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009.令嬢は送ってもらう

「済まなかったな、二人共」


 そのまま、私たちの教室前までジェット様はお付き添いくださった。そうして入室はせず、入口前で少し困ったように眉尻を下げられる。


「いえ、大丈夫ですわ。特に問題が起きたわけではありませんし」

「そうですね。……ジェット様」


 そう、問題になるようなことは何も起きていない。だから私は頭を振り、フォスも同意してくれる。ただその後、彼女はジェット様のことを呼んだ。


「何だ?」

「先程の方ですが、クラスメートの方でしたの?」

「ああ」


 先程の方。レキとかいう、少々無粋な男性のことをフォスは尋ね、そしてジェット様は頷かれた。


「サンフラウ商会の息子だ。長男だが……性格がどうも合わないようでな、姉が跡継ぎに決まっているらしい」

「まあ」


 サンフラウ商会。父上から、数度話を聞いたことがある気がするわね。だから、私はそのことを言葉にして伝える。


「確か、帝国内ではウィスタル商会とライバル関係とか伺ったことがありますわ。国の外までは存じませんが」

「そう言えば、ウィスタルのご子息がうちの学年に編入されてきました」


 フォスが、私に続いてくれる。ちらりと教室の中を伺ってみると、当のご子息……グランは既に次の授業の準備を進めているようね。

 彼はさほど問題のなさそうな人物だと思うけれど、その商売敵のご子息がイマイチな性格というのは、お商売上大丈夫なのかしら?


「確か、うちとは少々お付き合いがあるようなことを父から聞いていますわ。後継者ではないようですけれど、ご子息があれでは今後のお付き合いを考えなければならないかもしれませんね」

「そう言われないために、学園に入れたらしいがな。治らない者もいるってことだ」


 やれやれ、とジェット様が肩をすくめられる。そのちょっとした仕草もかっこよくて、私は一瞬見惚れた。……フォス、肘で突いてこないで。分かっているから。

 それはともかく。

 レキ殿のご両親としては恐らく、暖簾分けをしてサンフラウ商会をもっと大きくしたいのではないかしら。そのつもりでご子息を、この学園に入れたのだろう。

 ……一瞬だけ拝見したご子息で推測するのは何なのだけれど……どうもその思惑から外れてしまっているようなのは、ご当人にとって幸せなのか不幸なのか、はて。


「まあ、レキのことはこっちに任せろ。午後も頑張れよ」

「はい。ジェット様も」

「お手数をおかけしました」


 ジェット様はこの後、レキ殿と同じクラスで午後の授業を受けられるのよね……大丈夫なのかしらと少し不安になったけれど、でもお任せするしかないわ。そう思ってフォスとともに、礼をして見送った。


「……全くもう、ローズ様はジェット様の前に出るとお顔が緩まれるんですから」

「え、緩んでました?」

「それはもう」


 ジェット様のお姿が見えなくなってから呆れ顔のフォスにそんなことを言われて、慌てて頬に手を当ててみる。額の角と同じく、鏡がなければさっきまでの自分の顔なんて見ることができないわ。

 でも、仕方のないことよね。だって、ジェット様はかっこよくて大人っぽくてそれでいて私のことを好んでくださっているのだもの。


「はいはい、分かりましたから席に戻りましょうね」

「え、私は何も言っていませんわよ」

「どうせ、ジェット様はかっこよくて大人っぽくて私のことを好きだとか何とか、心の中でのろけていらっしゃったのでしょう?」


 さらっと、私が考えていることをフォスに当てられてしまったわ。ど、どうしてバレバレなのかしら? 私、声に出して言ってしまったのかしら?

 思わずオロオロしてしまった私に、フォスは苦笑してみせた。


「私はローズ様とはお付き合いが長いのですから、だいたいのことは分かりますよ」

「いや、それは私でも分かりますよお?」

「ええっ!?」


 いきなり背後から声をかけられて、あわあわしながら振り返る。そこにいたのはサンドラで、後ろからアレクセイも困ったような笑顔でくっついてきている。彼らも、食事から戻ってきたようね……いえ、そこではなくて。


「そ、そんなに分かるのですか?」

「ローズ様、ことジェット様に関してはお顔に分かりやすく現れますから」

「だからって冷やかすのはどうか、と僕は思うんですけどね……」


 楽しそうに笑いながらそんなことを言う赤い目のサンドラと、彼女を止めるには少しばかり気の弱い緑の目のアレクセイ。お顔や髪の色なんかはよく似ているのに、目の色と性格は違うのよね。

 これは、中等部でお付き合いしている間にいろいろわかったことだけれど。

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