076.令嬢は状況を伺う
「殿下、ローズ、ご無事で?」
白目をむいて倒れてしまった若者たちを彼らの服を使って拘束しつつ、ジェット様は私たちのことを気遣ってくださった。外見上は偉いことになっているけれど、特に殴られたり蹴られたりはしていないし、大丈夫よ。
「俺はいいから、ジェットは婚約者をいたわれ。後、そっちで泡吹いてる子ネズミも」
「ああ、連れてこられていたのですね。承知」
殿下、私のことはお気遣いくださるのにセレスタ嬢のことは放置気味なのね。ルリーシアが拘束を解いて、とりあえず寝かせているけれど。
そうして私の拘束は、ジェット様が解いてくださった。ロープが解けた後私の手を取って、とても心配そうに見つめてこられる。本当に大丈夫なのだけれど、ねえ。
「ローズ、大丈夫か」
「はい。殿下が彼らを口で叩きのめしてくださいましたので」
「確かにいろいろ言ってやったのは事実だが、お前も言うなあ……」
「ま、殿下ですし。どうせ現実を突きつけたんでしょう? 陛下は自分を見捨てるとか」
「ジェットはよく知ってるからな、今更だろ」
私は素直に事実を述べただけなのだけれど、ルリーシアにロープを解いてもらった殿下に肩をすくめられたわ。まあ、殿下のお言葉に少なからず若者たちがダメージを受けたのは、ジェット様にも推測できるようね。
「しかし、早かったな」
ぽんぽんと身体を払いながら立ち上がった殿下が、ジェット様に向かってそんなことをおっしゃられる。……助けに来てくださったのが早かった、ということであればたしかにそうね。劇場の舞台側にも、この若者たちの同志はいたはずだし。
「他に協力者がいなかったのか、衛兵どもの動きが早かったのか」
「劇場については、主に前者ですね。それと、明日のルリーシア殿の晴れ舞台を楽しみにと騎士団長が早めにおいでになっておりまして」
劇場の中にいたのは貴賓席を中心に出現した方々と、私たちをこの楽屋に連れてきた方々。もしかして、お外にちょっぴりおられたかもしれないけれど、その程度……せいぜい二十人もいない感じ?
そこに、どうやらルリーシアのお父上がおいでになっていた……あの騎士団長、室内戦闘訓練のときにお一人で十数名叩きのめしたことがあるとか伺ったことがあるわ。もちろん、ご息女であるルリーシアから。
「うわあ。来てたのか」
「はい。外にいた愚者共は、父と付添の部下で鎮圧いたしました」
ルリーシアの言葉から、騎士団長お一人でないことは明白。……ガンドレイ帝国の騎士団って、騎士一人が普通の兵士五人から十人ほどの戦闘力だという噂はかねがね伺っているのに……まあ、反逆者の皆様かわいそう。
「ということは、本気で俺を人質に取ればなんとかなるとでも思っていやがったのか、こいつら」
「そこまで浅はかではないと思いますが……」
いえ、ルリーシア。多分そこまで浅はかだと思うわよ。
まあ、さすがに騎士団が数名おいでになっていることまでは計算外だったのでしょうけれど、ここは一応衛兵とかが配置されている学園なのよ。そうでもなければ、本当に大軍で押し寄せるしかないというのだから……ギャネット殿下の身柄を盾に、皇帝陛下と交渉なさるおつもりだったのでしょうね。あてが外れて残念ね。
「とはいえ、父上も無茶をおっしゃる。二人で殿下をお救いしろとは」
「さすがは騎士団長とそのご息女、と感心したんだが」
「父親の地位と娘の実力が、きっちり比例するわけがありません」
「それは息子でも言えることだがな」
ああ、ジェット様とルリーシアだけだったのは、騎士団長のご指示だったわけね。二人の実力をご存知だったか見抜いていたか、ともかく理解しておられたからのご指示だったのでしょうね。ジェット様も、学園を出られた後は殿下の側近候補として修行に励まれるわけだし。




