092.令嬢はお相手を考える
ふと気になって、セレスタ嬢にお尋ねしてみた。
「そう言えばセレスタ様、お相手は見つかりましたの?」
「えー……ダメダメですねえ」
目の前で手をパタパタ振る辺り、本当に見つかっていないようね。要は、舞踏会で一緒に踊っていただくお相手のことなのだけれど。
とはいえ、目標を切り替えていないみたいだから多分、見つからないというよりは相手をしていただけないという方が正解かしら。
「というかー、できれば殿下と踊りたいんですけどねー」
「今反応がないなら、無理っすよ」
「そうそう。殿下でしたら、お相手がおられずとも学園長とご一緒する可能性もありますし」
「うわー、それは絶対勝てないー」
間髪入れないイアンのツッコミに続いてサンドラが学園長のことを出してくると、セレスタ嬢は思わずテーブルに突っ伏した。実の伯母様なのだから、舞踏会でご一緒しても問題はないのよねえ……。
「んー。でもお父さんからは、私の顔見世にもなるから出たほうがいいよって言われてますー」
すぐにがばっと顔を上げたセレスタ嬢の口から、そのような言葉が流れ出た。
なるほど、何だかんだで幼い頃からあちこちで顔を見せている私たちと違って、彼女にはそう言う場がなかったわけだから。テウリピア子爵としては、娘の顔を売りたいわけよね。あわよくば、よい婿を迎え入れて子爵家を存続させたいでしょうし。
「それもそうね……そうするとテウリピア子爵令嬢、実質上のデビューになりますわね」
「お相手はともかくとして、お出でになるのなら何とかなると思いますわよ」
私とシンジュ様が、頷きつつセレスタ嬢に視線を向ける。ルリーシアがふむ、と顎に手を当てつつ言葉を紡ぐ。
「もしかしたら、どなたかがお誘いくださるかもしれないな。舞踏会で出会って後に夫婦となる、ということもないわけではないし」
「そ、そうかな」
意外と乗り気なようね、セレスタ嬢。ギャネット殿下をお狙いになるのは諦めていないようだけれど、他にも婿候補を考えておくのは悪くないわ。子爵家の一人娘、ということになるのだから。
「卒業後の舞踏会には、卒業生の父兄も顔を見せたりするからな。さまざまな出会いが待っている……んだそうだ。父の受け売りだが」
「騎士団長様の、ですか」
「要は、父と母が出会ったきっかけらしいがな。詳しいことは知らない」
あ、ルリーシアが照れくさそうに視線をそらした。でも、そうなのね。
考えてみれば、ここは貴族や金を持った商人、さまざまな高レベルの職人などの子弟が通う学園。お互いに縁を結べば、自分たちにとっても良い結果につながるでしょうからね。
私やシンジュ様のようにすでに婚約者がいる身であればともかく、様々な事情でお相手を見つけられなかった方々のお見合いの場……に近いのかしらね、この学園は。そういうことも考えられて創立されたのかしら? 遠距離に住まう相手とでも顔を合わせることができるわけだしね。
「殿下は私も狙っていたのですが、本当に無理ですよね」
「え、フォスさんも?」
「ええ、中等部の頃から」
「わあ……それでなびかないのか、うわあ」
そう言えばフォス、最近は言わないから諦めたのかしらと思っていたのだけれど。やっと、諦めた、という感じかしら?




