038.番外:転生令嬢は展開にへこむ
部屋に戻って、ベッドに大の字になる。
あー、面倒なお説教食らっちゃったなあ。ていうか、シンジュ様からのお説教なんてもうちょっと話が進んでからのサブイベントだった気がするんだけど! 何で、こんな早くから出てきちゃうかなあ?
「やっぱり、アップデートとかされてるよねえ。ルート変更とかあったらやだなあ」
そうしたら、まるで別のゲームになっちゃうじゃないの。基本的にキャラクターとかの変更はないみたいだから、そこまでテコ入れはされてないと思うんだけど……なんて考えたところで、お腹がぐうと鳴った。
あれ、晩御飯どうしよう。またクラスの皆と顔合わせるの、今日はちょっとやだなあ。カフェでも行ってくるかな、あっちだと見つかる可能性低いし。
「えーと、何処まで行けてるんだっけ」
戸棚の中から、誰にも見られないように隠しているノートを取り出す。フラグやら何やらをメモするための、大事なノート。
内容をチェックすると、一応今の時点で立てられるギャネット殿下ルートのフラグは立てられてるはずなんだけどなあ。ジェットさんとローズ様が仲いいままでいてくれると、バッドエンドにもなりにくいし。
あーもう、ゲームの攻略ってリアルタイムでやるとこんなにめんどくさいなんて思わなかった。フラグとか、いちいち覚えてらんないもん。どこかにステータス見られる部屋とかないのかしら、ねえ。
まだ学園に編入してから二ヶ月そこらなんで、シナリオがきっちり進んでいるわけじゃない。一応、ギャネット殿下にはこまめに声をかけたり隣りに座ったりしてるから、そろそろ印象強くなってきてもいいはずなんだけどなあ。
「マジでシナリオおかしくなってんじゃないでしょうね、もう」
ノートを閉じて、隠し場所にしまう。子爵の娘にならなけりゃ、こんなノートなんて使えない世界なのよね、ここ。平民は学校で貸し出される小さな黒板みたいなやつに書いて消して、ってするもんなのよ。
ま、筆記用具のことなんてどうでもいいわね。
それにしても殿下、いい加減セレスタって呼んでくれていいはずなのに、全然呼んでくれないし。ラズロさんの協力もうまく取り付けられなかったし、シンジュ様にはお説教されちゃうし。
……もしかして難易度が変わってるとか、そういうことあるのかな? もともとのゲームは既にクリア済みだから、難易度ハードでやり直してねとか……うわあ、ありそうでいやだー。
ん、待ってよ。難易度とか変わってるとなると、変なところに変更入ってないでしょうね。例えば。
「殿下ってこの頃からローズ様にベタぼれ、とかいう?」
うわ、有り得る。だから、私が近づいても平然としてるとか。
前世はともかく、セレスタとしての私はとっても可愛らしい女の子だって、誰から見ても思われてるはずなのに。だからギャネット殿下だって、あんまり女性に興味ないのに私、というかセレスタのことを気にかけてくれるわけだし。
もっともこの世界のローズ様、何か設定変わってるみたいだしなあ。おでこに角生えてる人間なんて、ゲームのときにはいなかったもん。ハイランジャだっけ、のご先祖様がめちゃくちゃ強い人だったってのは設定資料で読んだことあるけど、ゲーム本編でそんなの出てこなかったし。
「かー、むかつく」
変な角生やしてるのに、殿下に惚れられてるなんてほんとむかつく。婚約者だっているのにさ。
ま、でもさすがに露骨な嫌がらせとか冤罪なすりつける、なんてのは味方を増やさないとこっちが不利なんだよね。というか、正直めんどくさい。ラズロさんが変に暴走したせいで、今後はこっちを見る目も厳しくなりそうだし。
そうすると、自力で殿下に惚れさせるしかなくないかな、私。
「…………やばくね?」
今からシンジュ様が言ってたような女の子になって惚れさせる、というか周囲もまとめて固めちゃわないと駄目じゃね? でもそれ、正直無理じゃね?
まーじーかー。
「……バッドエンドだけは避けたいよう……」
あー……晩ご飯食べに行く気力失せた……確かクッキー残ってたな、あれで我慢しよう……。




