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19.ドS勇者の誤算

 その後、カルザフの仲介で盗賊ギルドの酒場スペースで他の盗賊と交流した。


「どうだ、馴染めそうか?」

「うん、大丈夫だと思う」


 感想としては……悪党だけど、いい奴らって感じ。

 クアナガルなのにエルフが一人もいないのは不思議だったけど、よく考えたら盗賊ギルドなんて人間区画もといスラム街の延長みたいなもんだよな……。


「ま、見ての通りだ。盗賊ギルド支部といっても、ナイトフォックス物語に出てくるような機械仕掛け満載の秘密アジトじゃないし、古代文明の魔法技術で空を飛ぶ乗り物もないんだよ……」

「さすがにそこまで夢見てないって」

「そうだったのか?」


 カルザフの口ぶりは少し残念そうだった。


「……カルザフ、絶対にナイトフォックス物語に憧れて盗賊になったクチでしょ」

「ははっ、そんなわけないだろ」


 さすが盗賊。顔には出さない。


「ところで、支部長のことだけど……」

「ああ、まあ……ああいう男だ。俺に仕事のやり方を教えてくれた先輩でもあるんだが――」


 カルザフによると、最近のシアード支部長は支部長室に篭もっていて、滅多に出てこないらしい。

 支部長ともなれば気ままな上納金暮らしができるってことなのか、本当に仕事熱心なのかはわからない。

 見えない敵にイライラしているんだろうとカルザフは言った。


「だからって、いきなりシアードが新人に仕事を投げてくるとはな……」

「そういえば、ああいう任務みたいなのってあるんだね。みんな好き勝手盗んでいくんだと思ってた」

「ん? もちろんそうさ、任務中だってギルド会員以外のところから好きなように盗んでっていいぞ。少なくともこの街のギルド員なら衛兵は賄賂で買収できるしな。まあ、この街の外は……正直厳しくなってきてるが」

「例の敵の攻撃?」

「それもある。だが、それ以前から盗賊ギルドは落ち目なのさ。まあ、そういう時代ってやつなんだろうな……」


 確かに、盗賊ギルドのやり方は古臭い。

 とてもじゃないけど、殺さずのスタイルなんて……今の時代じゃ通用しないのだろう。

 昔気質な盗賊の時代は終わろうとしているのだ。


「さて、俺もそろそろ仕事に戻らないと。お前もバリンガスに仕事の話を聞いていくのを忘れるなよ」


 言われるまでもない。

 出かけるカルザフに別れを告げてから、早速バリンガスのバーカウンターに向かう。


「改めてよろしく、バリンガス」

「なあ、ユディ……お前はユーディエルって盗賊名なんだよな?」


 ん? なんだやぶからぼうに。


「そうだけど。何か?」

「ああ、お前にとって重要かもしれない情報がさっき入ってきた」


 これはひょっとして……。


「ラグナールに何かあった?」

「……あー、駄目だ。最近物忘れが激しくてな。どうする、俺に記憶を思い出させる薬を買わせるか?」


 すっとぼけてみせるバリンガス。

 もちろん、言葉通りの意味じゃない。情報を持っているから買うかどうかを聞いて来ているのだ。

 間違いなくラグナール絡み……盗賊ギルドを除けば、ユーディエルの名前はラグナールにしか出してないし。


「はい、これ。『薬代』だよ」

「おお、ありがとう。そうだ、薬を買えると思ったら思い出した」


 カウンターに金貨を20枚置くと、バリンガスがわざとらしい口調でそう言った。


「なんでもスラムで飲んでたラグナールをソグリム人の男女二人組が連れて行ったらしい。しかも探してるのはタグリオット殺しの下手人のピゥグリッサと、ユーディエル。お前だ」


 ソグリム? 地理的にも真反対のクアナガルで?

 それに、なんでソグリム人がユーディエルを探してるんだ?

 しかもピゥグリッサまで……。


「ああ、そういえば……連中はハーフエルフにいたくご執心だそうだ。ラグナールが口に出した途端、奴に絡みだしたらしい」


 聞いた瞬間、脳が沸騰しそうになった。

 落ち着け……頭をカッカさせるな。

 こんなときこそ冷静にならないと。


「他には?」

「いや……今思い出せるのはこれぐらいだな」


 盗賊ギルドが掴んでいるのは、そこまでってことか。

 僕はさらに30枚の金貨をカウンターに置いた。


「今後も何か思い出せそうなら、すぐに教えて」

「わかった。じゃあ、例の仕事の話に移るとしようか……」


 バリンガスがシアード支部長の任務について詳しく説明してくれた。

 案の定、厄介そうな話だったけど……ギフトがあればそこまで難易度は高くない。


 そうだな……下手に動いても、こちらが捕捉される可能性が高くなる。

 相手が何者かもまだわかっていない。ギルドに調べてもらった方が得策だ。

 今は仕事に集中するとしよう……。





「ただいま」

「おかえりなさいませ、ユエル様!」


 宿に帰った僕をティーシャが心配そうに出迎えてくれる。


「大丈夫ですか? 何かされたりとかは……」

「してないしてない。それよりティーシャ。この宿は早めに引き払った方がいいかもしれない」

「え?」


 僕はティーシャにバリンガスから聞いた情報をそのまま伝えた。

 

「ソグリム人に追われたりする心当たりはある?」

「いいえ……どれだけ考えてみてもありません」

「そうか。なら、今のところは気にしないでおこう」

「だ、大丈夫なのですか?」

「僕らの手持ちの情報じゃ何一つわからないということがわかった。やっぱりギルドに任せよう」


 今のところは手がかりがなさ過ぎて、推測や仮定の立てようがない。

 ソグリム二人組の目的は不明だが、ラグナールの知っているユーディエルは僕とは似ても似つかないチンピラだ……そこからこちらに辿り着くことはない。

 ピゥグリッサは……あの人なら自分で何とかするんじゃないかと思う。


「問題はティーシャだ。ラグナールには顔がバレてる。ティーシャに施している《偽装》は今のところ耳だけだし、人相書きでも作られて顔を比べられたら、同じ顔をしているエルフ……ティーシャが疑われて《偽装》を解除される可能性がある。普通に聞き込みをされても、この宿が特定される可能性は高い。ティーシャは美人だからね」

「あう……」


 ティーシャが照れた。

 かわいい。


「今後はティーシャの顔も変えないといけないから、同じ宿に居続けるのは危険だ。今後は宿帳に記載する名前も偽名にしたほうがいいね」


 他に何は見落としがありそうだけど、素人の僕に思いつくのはそれぐらいだ。あとでカルザフに相談してみよう。


「顔も名前も変えた方がいい、ですか」


 ティーシャがうーん、と考え込む。


「ごめん。問題が片付くまでだから」

「あ、いえ。わたしはぜんぜん大丈夫です。それよりユエル様の方が……」

「僕? そうだね……念のため、僕も顔を変えようか」


 慎重過ぎかもしれないけど、仕事中も顔を変えておこう。

 今のところは逮捕されたりしてないけど、勇者ユエルの名前に犯罪の前科がつくと面倒そうだ。


「はい、それがいいと思います。ただでさえ、危ない橋を渡っているわけですし……」

「まあ『連中が探してるのが実は僕』だったりしない限り、大丈夫だと思うけどね」


 まあ、ソグリム人に追われる心当たりがこれっぽっちもないし。

 きっとハーフエルフの奴隷狩りとか、そんなところなんじゃないかな~?

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