096.令嬢は卒業式に出席する
試験も終わり、平穏な気候が続く季節のこの日。
スターティアッド学園には、様々な馬車がどんどん入ってきている。もちろん、卒業式を迎えた学生たちのご両親であり、お身内の方である貴族を始めとした方々のものだ。
そう、今日はいよいよ卒業式。ギャネット殿下やジェット様を始めとした三年生の方々が学園を巣立たれ、それぞれの道へ足を踏み出される日なのよ。
午前中に卒業式、昼食時間を挟んで午後三時ごろから卒業舞踏会というスケジュール。どちらかだけに参加する方もいらっしゃるけれど、特に卒業生とそのお身内の方々は大体が両方参加ね。
「さあ皆様、参りますわよ」
『はい』
「はあい」
シンジュ様のお声がけと共に、私たち一年生は教室から講堂へと移動する。二年生も同様にして、卒業生をお迎えするのよね。
しかし、卒業式なんて証書の授与以外は送辞と答辞、後は学園長のお話くらいよね。一・二年生って参加する必要あるのかしら、と思わなくもない。舞踏会と違って、卒業生のお身内にお顔を売る機会もほぼないし。
まあ、記念の日だしね。私にとっては学園生としてのジェット様を拝見できる、最後の機会だもの。
そんなことを考えているうちに卒業生のお身内の方々が入場され、卒業式が始まる。卒業生の方々の入場に続いて、学園長のお言葉。
「本日ここに晴れの日を迎え、わたくしも感無量です」
細身の、キリッとした中年の女性。細いフレームの眼鏡の奥から、甥御様であるギャネット殿下とよく似た……もっと鋭い目がこちらを見渡しておられる。凛とした声を張り上げて、さほど長くはないお言葉を述べられる。
「我が学園を旅立っていく生徒たちの将来に、希望あれ」
ほら、もう終わったわ。この後は証書の授与があって、二年生の先輩が送辞を読み、卒業生代表が答辞を読む。今年の卒業生代表は当然と言うか、殿下が選ばれたそうね。
「あ、かっこいい」
送辞が終わり答辞の段となったところで、ぽつんと、セレスタ嬢の小さな声が聞こえた気がする。まだ学園生だから制服のままなのだけれど、それでも確かにギャネット殿下は凛々しくていらっしゃるわ。
「いつも思うのですけれど。学園長のお話は短くて助かりますわね」
そう長くはない卒業式が終わり、昼食のために移動しながらシンジュ様がくすりと肩をすくめられる。あまり長いと、眠くなってしまうものね。
同じことを考えていたらしいルリーシアが、小さくため息をつきながらこちらを見る。
「長いと、聞いていて厳しいからな……うちの父がそうなのだが」
「ありゃ。お父さん、お話長いんですかあ」
「そうなのだ。そろそろ騎士団長を代替わりしていただかないと、騎士候補生が減っていくかもしれん……」
ルリーシア、素直に頷いたわ。セレスタ嬢ののんきな言葉遣いが、このときばかりは良い方に働いたのかしらね。
それはそれとして、騎士団長のお話の長さで候補生が減っていくなんてことになると、騎士団も大変よね。
……騎士団と言えば、セラフィノ様が所属しておられるわね。だからか、シンジュ様が口を挟んでこられた。
「セラフィノ様が頑張ってくださるとよろしいのですけれどね」
「そうだな。ササーニカのご子息には、父も期待を寄せている」
「きっと、お父上のご期待に応えられると思いますわ」
騎士団長の期待に応え、ついでにお話も短くなると騎士団の方々も助かるわね。ええ、きっと。
さあ、お昼をしっかり食べて、その後は。
「昼食の後は、舞踏会の準備ですわね」
「うぅ、がんばります」
「頑張ってくださいましね、セレスタ様」
「はいっ!」
うん、セレスタ嬢のやる気がそげていないのはすごいと思うわ。結局、ギャネット殿下にはお相手していただけないっぽいけれど、そちらのほうは大丈夫かしら?




