094.令嬢はなんとか歩く
「一、二、一、二」
セレスタ嬢が、ヒールの高い靴を履いて歩く練習をなさっておられる。毎日少しずつやっておられるとのことで、かなり安定してきたのではないかしら?
「だいぶうまくなられたのではありませんか?」
「そ、そうかな?」
なぜか、私やフォスが見てあげている。まあクラスメートだし、ダンス講師も四六時中セレスタ嬢を見ていられるわけではないしね。
フォスは学園祭でダンス教室を手伝ったこともあってか、ノリノリでチェックしているわ。そのフォスの目から見ても、セレスタ嬢の歩き方に問題はなさそうね。
「足元が安定するようになりましたね。このまま行ければ、問題はないと思いますよ」
「そ、そうですか? やったあ!」
「よかったですわね」
「ええ。歩くのは、問題なくなりました」
一度は喜んだセレスタ嬢だったのだけれど、その後のフォスの言葉にぴたりと動きが止まったわ。……ああ、そういうことよね。
「あるくのは」
「そうです。つまり、レッスンも踊る方に移ることになりますね」
「あわわ」
あら、可愛らしいお顔が引きつってしまっているわよ。……まあ、ダンスって慣れていない方から見ると小難しくて仕方ない、なんていう話も伺うし。
セレスタ嬢は、これから何度も殿方と踊ることになるのでしょうから、慣れていかないとだめだと思うわよ。ねえ、フォス?
「基本の数種類のステップを覚えるだけでも違いますから、まずはそこを頑張りましょう。ダンスで見初められて良い家に迎えられる、ということもありますから」
「はっ、それならがんばります!」
何がそれなら、かしら……確かに、舞踏会で見初められて一曲踊ったら意気投合して、なんてこともあるけれどね。……なるほど、そこにたどり着くにはきちんと踊れることが前提、か。
「……わかりやすくていいんですが」
「まあ、セレスタ様ですしね」
思わず、フォスと顔を見合わせて頷き合う。本来ならばギャネット殿下と踊りたくてたまらないのでしょうけれど、それにしたってきちんとしたステップを覚えることが最優先になるわ。それだけでもできれば、あとは殿下を始めとした殿方がリードしてくださるもの。
私が初めて踊った時は確か、お父様が指導してくださったのよね。それでも足を踏みそうになって、大変だったわ。
「良い方が見つかってくだされば、セレスタ様ご自身もテウリピア子爵も喜ばれるでしょうし」
「うー。やっぱり殿下がいいですう」
「私でも縁がないのに!」
「フォスは男爵家ですよねー?」
「子爵家もさほど変わりはありませんよ、皇族からすると」
……フォス、セレスタ嬢、何を張り合っているのかしらあなたたち?




