084.令嬢は祭りのあとを思い起こす
「全く、面倒でしたわね」
「殿下やジェット様のお手を煩わせてしまいましたものね」
学園祭が中止となって、七日ほど。授業が再開し、何とか元に戻った生活の中で改めてシンジュ様と私ははあ、と大きくため息をついた。周囲には、同じクラスの皆もいる。
さすがに一緒に大変だったこともあってか、集まった中にはセレスタ嬢の姿もある。まだ朝早いから、訓練中のルリーシアや鍛冶場に詰めているイアンはここには来ていないわね。
そのセレスタ嬢が、ちょっと思い出すようにして言葉を紡いだ。
「一昨日か、処刑があったみたいですねー。私行ってませんけど」
「まあ、わたくしとしては個人的には、あまり見るものとは思いませんけれど」
「昔は見るものなかったし、人が集まるんでちらっと見に行ったことはあるんですけどねー。よく分かんなかったです」
昔、とはテウリピアの家に引き取られる前のことかしら。娯楽というものは金のかかるものが多い、ということみたいで、公開処刑は無料の娯楽扱いをされているわ。どんな罪を負ったのか、どこの出身か、どういった人間か……そんな噂話で、人々は楽しむのだとも。
「まあ、公開処刑はある種の見世物になっていますからね……」
「見世物としてなら、学園祭の方が絶対楽しいのにー」
「セレスタ様の意見には、賛成ですね。どうせ見るなら、血が飛んだりする処刑場より花が飛ぶ劇場のほうが良いです」
「後片付けもありますしね」
思わず呟いてしまった私はともかく、セレスタ嬢の意見にグランが同意をしてきたのにはちょっと驚いたかしら。でも、飛ぶなら血より花、というその意見は確かにそうね。
後片付け……サンドラ、その点は気づかなかったわ。そうか、処刑場もそのまま放っておくわけにはいかないものね。数日もしないうちに臭いがしてきて大変、というのは戦場をご存知の騎士団長から伺ったことがあるわ。
と、アレクセイがひょいと片手を掲げた。
「あ、俺見てきました。偉そうにしてたやつ、最後にゃ助けてくれえとか鼻水垂らして傑作でしたよ」
「その者が、確か実行犯のトップでしたね。帝国に反旗を翻すつもりだったのであれば、最後まで堂々としていればよろしいものを」
あら、フォスが腕組みをしながら首を縦に振っている。私は見ていないけれど、そう言えばフォス、一昨日は街に出たのでしたっけ。
「フォスも見に行ったの?」
「はい、もちろん」
だから尋ねてみたら、思いっきり力強く肯定されてしまったわ。あ、何というか怒りがにじみ出ている。
「私、いきなり切っ先突きつけられたんですよ。その者たちの最期くらい、見ておきたいじゃないですか。子どもたちは泣いてしまうし、先生たちの中には腰を抜かす方もいらっしゃったし……」
そうだった、そうだった。
ダンス教室に向かった反逆者の皆様は、その場にいた教師やフォスに剣を突きつけて有無を言わさず拘束したのだったわね。
その割にフォスが平気そうな顔をされているのは、腰を抜かさなかった教師の中に元拳闘士の方がいらっしゃったからなのだけれど。ルリーシアや私たちに、簡単な護身術を教えてくださる担当の教師よ。
武器がなくても戦えるその方が、あっという間に返り討ちになさったとのこと。下っ端の方を一人残しておいて、その方に嘘の報告をしろと脅したそうだわ。まあ、その後は……ねえ。
「先生のおかげで、こちらでは負傷者や死者が出なかったので良かったのですけれど」
「話聞いて驚いたよー。というか、来年から護身術教室が始まりそうだな」
「アレクセイは、それで吹き飛ばされないようにね」
鼻息も荒いフォスの言葉に、アレクセイが肩をすくめる。そこにサンドラが茶化しの言葉を入れるのは……まあ、今の状態だとアレクセイはサンドラには口で勝てないからね。さすがに、貴族の子息が暴力で双子のきょうだいを制圧するなんてことはないと思いたいわ。




