048.令嬢は昼食を堪能する
食堂の席に案内されると、程なく昼食が準備された。タマゴサンドにじゃがいもの冷製スープ、チキンサラダとフルーツ。シンプルなものの組み合わせだけれど、大掃除をしてちょっと疲れた身にはとても美味しそうに見えるわ。
……ところで、セレスタ嬢はわざわざ奥にしまってあるであろう私たちの分を自分用に出せ、と要求したってことになるのかしら。そうするとさすがに、ギャネット殿下もお怒りになるわよね。荷物扱いもやむなし、というところかしら。
まあ、そのようなことを気にしていても仕方がないわね。まずは昼食よ。
『いただきます』
「んまーっ」
一口食べた瞬間にそんな声を上げたイアンに、下品ね、と言うことはできなかったわ。程々の甘みを持つスクランブルエッグを挟んだサンドイッチの、喉に染み渡るような柔らかな味のおかげで。
「シンプルなタマゴサンドがこんなに美味しいなんて……」
「掃除を頑張ったのですから、当然ではありませんかしら」
にこにこ笑いながらそうおっしゃったネフライラ様が、スープを一口含まれる。ほう、と息を吐いて、頬に手を当てられた。
「冷製スープが染み渡りますわ……この滑らかさ、丁寧に濾されたというのが分かりますわね」
「チキンサラダもなかなかだな。肉がしっとりとしていて、それでいてきっちり味がついている。野菜と一緒に食べても何の違和感もない」
ジェット様がチキンサラダのご感想を述べられるなんて、よほど気に入られたのね。もともとお肉やお魚が好きで、お野菜は必要最小限しか摂られない方なのに。
……学園に入られてからは、お野菜を摂る量も増えたようだけれど。食堂の方に怒られたのか、殿下に呆れられたのか、さて。
さて。私が言いたい感想はだいたい、他の皆様がおっしゃってくださったので。私は一言、付け加えるだけにしましょう。
「……おかわりをしたくなったセレスタ嬢の気持ち、ほんの少しだけ分かった気がしますわ」
「かと言って、駄目なものは駄目ですがね」
「ええ、本当に」
コーラル様と顔を見合わせ、小さく頷き合う。まだ到着されていない二つの班の分をきちんと残しておかなければいけない、と心に決めながら私たちは、綺麗に昼食を片付けることができた。
返却口まで食器を持っていきながら、ふと気づく。今後は朝食はここで摂らせてもらえるけれど、それ以外は自力で調理しなければならない、のよね。その前に、今日の夕食は。
「昼食にこのように美味しいものを頂いて、夕食は自力調達なのですわよね……」
「大丈夫っすよ。取れたての魚に塩を振って焼いただけでも、かなり美味いっすから」
「肉が採れた場合、ちゃんと焼くだけで食べられるように処理はしておく。心配するな」
思わずぼそっとこぼすと、イアンとジェット様がそれぞれにお言葉をくれた。イアンは食料の現地調達やその場での調理には慣れているようだし、ジェット様もお肉の下処理はお得意のようなのでおまかせしたいわね。ネフライラ様もコーラル様も、それでいいようだし。
「私は、魚の調理方法は知りませんから……ご存じの方におまかせするのが一番かと」
「動物を解体して食べられるお肉にする、というのは理屈では分かるのですがその……とても手を出せそうになくて」
まあ、分かりますわ。お肉の元が動物で、それを解体して私たちの知るお肉にするお仕事があるというのも。
お野菜にしたところで元の植物は土から生えていて、その土を耕したり肥料を作って撒いたり、汗水流して収穫したりするお仕事もありますし。
それを少しでも理解しろ、というのがこの合宿に別荘をご提供くださっている皇帝陛下のお考えなのだと思いますわ。私たちは、そういった方々の上に立って生きているのですから。
「食事がいただけるだけ、ありがたいと思わねばなりませんのね」
「ええ、そうですわね……」
少なくともそのことだけは、身にしみて分かりましたわ。本当に、ご馳走さまでした。




