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十七、処罰

 鳥の鳴き声に、明藍(メイラン)はふわぁっと欠伸をしながら目を擦る。体の至るところが痛い。どうやら、机で少しうたた寝をするつもりが朝までしっかり眠ってしまったようだ。

 ふと両手首に違和感を感じ、床を見ると破片が散らばっていた。

 明藍は頭を押さえる。

 椅子から立ち上がり、痺れる足を引きずって戸の前に立つ。こんこんと内側から叩けば、「なんだ」と声がする。


 「すみません、魔封具が壊れたので新しいものをいただけませんか?」


 暫し沈黙ののち、了承の返答があったため明藍は大人しく待つことにする。

 外で「嘘だろ?」「これで何度目だよ」といった会話が繰り広げられているようだが、胃に悪いので聞こえなかったことにしよう。

 実際明藍だって思った、何度目だよと。

 暫く待っていると、戸が開かれる。


 「お前、これで何個目だと思ってるんだ」

 「すみません」


 素直に頭を下げる明藍を見て、(ハン)次官が大きくため息をついた。

 術部に属する術師のうち、三本の指に入る実力者だ。術部に入ったばかりの時から世話になったひとりで、非公式ではあるが現在の直属の上司でもある。

 軟禁されているこの場所から、班次官がいつもいる場所はそう近くないはずなのだが、きっと何かあった時のために待機させられているか、態々連れてこられたのだろう。

 常々迷惑をかけているとなかなか頭をあげれないでいると、指で額を弾かれた。


 「いっ・・・!」

 「ほら、作ったお前なら知ってるだろ。これ一つでいくらすると思ってんだ」

 「・・・金十枚でしたっけ?」

 「わかってんなら壊さない努力をしろ!」


 新しい魔封具を両手にはめる。青い魔石が赤に変わるのを見て、見守っていた武官たちの緊張が溶けるのがわかった。

 そんな取って食ったりしないのに、と思ったが、元々武官と術師は折り合いが悪い。文官と武官の方がよっぽど仲が良い。明藍は特に因縁をつけられることはなかったが、同期で大変な目にあったと嘆いているものもいた。


 「ったく、それ、絶対に壊すなよ」


 班次官が釘を刺してくるが、明藍だって壊したくて壊しているわけではない。

 作った時は実際に明藍自身でも試験(テスト)し、完璧だったのだが。もしかして─


 「班次官、これ製造方法変えました?」

 「なんだ、何か不具合があるのか?」


 滅多に使うことはないが、いざ使用する際に不具合があっては困る。

 出入口に向かっていた班次官が戻ってくる。


 「不具合というか、こんな短期間で壊れるなんておかしいと思いませんか。考えられることといえば、製造方法の変化か材料の変化です。一見したところ、魔石は今まで通りだと思うのて、製造方法しか・・・っていたた」


 頭を思いっきり締められた明藍が悲鳴を上げるが、お構いなしに班次官はさらに力を強める。

 なんだこれ、強化術でも使っているのだろうか。

 部屋の外で待機している武官たちが心配そうに戸の隙間から覗いているが、覗くぐらいだったら助けてほしい。痛みで耳鳴りがしそうなところで、やっと解放された。

 流石にこれは酷い。恨めしげに見ると、班次官が苛立たしげに頭を掻き毟る。


 「あー・・・わかってる。お前には他意がないってことは」

 「えっ、あ、はあ」

 「言っとくが魔封具の製造も材料も変えてない。違うとすれば、使用する人間だ」

 「・・・わたし、ですか?」

 「そうだ、春明藍(シュンメイラン)、お前だ。いいか、お前の魔力はそんじょそこらの奴らの非にならない。ちゃんと制御しろ。垂れ流すな。そして長官がお呼びだ」


 なんだ、その寝小便した(こども)に注意するような言い方は。そして、最後にさらっと大切なことを言ってのけている。


 「あっ・・・あの、班次官」


 部屋から出ようとしていた班次官が振り返る。

 

 「すみません、ちょっと右手の方にひびが入りました」

 「・・・お前、戻ったら魔力制御の練習するぞ」


 魔封具は体内の魔力を吸い上げるものなので制御とか関係ないのでは。

 明藍はそう思ったが、口に出したら今度は鉄拳が飛んできそうだったので、黙って班次官の後に続いた。戻れることなんてあるのだろうか。

 見張りの武官たちに気の毒そうな顔をされたので、曖昧な笑っておいた。



 「三年の収監になったから」

 「はあ」

 「いや、これでも僕頑張ったんだよ?過激派には一生出てこないようにしろとか、即刻処刑とか。でもさ、それで一番損するのは術部だってこの数月でわかったはずなのに、あいつらも頭が固いというか、頭使ってないというか。というよりもさ、四家のご息女を処刑って何考えてんだって話だよ。あ、でもそれはむしろ隠してたことだから仕方ないから。でもね、だいたいあいつら頭空っぽなんじゃないかってずっと思ってたんだけどって・・・ほら、春明藍。何かいうことはある?」

 「あっ、えーっと、ありがとうございます?」

 「はい、よろしい。でもごめんね、僕の力足らずで花真っ盛りの時期に収監なんかになっちゃって」


 (トウ)長官がしょんぼりと元々垂れ気味の眉を下げる。


 「むしろ三年で出てこれるなんて思っていなかったので驚いてます。ご尽力いただき、ありがとうございます」


 一生幽閉される覚悟をしていただけに、三年で出てこれると聞いて拍子抜けした感はあったが、それでも確かに東長官の言うように結婚適齢期の女子にとっては痛いかもしれない。まあ、それも結婚をしたいと思っていればの話だが。


 「本当に大丈夫?というよりも、本当に術部(うち)が大丈夫?ねぇ、班次官」


 いきなり問いかけられた班次官が苦い顔をする。

 まあ、あれだけの数の怪我人を出している現状を考えれば、誰だって同じような表情になる。


 「やっぱりもう一度審議にかけてもらうしかないなぁ。それかこうなったらあれかな、直談判しにいくしかないかな・・・」


 誰になんて無粋な質問をする者はこの中にはいない。部の一番上である長官が直談判する先など一つしかない。

 

 「あの、そんな命を削って頂かなくても、わたし三年くらい頑張りますよ」

 「いや、でもねぇ、やっぱり花も恥じらう結婚適齢期の娘さんだからね。この際だから齢期を逃すと・・・うん、色々大変なんだよ。あ、それともうちの甥と婚約しておく?固めと柔めがいるけどどっちがいい?」

 「いや、本当に結構ですので」


 一体何の硬さだよ。そんな豆腐じゃないんだから。ちなみに明藍は木綿派である。

 東長官はまだ「でも結婚が・・・」と頭を抱えているが、彼はこの時代には珍しく別に結婚だけが全てではないと思っている部類(タイプ)の人間だ。ただ、身近の、しかも目に入れても可愛くないくらい可愛がってきた娘が完全に適齢期を過ぎてからやっぱり結婚したいと騒ぎ始めたものだから、結婚適齢期の女人を見ると放っておけなくなってしまっている。幸いにも、明藍以外の術師はみな男なので職場においてその悪癖は明藍のみに発動される。


 「そうだ!」


 最終的に机に突っ伏す形になっていた東長官が勢いよく起き上がる。


 「出発まで三日あるから、東宮に顔見せしてみようよ!明藍の顔ならいけるはずだ!」


 東宮に顔見せなどいうありもしない提案とは異なり、明藍には無視できないことがあった。

 今、なんと言った。


 「あの、出発って誰がどこに行くんですか?」

 「えっ、君が、北の収容所だよ」

 「・・・北、ですか」

 「そう、北だよ」


 北の収容所といえば、とにかく飯がまずいことで有名な場所だった。食べることが何よりの生きがいである明藍に取って、それは地獄よりもきつい。

 どうせならいっそのこと一思いに殺してくれ。

 明藍は白目を剥きそうになったのを必死で堪えた。

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