073.令嬢は縛られる
楽屋まで連れて来られた私は椅子に座らされて、手首と足首を縛られた。あまりぎちぎちではないのでそう痛くはないのだけれど、花摘みなどの時はどうするのかしら。
まあ、その時はその時ね。ひとまず、もうちょっと伺いやすいところで話を聞いてみようかしら。
「先祖は先祖ですが、私自身は戦闘訓練など受けておりませんよ」
「分かっているが、念の為だ。ハイランジャの一族だけあって、度胸はあるようだからな」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
一応褒められたようなので笑って答えると、何というか引かれてしまったわね。こういう場合は、怯えたほうがいいのかしら。でも、今更だし。
と、また別の若者がおいでになった。同行しているのは……ギャネット殿下ね。貴賓席からこちらに来られるのは、通路がややこしくて大変だったでしょうに。
「ローズクォテア」
「殿下」
私と同じように座らされて、縛られる殿下。ジェット様はおられないようだけど貴賓席なのか、それとも別のところに連れて行かれたのかは分からないわね。ここで伺うわけにもいかないし。
「無事か」
「はい。手荒なことはされておりませんから」
「縛られている時点で手荒だと思うが」
「先祖のせいですわ」
「アダマスに押し付けるなよ。まあ、俺の方も主に父上やらご先祖のせいだろうが」
「今のお言葉、殿下にそっくりお返しいたしますわ」
「手厳しいな」
私よりも、殿下のほうがとても落ち着いておられる。そうね、皇族なのだから私よりもくぐり抜けた修羅場は多いでしょうし。
私たちを連れてきて監視しているらしい若者たちは、特に口を挟むことはない。余計なことを話しているわけではないから、かしらね。
そんなことを考えていると、余計なことを話しそうな声が廊下から響いてきた。……どこが彼らのお眼鏡にかなったのか、よくわからないのだけれど。
「はーなーしーてええええ!」
「ええいやかましい、少しはおとなしくしろ小娘!」
どたばたと音がして、やがて楽屋に入ってきたというか小脇に抱えられてきたのはまあやはりというか、セレスタ嬢だった。髪の毛がボサボサになっているし涙目……抵抗なさったのかしらね。こういう時は無駄なのに。
「あら、セレスタ様」
「何でまた、一番やかましそうなのを連れてきたんだ」
私はいいとして、殿下は思いっきり嫌そうな顔をしておられる。ここに来るまでいろいろあったからなあ、という感想しか持てないわ。
「やーだー、何でローズ様までいっしょにいるのー!」
「俺は無視か?」
殿下、突っ込むところはそこじゃないですとは口にしなかった。私『まで』なんですから、殿下がおられることが前提だと思うのですよ。って、私もそこではない気がするわ。
「黙れ。大人しくしていないと、お前たちのうち誰かの首が晒されることになるぞ」
「やだあ、首、やあ……」
彼女も、私たちと同じように座らされて縛り付けられて。ここまでくればさすがに、喚き散らすこともなくなるわよね。実際、疲れるからやめておいたほうがいいし。
「落ち着いて、セレスタ様」
「ふえ……」
一応声をかけてみると、セレスタ嬢はこちらに視線を向けた。顔が白くなっていて、すっかり意気消沈しておられるわね。仕方のないことだけれど。
「……何で、ローズ様は落ち着いていられるんですかあ」
「泣きわめいても、どうにもならないから……かしら」
「……」
問われたので答えたけれど、ご理解いただけたかどうかは、さて。周囲の若者たちのほうが何と言うか、感心しているみたいね。




