029.令嬢は遠くから見守る
「伯母上に絞られて大変だったな、ラズロ」
「は、はい」
一夜明けて、またもやお昼。昨日と同じく食堂で、ラズロがトピア嬢と共にギャネット殿下のお向かいに座っている。殿下のお呼び出しでそうなったのだけれど、どうやら学園長にこってり絞られた後を任されたらしい。
「まあ、今回は厳重注意ということで良かったと思えよ。伯母上は馬鹿は嫌いじゃないが、何度も繰り返す大馬鹿は大嫌いだからな」
「肝に銘じます……」
本日は魚のフライ定食。そこに殿下は、二人の分にだけデザートのプチケーキを付けてくださっているようね。べっこり凹んでいるラズロには、慰めになるかしら。
「……トピアにもとりなしていただきまして、本当に」
「ラズロも、これに懲りたらよその女に目移りなんてしないようにな? お前がその気でなくとも、彼女の方が気にするぞ」
「は、はいっ」
ちらちらと、隣に座っているトピア嬢に視線を何度も向けつつラズロはやっぱり凹んだままね。……セレスタ嬢はどうやらギャネット殿下にご執心の様子だし、目移りしても脈がないと思うのよ。
さて、トピア嬢。まだまだ幼い感じではあるけれど貴族の娘だけのことはあって、しっかりと前を向いておられるわ。……年齢差をさておいても、ラズロは彼女の尻に敷かれることになる気がするわね。ええ。
「ギャネット殿下。本当に、ありがとうございます!」
「うん、気にするな、トピア。次に浮気と思しきことになったら、遠慮なく言ってこい」
「はい!」
わあ。ラズロの顔がもう、真っ青になっているわ。もうしばらく、回復にはかかるでしょうね。そのお隣でにこにこと昼食を食べ始めているトピア嬢とは対照的に。
「ギャネット殿下が飴で、学園長が鞭ですのね」
……と、ここまで見ていたところで私は感想を口にした。彼らと同じ魚のフライ定食を、私の隣にいてくださるジェット様と共に食しながら。
「殿下のフォローがあること前提で、手厳しく叱っておられるようだからな」
「でもそれ、殿下が学生である間しか使えませんよね?」
「そうなんだよな」
学園長は、自身の甥御様に当たられるギャネット殿下の存在をも利用されておられるらしい。しかし、もうすぐ殿下も学園を卒業されるお年だし、その後どうなさるのかしらね? 私が考えることではないのだけれど。
「まあ殿下の存在はともかく、厳重注意であれば学園内で収められるからな。これが実家への通達などになると、殿下では太刀打ちできないさ」
「もう、それぞれの家同士の問題ですものね……」
厳重注意の場合、問題を起こした生徒当人への注意だけで終わる。学園長直々の注意なので、大概の生徒は以降問題を起こすことはない、と伺っているわ。
それで収まらない、もしくはそもそもの問題がそれ以上に重要であった場合。学園から生徒の実家に通達があり、その後の処分なども実家とのやり取りで決まるらしいわね。その問題が生徒同士のいさかいであったりすれば、当然該当者の実家同士の問題となる。
「俺たちは、学園長にお手間を取らせないようにしないとな」
「本当ですわね」
ジェット様と顔を見合わせて、絶対に問題を起こさないようにしようと心に決める。巻き込まれてしまったのなら仕方のないことだけれど、少なくとも自分から問題を起こすことのないように。
「そう言えば、セレスタ嬢はどうしてるんだ?」
「殿下の命により、今は別の場所でお昼をとっておりますわ。アレクセイとサンドラがお相手を買って出てくれまして」
「……セレスタ嬢以上に賑やかそうだな」
「楽しそうで何よりですわ」
ええきっと、サンドラが楽しそうにいろいろ尋ねたり囃したりしているでしょうからね。セレスタ嬢も自分のことで忙しくて、こちらにまで気が回らないでしょうから。




