高嶺の花の幼馴染
結城愛実は俺の幼馴染だ。
幼稚園は同じで、そこから小学一年生から中学二年生まで、ずっと同じクラスだった。これは奇跡としか言いようがなく、ある意味運命だと思っていた。
俺が愛実を好きになったのは小学五年生のときだ。それまでただの幼馴染だと思っていたのに、どうしてか彼女の顔を見るだけでドキドキするようになったのだ。確かに彼女の顔は他の子達よりも何倍も可愛かったし、どこかかっこよくもあった。彼女は男子のみならず、女子にも好かれていた。
中学生になった彼女は、可愛さを少し残しつつ、キリッとした美しい顔立ちになり、女子人気がますます高まった。男子は高嶺の花として彼女を見ていて、告白する猛者は現れなかった。
俺は幼馴染ということもあり、彼女に気軽に接していたが、そのことで一度彼女の隠れファンに胸倉を掴まれたことがある。確か、中学二年生の夏のことだったと思う。それ以来、彼女と話すこともなくなってしまった。そして、中学三年生になって初めて、彼女と別のクラスになった。だからといって、特に何も思うことはなかった。俺も気が付けば彼女を高嶺の花のような存在だと思い始めてしまったのだ。
中学の卒業式が終わり、愛実が俺のところに駆けつけてくれた。
「佳太はどこの高校に行くの?」
久しぶりに話しかけられた。いや、自分から愛実を避けるような行動をとっていただけだが。
「ああ、B高だよ」
「やっぱり賢いなあ、佳太は」
「何言ってんだよ。それにあんまり俺といっしょにいるとまずいって」
「え? 何で?」
「何で、って」
俺は男子のやっかみの視線が気になっていた。卒業式という晴れの舞台にふさわしくな邪険な目線が俺を攻撃していた。
「私たち、幼馴染じゃん」
愛実はくすっと笑った。
「もしかして、周りの目線が気になって、私と喋らなくなってたの? だっさ」
だっさ、という言葉に毒はこもっていなかった。
「いろいろ、気にするんだよ。そういうお年頃」
「ふうん。そっか。別に私のことが嫌いになったとかじゃなかったんだ」
「そりゃな……って、き、嫌い?」
「嫌い」を裏返せば「好き」になる。俺は婉曲的に愛実に「好き」だと言ったのではないか? と戸惑う。
「あれ? 嫌いだった?」
「そんなわけねえよ」
「じゃあ、嫌いじゃなかったら何?」
「そりゃ、まあ……その」
俺が「す」と言いかけたそのとき、後ろから「愛実ー!!」と大きな声が聞こえてきた。彼女の所属していた女子バレー部の部員たちがいっせいにこちらを見ていた。何人か、俺を怪訝そうに見ている。
「ごめん。続きはまた今度だね!」
そう言って、愛実は手を小さく振って、去っていった。