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宝角令嬢は普通に学園生活を送りたい【連載版】  作者: 山吹弓美


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030.令嬢はたしなめる

「ひーどーいーでーすー!」


 ジェット様と別れて教室に戻る途中、向こう側からセレスタ嬢の大声が聞こえてきた。わざと張り上げていることが丸わかりの声に私と、実は私たちの近くで昼食をとっていたフォスはうんざりしたわ。


「た、大変お元気そうですね……」

「サンドラは平気かもしれませんけれど、アレクセイは大変だったでしょうねえ」


 顔を見合わせながらそんなことを言っている間に当のセレスタ嬢と、そして双子の姿が見えてきた。どうやら、お昼のことに関して文句を述べておられるようね。


「私だって、ギャネット殿下とお昼ご一緒したかったですう!」

「それを殿下が嫌がられたのだから、仕方がないでしょう?」

「というか、何で僕たちが見張り役なんだよ!」

「彼女に対抗できるから、らしいけど」

「ひーどーいいい!」


 どちらが酷いのですか、と口を挟みたくなったけれどこれ以上巻き込まれるのもごめんだしね。とりあえず、双子には声をかけてみましょう。


「アレクセイ、サンドラ。お疲れ様ね」

「ローズ様、フォセルコア! いやもうほんと、僕は疲れましたよ!」

「単純に、セレスタがうるさかっただけですわ」

「えー」

「一事が万事あんな発音ですからねえ。耳が疲れます」


 アレクセイは肩を落としてげんなりと、サンドラは眉尻を釣り上げて少々お怒りのご様子。セレスタ嬢自身は頬を膨らませて、自分の扱いがとてもご不満のご様子。その「えー」の声ですら声量が大きくて、耳をふさぎたくなるわね。


「あなたは、いつもそんなに元気に発言していて疲れないのですか?」

「えー……ちょっとは疲れるかな」

「でしたら、声を張り上げるのを少々我慢なさいませ。皇子殿下の横に並びたければ、はしたない大声は嫌われますわよ」

「む……それもそうですね」


 さすがにたしなめると、当人も理解してくださったのか不満げな表情ながら頷いてくださる。それから言葉を続けたのだけれど。


「分かりました。ローズ様からというのがちょっぴり不満ですが、がんばります」

「あら、どうして?」

「何でローズ様から助言いただけるのが不満なんだ?」


 私と、そしてアレクセイの声がかぶる。初対面が初対面だったので正直、私はセレスタ嬢にはあまりいい印象は持ち合わせていないのだけれど、それでもそれなりの態度では接してきたはずよ。

 そして、私たちへの返答は正直に言えばしょうもない、という言葉で片付くものだった。


「だって、ローズ様は何もしなくてもうまく行ってるじゃないですかあ。お家もいいところだしい」

「傍目にはそう見えるだけ、かもしれませんわよ? 幼い頃から婚約者として、よくお会いしてますから」

「むー」

「中等部に入られる以前に大変だったこともあった、っておっしゃってましたもんね。ローズ様」


 そうそう。

 あなたには高等部に入ってからのほんの一ヶ月ほどしか見えていないから順風満帆に見えるのでしょうけれど、これでも小さい頃から喧嘩したり泣かされたり泣かせたり、大変だったのよ。それがあっての今があるの。

 もっとも、そう言ったことをあなたに理解していただこう、とは思いませんけれどね。


「というか、だね」


 アレクセイがこほん、と一つ咳をしてからセレスタ嬢をまっすぐに見据えた。あら、少し弱気っぽい彼が珍しいわね。サンドラや私、フォスがいるから安心しているのかしら。


「男の目から見て言いますけど、セレスタ。君、下品」

「え」

「言葉遣いはこの際気にしないよ。君の個性とやらなんだろうし」


 まあまあまあ。

 アレクセイ、先程のお昼休みでよほどうんざりしたのかしら。サンドラが目を見開いて、双子の兄上を見つめているわよ。そんなこと言い出すなんて思わなかった、という顔で。


「でも、馬鹿みたいな大声張り上げたり、人の話も聞かずにあまり親しくない人の身体に触ったりするのはどうだろうね?」

「アレクセイ様がそう言うレベルなのですから、ギャネット殿下がどうお考えかなんてお察しですわね」

「え、ええ……」


 あ、フォスがしっかり参戦してきたわ。普段ならサンドラが言いそうな台詞なのだけれど、そのサンドラがしばらく動けないようだから、その代わりに。


「ご実家の爵位に問題がなくとも、ご本人に問題があっては殿下も受け入れてくださらないでしょうね。何より、陛下がお許しにならないはず」

「そ、そんなことないもん! ちゃんとやれば、私だって」

「ならば、その『ちゃんと』をおやりなさい」


 ふう、私も一言言うことができたわ。そう、貴族の娘として、学園の生徒として『ちゃんと』すれば何も問題はないはずなのよ。セレスタ嬢は、それができていないから問題なのよね。


「分かったわよ! 何よ、後で泣いても知らないから!」


 だからそう申し上げただけなのに、なぜかセレスタ嬢は自分のほうが偉いのだと言わんばかりの態度を取って教室の中に入っていかれた。……何をおっしゃってるのかしらね。


「……どなたが泣かれるのでしょう?」

「さあ?」

「自分じゃないのか?」

「セレスタ様では?」


 首をひねった私とサンドラと、何気なく酷いことを言っているような気がするアレクセイとフォス。

 本当に、どなたが泣かれるのかしらね?

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