053.令嬢は昼食を頑張って作る
……さて。
昼食の時間なのだけれど、昨日食べたサンドイッチを、違う中身で作れという指示が教師から出されたのよね。
パンを切って、中身を切って、積み重ねればいいわよねと私やイアンは考えたわ。
……それで済めばよかったのだけど。
「ハムの厚さが違います、ジェット様」
「し、仕方ないだろう。どうしても歪むんだ」
既に手慣れておられるはずのジェット様が、ハムを斜めや厚さバラバラにスライスされたり。
「トマトが上手く切れませんわ」
「もっときちんと研がれたナイフを使ったほうがよろしいかと」
「そうしましょう」
ネフライラ様も経験済みであられるはずなのに、力を入れすぎてトマトを潰してしまったり。
「きゃ! 殻が混じってしまいました!」
「取らないと、噛んでも美味しくないっすよ?」
「ぬるぬるしているのを、ちょっと触りたくないです……」
スクランブルエッグを担当されたコーラル様が、混じった卵の殻を取るのに涙目になっていたり。
「ふんごおおおおおお!」
「頑張ってくださいまし、イアン!」
クリームと入れ物が用意されていたので、それを振ってバターを作るのはイアンが担当してくださったのだけれど、大変よね。見ているだけでも分かるわ。
あ、私はレタスを洗って水切りして丁度いいサイズにちぎるのを担当したのだけれど……つい小さくしすぎて持ち上げるときにぼろぼろ落としたりとか、水切りがうまくできてなくてパンが水っぽくなったりとかしてしまったわ。
「ば、バター作る羽目になるとは思わなかったっす……」
「クリームまでは作ってくださってたんですね……はい、どうぞ」
多分一番疲れたであろうイアンに、ミルクを差し出した。「ありがたくいただくっす」とコップ一杯を一気に飲み干してしまって、イアンは軽く目を丸くしたわ。
「バター振ってて重みがあるって思ったんすけど、結構このミルク濃いっすね」
「この近くに牧場があるはずですから、そちらから持ってこられたのでしょうね」
もちろん、この別荘を皇帝陛下のご一族が使われる際にはその牧場の家畜たちが調理されて食卓に上るのだ、とは伺っているわ。ただ、皇帝陛下が召し上がられるのと同じミルクをいただけるのはとても、ありがたいわね。いつものミルクよりちょっぴり豪華な感じがするもの……多分、思い込みだけど。
新しいミルクを注ぎ足して、それに添えて私たちが四苦八苦した結果であるちょっと崩れたサンドイッチの乗った皿を並べる。全員分をそうやって並べて、私たちは食卓に勢揃いした。
「では、いただきます」
『いただきます』
ネフライラ様の声に合わせて挨拶の言葉を紡ぎ、それからサンドイッチにかぶりつく。あ、またレタスが一切れこぼれたわ。これは私のミスね。次があったら、もっと大きくちぎりましょう。それと、水切りをきっちりと。
それでも。
「ああ、美味しい……」
かじって、噛んで、飲み込んで、そうしてちょっと感動した。レタスとハム、レタスとトマト、スクランブルエッグ、バターを塗ってそれぞれを挟んだパンと言うだけなのに、どうしてこんなに美味しいんだろう?
「トマト、こんなに美味しかったのね」
「少し固くなってしまいましたけれど、玉子も何とか上手く行けたようですね。よかった」
「頑張って作ったバターが美味いっす……」
ネフライラ様とコーラル様が、お互いに顔を見合わせて表情をほころばせる。そして、そうね、イアン。あなた、一番頑張ったものね。美味しくてよかったわ、ねえジェット様?
「うん、美味い」
ほっと笑顔になられたジェット様を見つめて、私も笑顔になることができたわ。ミルクも頂いて、とっても満足。




