097.令嬢は婚約者一家と会う
昼食を済ませた後、舞踏会用に着替えてフォスとともに寮の私室を出た。パーティ会場は本格的なホールで、卒業式後の舞踏会は必ずここで行われることになっているようね。
「ローズ!」
「ジェット様!」
控室に入ったところで、ジェット様とばったり出会ってしまったわ。あちらも既に制服ではなく、卒業後の進路として決まっている軍の礼服をお召しになっている。白を基調に金の飾りがとても美しくて、ジェット様の真っ黒な髪をとても引き立てているわ。
「ジェット、気持ちはわかるが親を放っていくのはどうかなあ?」
「まあまあ。ローズ様が来ちゃったのだから、仕方ないじゃないの」
……いけない、卒業式の後だったわ。つまり、ジェット様のご両親……モンタニオ辺境伯夫妻も、ここにはおいでなのよね。
一部に白が混じっているけれどジェット様と同じ黒髪の、口ひげを蓄えられたモンタニオ辺境伯。
赤みがかったブラウンの髪をアップにして、少しばかりふくよかなお姿の辺境伯夫人オブシディア様。
お二人はそれぞれグレーの礼服と深みのある赤のドレス、落ち着いた色味のお姿。
この前お二人にお会いしたのは……私が高等部に上がる前、一時帰宅したときにちょうどおいでになっていた時以来かしら。まだ一年ほどだけれど、久しぶりだわ。きちんとご挨拶しなくてはね。
「モンタニオ卿、奥様。ご無沙汰しております」
「ああ、久しぶりだね、ローズ様。フォセルコアも一緒かい」
「はい。ジェット様とローズ様のお立場も考えますと、護衛を兼ねた側仕えがいたほうが良いと思いまして」
お二人はある意味当然というか、フォスともしっかり面識があるのよね。今回フォスは私たちの側仕えという立場で出席する、と明言しているのは……まあいいか。お相手探しも頑張って欲しいものだけれど。
「うちから出すべきなのかもしれないが、パーティの参加者は限られるからねえ。済まないが、頼めるかい」
「はい、お任せください」
……というか、すっかり私たちの側仕えとしているのが当然、という感じになってしまっているわね。こうなると、どこかに輿入れするか婿を迎えることになるか、それまではモンタニオ家で私に仕えていることになりそう。行儀見習いにもなるし、私としては歓迎するけれど。
そんなことを考えていたら、オブシディア様が「ローズクォテア」と私の名を呼んでくださった。長くて堅い名前だからか、フルで呼んでくださるのはオブシディア様かギャネット殿下くらいかしらね。
「少し会わないうちに、すっかり綺麗になったわね。元から可愛らしい方だったけれど、ジェットにはもったいないくらい」
「え」
「母上!」
お褒めいただいたのはありがたいのだけれど……あの、それはどういう意味でしょうか?
それとジェット様、お母様なのですからそんなに怖いお顔で睨まなくても。
「ま、親をそんな目で見ないの。ジェットがローズ様にベタぼれなのは分かってるから」
「うっ」
オブシディア様の方がお強かった、さすがはジェット様のお母様。あのジェット様が顔を引きつらせて一歩引いてしまわれるのだから。……これで、モンタニオ家の後継者として大丈夫なのかしら? というか私、オブシディア様に負けない辺境伯夫人になれるかしら?
これから、頑張りましょう。少しでも、ジェット様のお力になれるように。
「それにしても、そのドレスはよくお似合いよ」
「あ、ありがとうございます。父が張り切ってしまって」
いきなり話をこちらに振られて、一瞬戸惑ってしまったわ。でも、ドレスが似合っているとおっしゃっていただけるのは嬉しいわね。父上、褒められましたよー。
「ハイランジャ侯爵も、可愛い角娘の晴れ姿だものなあ。そりゃあ、張り切られるさ」
「角娘、ですか……」
モンタニオ卿、角娘って分かりやすいですけどえーと……フォスが呆れ顔になってしまうのも分かるわね。
第一、今日晴れ姿を見せるのはジェット様や殿下を始めとした卒業生の先輩方であって、私ではないのに。
「それに、本当の晴れ姿をお見せできるのは二年後ですし」
「その時は、迎えに来るよ」
「まあ、ありがとうございます」
ええ、ジェット様がお迎えに来てくださるのなら、そのときこそが本当の私の晴れ姿ですわ。




