082.令嬢は華麗な爆発に驚く
「よし、こんなものか」
叩き潰された上に少々手荒い尋問とやらによって情報を教えてくださった反逆者の皆様は、まるでパールのネックレスのように円を形作って縛り上げられている。お顔がちょっと腫れたり、髪の毛やお洋服が乱れたりしているのは仕方がないわね。ええ。
円になっているので、数えやすいのは助かったわ。かなりたくさんいらっしゃって、この後どこに行かれるにしても大変ね。
「……二十五。先程の十一名と合計して三十六名ですわね」
「五十三人、と言っていたな。……残り十七人か」
案外残っていらっしゃるのね、とジェット様と顔を見合わせる。もっとも、その残りの方がどちらにおられるかは尋問にてきちんと聞き出せているようだけれど。
「ダンス教室に居残りが三名、寮に五名、残りが校舎の職員を抑えているようです」
「職員とこには九人か」
ルリーシアの報告に、殿下は何かをお考えになる表情。そうして、にやりと少々意地の悪い笑みを浮かべられた。
「職員の方はほっとけ。そろそろゲートミアが爆発する頃だ」
「爆発? ですか?」
「ああ」
きょとん、と目を見張ったルリーシアに殿下が頷かれた瞬間、どおおんと地響きがした。はっと振り返ると校舎……ちょうど職員室のある辺りかしら、そこからもくもくとカラフルな煙が上がっているわ。ピンク、緑、金色、赤、青……な、何をどうしたらあんな煙が出てくるのかしら?
「ほら、爆発した」
殿下は先程の笑顔のままで、そんなことをおっしゃる。というかゲートミアって、ゲートミア先生ですよね? お医者様の。その先生が、なんでまたあのような煙を吹き出すようなことをなさっているのかしら?
「あれ自体は大したことない。地味な花火レベルだ」
「煙は派手ですけどねー」
「まあな。ただ、爆心地じゃ多分、ゲートミア以外の職員と反逆者どもが泡を吹いてひっくり返っている可能性が高い」
ぽかんと煙を見つめたままのセレスタ嬢の言葉にも、特に殿下の表情が変化することはないわね。
ゲートミア先生以外が泡吹いて倒れている状況って……ある種の毒とかそう言うものなのかしら、あの煙。
「伊達に、貴族の子供を預かる学園の医師に選ばれたわけじゃない。こういうときのための反撃手段を持っているから、あいつが選ばれた。ああ、他のところには確認のために誰か走ってくれ。騎士団長が暴れているかもしれん」
「は、はい! ダンス教室の方には、自分が行ってまいります!」
殿下のお言葉に、ルリーシアが慌てて駆け出して行った。フォスがいるはずだから、よろしく頼むわね。
彼女の背中を見送っていたら、ジェット様が「よし」と一声上げられた。
「寮には俺が行きます。ローズ、ここで待っていてくれよ」
「はい。どうぞお気をつけて」
「ありがとう」
そうね、このような状況でジェット様が動かないはずがないものね。セラフィノ様は反逆者の方々を調べておられるから、ここを動かないほうが良いでしょうし。殿下もおられるし、ね。
ジェット様が駆けていくのを見送りながら、殿下がぼそりと呟かれる。
「おそらく、しばらくの間職員室付近は使用禁止だろうな。あの爆発、後片付けが大変なんだ」
……やっぱり、壁や天井や床があの煙のようにきらびやかな色に染まっているのかしら?




