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宝角令嬢は普通に学園生活を送りたい【連載版】  作者: 山吹弓美


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043.令嬢はうんざりする

 私が桶を二つ、ネフライラ様が一つ持って井戸までやってくる。コテージ一つに一ヶ所設置されているそこから水を汲み上げながら、ネフライラ様がちょっとしたお話をしてくださった。


「ローズクォテア様のことはね、私どもはよく存じているのですよ。お話でだけ、ですけれど」

「……は、はあ」

「ジェット殿が時々ね、微笑むお顔がとても愛らしいとかお角が可愛らしいとか、無自覚でおのろけになりやがるものですから」


 まあ。ジェット様ったら、ギャネット殿下もおられる場所でそんなことをおっしゃって……って、え?


「やがる?」

「あらいやだ。ほほほ」


 思わず口にしてしまった言葉に気づかれたようで、ネフライラ様は口元に手を当てて笑われた。それから、理由を教えてくださる。


「口の悪い兄がおりましてね。軽く伝染ってしまいまして、たまにですがその口調が出るのですよ」

「まあ、それは……」

「口調がおかしいだけで有能ですから、家を継ぐことは決まっていますわ。アメジスティオ殿下には、学園生のころから良くしていただいておりますし」


 さらりと出された名前に、思わず目を見張ったわ。

 アメジスティオ・ガンドレイ・スターティアッド第一皇子殿下。ギャネット殿下のお兄様であり、ガンドレイ帝国皇位継承第一位。すなわち、次期皇帝陛下である。そのお名前が、ここで出てくるなんて。


「第一皇子殿下、ですよね」

「ええ。お互いに相手の口調が伝染ったのだ、と顔を合わせればまずはその話ですわね」


 なるほど。ネフライラ様のお兄様とアメジスティオ殿下が、おそらく学園で同級生とかそう言う関係だったのね。ギャネット殿下とジェット様のような、仲の良い友人関係。

 既にお二方とも学園を卒業しておられて私は知らない方々だけれど、今でも仲がよろしいのであればいいわね。




「あ、ローズ様あ」


 と、すっかり聞き慣れた声で名前を呼ばれてしまったわ。振り返ると、やはりそこにセレスタ嬢がおられる。

 ……こちらの井戸まで来なくとも、あなたがたの暮らすコテージに井戸はあるでしょうに。それとも何か、お話でもあるのかしら?


「まあ、セレスタ様」

「えーと、こちらは?」


 ネフライラ様がセレスタ嬢のお顔を伺って、私に視線を向ける。これは、私がお二方を紹介しないといけないわね。


「クラスメートのセレスタ様ですわ。セレスタ様、こちらはオレアンダー男爵家のネフライラ様。三年生の先輩です」

「先輩かあ。よろしくお願いしますね!」

「ええ、よしなに」


 相変わらずの口調なのだけれど、それでもセレスタ嬢はきちんとご挨拶をしてくださるようになっただけマシよね。いきなり角を折られそうになったときはもう、頭が壊れるかと思ったもの。

 そんな私の考えが分かるわけもなく、セレスタ嬢はやはりいつものように口を開かれた。


「あ、三年生だとちょうどいいのか。聞いてくださいよう、ギャネット殿下が構ってくれないんですー」

『はい?』


 つい、ネフライラ様と言葉がピタリと合わさってしまったわね。というか……ギャネット殿下、初日からこれで大丈夫なのでしょうか?


「せっかくコテージのお掃除なんで一緒にやりたかったんですけど、殿下ったらアレクセイさん連れて行っちゃってー」

「力仕事や、高い場所の作業だったのではないのですか?」


 愚痴を続けようとしたセレスタ嬢の言葉に重ねるように、ネフライラ様が口を開かれた。こちらでジェット様やコーラル様が請け負ってくれたのと同じような作業を、殿下がアレクセイを連れて引き受けたのならば理解はできるわね。ただ、アレクセイ、力仕事はあまり得意でなかった気はするのだけれど。


「女にはやりにくい作業を、殿下御自ら受け持ってくださったのですわね。さすが殿下ですわ」

「え……あー……」

「ジェット様もそうしてくださったんですよ。さすがですわ!」


 ほわほわとした笑顔でお言葉を続けられたネフライラ様に、私も便乗することにしよう。セレスタ嬢のお話に付き合うよりも、水を汲んでコテージに持ち帰ることのほうが私たちには大切だものね。

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