077.令嬢は壁向こうから目をそらす
「さて」
ここにいる反逆者の若者たち全員の拘束が終わったところを見計らって、殿下が少し考え込む様子になられた。
「他がどうなっているかだな。騎士団長や衛兵が見て回っているといいんだが」
「あ、それなのですが殿下」
殿下の危惧には、既にジェット様が手を打っていらっしゃるようね。さすが、将来の側近候補と呼ばれるだけのことはあるわ。
「こちらに来る前に念のため、外にいる学生たちに状況の偵察と、衛兵に情報を回すよう指示しておきました」
「おう、そのほうがいいな。……ま、衛兵に裏切り者がいないとは限らんが、それも炙り出せるだろうし」
わあ、かなりひどい事態まで想定していらっしゃるのね、殿下。さすがは皇帝陛下の第二皇子……と言っていいのかしら?
はて、と考えていると廊下の方からバタバタと、足音がした。すぐにジェット様が扉の横に、ルリーシアが扉が開いたらその裏に隠れるところに位置を取る。
バタン!
「セッカイ! 大変だっ」
「おりゃ」
飛び込んできた一人の首筋に、ジェット様が手刀を入れて昏倒させた。やってきたのはお一人だけのようで、その方をジェット様が室内に引きずり込むとすぐにルリーシアの手で扉が閉じられる。
「申し訳ない。まだいたようです」
「まあ、取り逃しがいてもおかしくはないな。こちらは向こうの構成人員を知っているわけじゃないし」
先程解かれた、私たちを拘束していたロープでそのお一人を縛り上げながらのジェット様と殿下の会話。そうだ、確かに私たちはこの若者たちの内情を全然知らないものね。情報というのは本当に、重要なのよね。
そして情報の入手先と言えば、それを持つ人物というのは定番だわ。
「吐かせますか」
「そうしよう。ジェット、ルリーシア、どっちか手伝え」
「はっ」
意外にも、殿下に答えたのはルリーシアだった。それも、なんというかわくわくキラキラした感じの、まるで明日のパーティを楽しみにしている子供みたいな表情で。
「道具がない場所での尋問方法は、父からある程度聞いております。お任せを」
「そうか。頼むぞ」
……ええと、道具がない場所での尋問。その『尋問』って、皇妃陛下のおっしゃってる『尋問』と同じ意味なのかしら、もしかして。
そ、そうすると、うわあ。
「うごおおおおお!」
楽屋の隣の部屋から、あまり聞きたくないたぐいの声が聞こえてくる。こちらに残った私と、何とか意識を取り戻したセレスタ嬢はそのお部屋から一番離れた壁際に身を寄せて、その前にジェット様に立っていただいている。
「あ、あのう……」
「せめて、考えないようにしましょうね」
「ああ、そのほうがいい」
「は、はいぃ……」
ええ、さすがにこれは涙目になるセレスタ嬢のお気持ちも分かるわ。私もさすがに、気が引けるもの。




