等々、何かと背中で語られる思い出が多い。一応、ズーケン自身も3人と遊具で遊んではおり、ちゃんと楽しい思い出にはなっている。それらを振り返っているとレーガリンが、写真の中のズーケンの左肩を指差す。
「やや…あ」
ズーケンが注視すると、己の肩に手のようなものが乗っかっている。しかもそれは、ズーケン自身は勿論、他の3人のものではない。ということは…ズーケンはその場で固まってしまった。
「これって多分…あれだよね」
レーガリンの言うあれとは、たまにテレビで人の目元にからし昆布のようなものが敷かれている、心霊写真のことだろう。
「やっぱり…」
「どうする?持っとくのも気味わりぃけど、捨てるのもなんかアレだし…」
二人の元へ集まるヘスペローとペティも内心、心霊写真だと思っていたようだ。早めに手放したいところではあるが、粗末に扱うと祟られそうな気もするので処分に困る。
「お前ら、こんなところで何やってんだ?通れねぇじゃねぇか」
「やや、すいません」
教室の出入口前に集合したせいで、担任であるモトロオの通行の妨げになってしまっていたようだ。ズーケン達4人はそそくさと出入口から離れ、道をあけるかのように左右に2人ずつ整列した。
「そうだ。先生、これ見てもらっていいですか?」
丁度良かったので、レーガリンはモトロオに例の心霊写真を見せる。
「うん?へぇ。仲良しで結構じゃねぇか。これがどうしたんだ?」
「ズーケンの肩のところをよく見てください」
「ん~?」
教え子達の仲が良いのはいいことだ。微笑ましく思いながら写真を眺めるモトロオだったが、レーガリンの言われた通り目を凝らしてみると、例の手を発見する。
「これ、誰だ?」
「いや、僕達にも分からないんです。あの場には僕達4人しかいなかったので、僕らにもさっぱり」
「ほんとか?」
「本当です。いたら絶対気付きますからねぇ」
「ってことはじゃあ…」
モトロオは写真を見つめ、すぐに固まる。
「ぎええええええええええええ!!」
謎の手の正体。今自身が手に持っているものは何か。その答えに辿り着いた時、気が付けばモトロオは両手を振り上げて写真を放り投げていた。
「んもぅ。何も投げなくてもいいのにぃ」
モトロオが教室中の全児童の注目を集める傍ら、レーガリンは宙に舞った思い出の心霊写真を、両掌に乗せてキャッチする。
「と、とにかくお前ら…俺にはもうそれ見せるな…。早く寺にでも小屋にもでいってお祓いしてもらってこい!」
「もう塾は行ってますって」
唯一塾に通っているレーガリンだが、勉強は教えてもらえるが霊の対処法は教えてもらえないのは言わずもがな。
「先生どうしたの?」「ねぇそれ見せて!」「いいけど指紋つけないでよ?」
モトロオが悲鳴を上げ、教壇の裏で震えるモトロオには、クラスメイト達は興味津々だ。集まってきた同級生にせがまれ、レーガリンは渋々だが満更でもなさそうに写真を渡す。
「やば!こわっ!」「すげぇ!テレビで見るやつじゃん!」「3日以内に違う奴に回さないと不幸に…」
おそらく初めて見るであろう実物の心霊写真に、クラスメイト達は驚き怖がり興奮し各々の反応を見せた。
「ねぇ。やっぱりどこかでお祓いに行った方がいいかな…?」
「そこまで気にすることねぇとは思うけど…まあこのままだと、どっか気味わりぃよな…」
「むむむ…」
お祓いに行くべきか否か…。行くべきだろうが、どうも踏ん切りがつかないズーケン。お祓いなどコンビニ感覚では行けないのだ。
「お前ら、お祓いに行くんだったらちゃんと大人と行けよ?」
「ならば先生が」
「いや、俺は遠慮しとく。夜はちゃんと寝たいからな…」
霊が怖くとも、教団の裏で丸くなりながらも、モトロオの児童達を思う気持ちは健在だったが、霊そのものには勝てず。ズーケンの頼みを途中で遮る程、霊が苦手らしい。
「やや、左様ですか」
「左様だぜ…」
「いやはや…や」
不眠の原因はなるべく取り除いた方がいい。モトロオの同伴を断念した直後、ズーケンは昨日の出来事を思い出す。
「ならば二人共、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」
ズーケンは昨日出会った霊能力者と僧侶について、まずはヘスペローとペティに話すことにした。レーガリンは今、思い出の一枚にクラスメイトの指紋がつかないよう見張っていたからだ。
放課後。下校の時間となったズーケン達は昇降口前に集まり、例の心霊写真について話し合っていた。ズーケンが今朝ヘスペローとペティに話した昨日の出来事については、1時間目の授業が終わった後レーガリンにも話した。ただ、先に二人に話したことについては、レーガリンは少々ふてくされたようだった。しかし、霊能力者と僧侶自体には興味津々であり、ルーズに写真を見てもらうことには大賛成だった。だが、子供である自分達4人だけでルーズの元へ赴くのは流石に不安ではある。そこで、一度それぞれの保護者が同行してくれるかどうか確認を取ってから、また後日この話を進めることになった。一旦区切りがついたところで、一行は帰路につくことにした。
「やや、あなたは…」
校門を出た直後、一人の僧侶が待ち構えていた。
「待っていた。そなた達に話がある」
「えっと…どちら様ですか?」
その僧侶は、レーガリン達3人から赤の他人だったが、ズーケンにとっては、見覚えのある人物だ。
「拙者僧侶の、ザナバザル。バザルでござる」
「僧侶?えっと…ザナバザルが種族で、バザルが名前で合ってます?」
「左様。事は急を要する。ただちにルーズ殿の元へ来てほしい」
「そんなこと言われましても、見ず知らずの人にはついて行くなと教育されているんです」
「やや、そりゃそうだ」
子供なら誰もが親から注意されることであり、中でも元々しつけが厳しいレーガリンと、弟と死別したズーケンは特に強く言われている。
「百も承知。だが、昨日我々はズーケン殿達に巡り会い食事を共にした。少なくとも、ズーケン殿から見れば拙者は見ず知らずの者ではない」
「やや…確かにそうか…やや?」
バザルの言う通り、一応話に嘘偽りはなく初対面ではないが、知り合いとも言い難い。ズーケンは納得しつつもなんとも言えない違和感を感じた。
「ってか、ルーズって誰だ?」
「ルーズ殿は、ダイチュウ星きっての霊能力者でござる。そのルーズ殿が今公園で待っている。これから拙者も合流し、そなた達を待つ。これならそなた達は拙者について行くことはない。これでどうだ?」
「いやいや…それはそれでどうなんだ…」
屁理屈且まるで技を出すかのような言い回しのバザルに、ペティは困惑しながら彼の常識を疑った。
「ズーケン殿。其方に其方ににとってとても重要でござる。どうか公園に来てくれないだろうか?」
「…か、考えておきます」
怪しさ全開の頼みだが、断るのも申し訳ないので、ズーケンはひとまず保留を選んだ。
「そうか。では、御免」
返事を聞いたバザルは、4人に一礼するとすぐさま踵を返して公園へと向かった。
「どうしよう…。ズーケンにとって大事なことみたいだけど、正直僕はちょっと…」
「そもそもあいつマジの坊さんなのか?はっきり言ってめちゃくちゃ怪しいぞ?」
「公園でこの時間帯ならまだ人はいると思うから変な真似は出来ないだろうし、どう考えても不審者だけど…面白そうなんだよねぇ…。気になるならチラ見だけでもする?」
「ううむ…」
徐々に小さくなっていくバザルの背を見つめる4人。ヘスペローは迷い、ペティは疑い、レーガリンは冷静に分析しながら親の言いつけと好奇心の間で揺れ動く。もう大分変な真似はしていたであろうバザルの言葉を信じるかどうか。彼らの意見は割れた。そしてズーケンは、バザルを信じたいと思った。しかし、3人を付き合わせていいのだろうか。もし万が一彼らに危険が及ぶようなことがあれば…。ズーケンは葛藤する。果たして彼らの決断は…。