雨の身柱
まだまだ初心者なので、ご容赦ください。
最後に見た光景はいつも一緒だ。
誰かが私を裏切り、そして殺される。
それを朦朧とした景色の中でウラギリモノの姿を眺めながら事切れるのだ。
それを幾度も経験し。体験し。
冷たい地面を感じながら。
そして必ず、見知らぬ土地で目が醒めるのだ。
それを、もう何回繰り返すのだろう。
私の、僕の、あたしのツマラナイ物語だ。
1988年。
8月。
僕は目が覚めた。
いや、目は開いていた。
私という人格が覚めたのだ。
ふと辺りを見渡すと、生活ゴミが散乱し、足の踏み場もない程様々な服が乱雑に置いてある。いや、捨ててある。
すると一人の女性が奥の台所…なのだろうか。鍋やらカップやらが汚いまま置いてある所から歩いてきた。
僕の目の前に立つと突然「バチン」と部屋に響く程の音を立てて、僕の頬を平手で叩いた。
「何見てるのよ。」
低い声で女性が僕に言う。
僕はそのまま膝を抱えて蹲る。
その瞬間に金属製のドアを叩く音が聞こえた。
さっきまでの声とは別人のような声で返事をすると、楽しそうにドアの向こうに消えて行った。
ああ。またロクでもないところに来てしまったようだ。
顔を上げ、部屋の片隅にあった鏡で自分の姿を見る。
身長は120㎝程だろうか。年は12歳。
辺りをゴソゴソと探す。
あの女の物だろうか。
巾着が隠すように置いてあった。
いや、これはおばあちゃんのだ。
そうだ。この子にと内緒でくれたものだった。
中を見ると、札束が。
と言っても数十万程度。
あの女に見つからないようにと隠していたっけ。
それを手に取り、ゴミを避けながら玄関に行き、靴を履く。
「世話になったな」
そう言うと、台所にあったガス栓を開け、火が付かないようコンロをひねる。
そのまま、バタンと家を出た。
埃を被り、抜けそうになっている換気扇のコンセントがあったのは見えたから。
ここはアパートだろうか。二階建の真ん中だ。
ふと見ると、遠くにはネオンが輝く。
なるほど。どうやら都会のようだ。
身を隠す場所は幾らでもあるだろう。
淡々と階段を降りると夜の闇に消えて行く。
この子の名前は…明音。私の名前は…やめよう。
僕は明音。さあ。お仕事のはじまりだ。