4
「はぁ」
疲れた。
この2日間本当に疲れた。
何がって、新しい学校のことやらもそうだが、ともかく食事が辛い。
なんで、食事に全力を出さなきゃいけないのか……。
まだ普通のご飯を食べている方がコスパがいいくらいだ。
「で?この間は何やら様子が変だったけど、ホントに電話だったのか?」
「うん......。まぁ、その。そうなんだよね。向こうが変な事言ってきたから、つい言い返しちゃって」
「ふーん。そっか。まあ、いいけど。お前学校大丈夫か?久々だろ?」
「えっ⁉そっ......そうだね」
林太郎の思いがけない魔球に、思わず視線を泳がせる。
街路樹の隙間から校舎が見え、その手前には疎らではあるが、同じ制服を着た人が何人か居た。
「……」
ある者は自転車に乗り、ある者は何やら機嫌良さそうに歩き、ある者は何かを忘れたのか、大急ぎで引き返す。
「……」
この間、あんな事があったから、周囲に対して異常な警戒心が......。
「なあ、聞いてるか?」
「⁉き......聞いてる聞いてる」
「でも、よかったよ。始まっていきなり休みがちだったから、てっきりアイツの事を気にしてるのかと思ったけど」
「?」
わからないんだけど、誰の話してるの?なんて言ったら、薄情な奴だと思われそうだ。
かと言って何も考えずに「はい、そうです」とも言えない。
「......いいや、それは別に、ね」
誤魔化せたか……?
「......そっか」
どうやら、誤魔化せたらしい。
そして林太郎とのこの会話で、また新しい事がわかった。
どうやら、同じクラス、いや同じ学年、いや同じ学校に少なくとも1人、関係の複雑な生徒が居る。
「何もわかってないだろ」と爆笑している右目、後で覚えてろよ。
「ん?何か言った?」
「いや、何にも言ってないよ」
何やら右目がごちゃごちゃと何か言ってきてはいるが、今は無視。
とりあえずは、目の前の問題を1つずつ解決していく事が大事だ。
教室のメンバーをチェック、教科ごとの先生やご近所さん。
そうだ、この際だからバイトも始めよう。
もし何かあった時に、手元にお金があれば、後々役に立つ筈だ。
「そういえば、石上は自分の教室がどこかわかるか?」
「あぁ、うん。それは大丈夫だよ」
そこら辺の話は、この間の夜に会ったアイツから大体聞いた。
確か......そうだ。堀健太だ。
アイツ曰く、私はアイツと同じクラスでアイツの1つ前の席だと。
これさえわかれば、どうとでもなる。
今更だけど、この前は変な所を見られたから、少しだけ気まずいな。
「じゃ......じゃあ、また後でね」
「おう、またな」
林太郎は日直の仕事があると言って、先に自分の教室へと向かって行った。
「あいつの色は白いから、もう少し気軽に接しても大丈夫だな」
右目に浮かび上がるこの赤い紋様。
これが、右目の力の1つ。
これによって、今のアタシは石上にとって、その相手が信頼のある人か、そうでないかがわかる。
色なしは普通。
近寄らなければ、基本的には大丈夫な相手。
わかりやすく言えば他人みたいなもので、過半数はこれに該当する。
そして、次に白。
これは、林太郎のように石川がある程度心を許して話せる人物にのみ、さっきのように白いオーラが見える。
最後に黒。
これは白の逆で、石川が関わること自体に強い抵抗がある人物にのみ見られる。
ただ、この色に関してはあくまで指標の1つでしかなく、相手が白だから良い奴で、黒だから悪い奴という訳でもない。
まあ、それでも参考程度には役に立つだろう。
例えばそう。
「さっきから少し後ろをただついてきてる。あの女みたいなやつは要注意だな」
廊下の角を曲がると同時にさりげなく、視界の端に入れた。
その女の色は黒。
見ただけでは、どんな相手かはわからない。
けれど、わざわざこんなコソコソと付きまとってくる辺り、少し特殊が何かがあるのかもしれないが、少し鬱陶しい。
今は中身が違うせいもあり、少々肉体の性能が良くなっている。
そのせいで、人の視線が余計に気になる。
ともかく、人間関係に関しては無理に深入りしたくない。
「ひとまず無視だな」
気づいてないフリをして、そのまま自分の教室に向かう。
学校には早めに来たという事もあり、まだ校内の人数は少ない。
とりあえずは、視界に入った人全員の色を見ていく。
「.........」
無色じゃなくて、やっぱり何か色が欲しい。
こうも全員が無色だと、本当に合ってるのか気になってしまう。
「おい、めっちゃ見られてるぞ」
所々でヒソヒソと、何かを話しながらこちらを見てくる。
右目はさっきから疑うだのなんだの言ってきているが、疑いたくなる気持ちくらい察してほしい。
確かに、頼まれたモノを集める代わりに色々要求したが、初っ端からこんな感じだと先が思いやられるぞ。
「はぁ……」
まあでも、今は疑っても仕方がない。
そもそも頼れるものが全くない今、こんなペテン紛いでもないよりマシだ。
だから、ここは素直に......素直...に.........。
ひとまず、おとなしく席に座ろう。
幸い、教室にはあの堀健太が先に来ていたから、自分の席の位置はすぐにわかった。
「あっ、石上さん。おはよう」
「お、おはよう」
そんな何気ない挨拶をかわし、自分の席に座る。
しばらくすると、徐々に教室の人数も増え、賑やかになってきた。
今のところ、黒も居なければ、白も居ない。
個人的には、一番ありがたい。
「......ケホッ」
後ろには堀健太。
左右の席には誰も座っていない。
そして前の席も。
ホームルーム開始の時刻までにはもう少し時間があるが、まさか休みか?
「でさ、今日の朝ね。ちょっ⁉何急に横から入ってくんのよ」
「......すみません、通ります」
別に急ぐほどの時間でもないはずだが、女子2人組の間を無理矢理突破し、私の横に座った。
「ちょっ......最悪!」
「マジであんなのと席が近いとか嫌なんですけど......てか今私らの間通る必要あった?」
時間ギリギリで入ってきた女子2人組と、その横から体をねじ込むように通り過ぎていった男。
「.........マジか」
残りの席はちょうど3。
そして人数も3。
隣の席には、横から無理矢理入ったあの男。
前の席には、ちょっと偉そう中央で最初に喋った茶髪。
雰囲気からするとこっちの方が若干立場は上か。
そして、もう1人は少し右に。
「全員白だけど、これ本当にあってるんだよな?」
けれど、これに限っては嘘であってほしいと思ったが、右目が見た瞬間に少し笑った辺り、これに限っては本当なのだろう。
「ケホッ......」
最悪だ。
読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は未定です。