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宝角令嬢は普通に学園生活を送りたい【連載版】  作者: 山吹弓美


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057.令嬢は主に会う

 姿を見せた湖の主は、首の長い……水面から蛇が思い切り伸びて首をもたげているような感じの姿をしている。ただ、よく見ると水面すれすれのところに太い身体みたいなのが見えるから、あの長いのはすべて首のようね。

 額には私よりずっと立派な、長く鋭い白い角が生えているわね。……寝るときとか邪魔じゃないのかしら……私、こんな短い角なのにカバー掛けないとリネンを破ったりして大変だったのに。まあ、湖の主は寝るときにリネンは使わないか。


『ぎゅあああ』

「きゃっ」


 主が吠える声とともに、湖面がざわざわと暴れ始める。大急ぎで皆水から上がり、湖から少しでも距離を離そうとする。……グラン、主の子は置いていきなさい、主の子は。


「きゅあ!」


 その、主の子が一声上げたところで主はぴたりと動きを止めた。黒い両目が、主の子に向けられた、と思う。いえ、だってそれなりに距離があるんですもの、視線の向いた方角なんて分からないわ。


『ぎゅあ!』

「きゅあ、きゅあきゅあ」


 鳴き声と鳴き声が、お互いに行き来する。ああ、これはと思った時、ずっと岸におられたネフライラ様と視線が合った。


「……会話してますね」

「そうですわね……」

「どうも、お子様が親御様を説得してくださってるようですけれど」

「親御様も、お子様のお話をおとなしく聞いてくださってますわね」


 主は遠い場所から、吠えるように鳴いている。それに対して主の子は、普通にきゅあきゅあはしゃぐように鳴いているのだけれど、ちゃんと主には声が届いているようで。


『ぎゅあ?』

「きゅあー」


 何というか、「本当に?」「本当だよー」みたいに聞こえたのは気のせいかしら。ここにいるどなたも、湖の主の言葉は理解できないようだし。ギャネット殿下ですら、「何やってんだあいつら」と首をひねっておられるものね。

 そのうちに、主の子が自分をずっと抱えたままのグランを振り仰いで「きゅあきゅあ」と鳴いたわ。さて、何を言っているのか……このくらいは何となく、分かるわよ。


「帰りたいみたいですわね」

「そ、そりゃそうだよな……」


 グランも納得して、そろそろと膝くらいの水深のところまで戻る。そうして、主の子をそっと水の中におろしてから、遠くにいる主に向き直った。


「あ……お返しします! 申し訳ありませんでしたあ!」


 思いっきり大声を張り上げて、グランはぐんっと頭を下げたの。こちらの言葉が通じるのか心配だったけれど、主はしばしグランを見つめて、それから重々しく頷いた。


『ぎゅあ……』

「きゅあ、きゅああ」


 ばしゃばしゃ、すぐにすいすいと泳いで、主の子は主の元へ戻って行った。少し距離を離したところで振り返って、「きゅあ!」と一声鳴いたのはさよなら、って言ってくれたのかしらね。


『ぎゅあ』

「きゅあー」


 親子の鳴き声が重なるとともに、主の姿がゆっくりと水の中に沈んで、消えた。静かに消えてくれたのは、こちらを気遣ってくれたのね。ええ、そう信じるわ。


「……主に会えるとは、思ってもみなかったな……グラン、気をつけろよ」

「はい……」


 殿下にたしなめられて、グランは軽くへこんでいるわね。まあ、向こうから近寄ってきた動物が主の子だなんて、分からないものねえ。

 ……あれ、岸に全員上がっていたと思ったのだけれど、一人賑やかな方がおられないわ。


「……セレスタ様は?」

「そこで泡吹いて浮いてるぞ」


 尋ねてみたら、ジェット様がグランの向こう側を指差して教えてくださった。

 あらあら……セレスタ嬢は私たちから少し離れた水面で、仰向けにぷかりと浮かんでいらっしゃった。何事かぶつぶつ呟いておられるようだから、意識もあるようで一安心ね。

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