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宝角令嬢は普通に学園生活を送りたい【連載版】  作者: 山吹弓美


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028.令嬢は待つ

「結局、戻ってこなかったっすね」

「揉めてるんじゃないかなあ?」

「先生もお困りでしたな……」


 教室に残っている殿方三名が、それぞれに小さくため息を吐く。

 結局、シンジュ様に引き連れられたセレスタ嬢、そしてラズロが本日の授業が終了するまで教室に戻ってくることはなかった。教師にそれぞれ説明をしたときの頭を抱える動きが、皆よく似ていらしたのは気のせいかしら。


「あの二人は当事者だからともかく、シンジュ様まで巻き込まれてしまってますもんね」

「中等部に様子を見に行く、というのも手だが」


 サンドラとルリーシアが顔を見合わせ、「やめておいたほうがいい」という結論に達していた。それは、私も同じ意見ね。


「私たち第三者がこれ以上入っても、事態がややこしくなるだけですわ」

「シンジュ様なら、大丈夫だと思うのですが」


 その私とフォスが声をかけたほんの数瞬後、教室の扉が開く。そこから入ってこられたのは、シンジュ様お一人だった。


「ただいま戻りましたわ。……授業は終わっておりますのね」

『お帰りなさいませ、シンジュ様』


 少々お疲れのにじみ出るお言葉に、私たちは一斉に頭を下げる。ええ、今日の授業は既に終了していたのだけれど気になって皆残っていましたの、とまでは口にしないけれど。


「……セレスタ嬢とラズロはどしたんすか?」

「今、学園長室でお説教の真っ最中ですわ」

「わあ」


 イアンの問いへの答えに入っている学園長室、という単語で皆が固まったのがわかるわね。

 スターティアッド学園というだけあり、代々学園長は現在の皇帝陛下の一族であるスターティアッド家の方が務めておられる。現在の学園長は皇帝陛下の姉君であらせられる、サフィレア・ガンドレイ・スターティアッド皇女殿下。未だ独身で、国と結婚したとも言われるパワフルな方だ。リンゴなら余裕で握りつぶせるという噂は伺ったことがあるわ。

 ちなみに学園内で殿下と呼ぶと「学園長とお呼びなさいね」と、シンジュ様を上回る背筋も凍るような笑顔でたしなめられるのよ。さすがは皇帝陛下の姉君、迫力がそれこそ半端ではないの。甥御様に当たられるギャネット殿下ですら、身体を縮めて平伏されるレベルよ。

 その学園長にお呼び出しを受けて、ある種の密室である学園長室内でのお説教。それはそれは、身も震えるような恐怖というものね。とは言え、そんなことになったのはセレスタ嬢と、そこにうっかり乗ってしまったラズロのせいだし。


「『夕食には返すつもりですが、長引いたらごめんなさいましね?』と学園長様より伝言を賜っておりますわ」


 シンジュ様の笑顔も、少々引きつっておられるように感じるのは気のせいかしら。いえ、気のせいでもそうでなくても構わないわね。わ、私どもには今のところ関係のないことだし。

 それよりも、自業自得とは言え学園長に捕まってしまった二人が少しだけ心配ね。


「夕食に帰ってきても、食べる気力があるのでしょうか?」

「無理だと思いますわよ。おそらく、明日の朝までは」


 グランは学園に来てから日が浅いけれど、それでも学園長の噂についてはそれなりに知っているようで顔が少し青ざめている。シンジュ様のお答えはこれでも見積もりが緩めである、とは彼以外の皆が知るところかしらね。


「そうすると……先に行っても、怒られませんよね?」

「大丈夫でしょう。学園長は、長引くこと前提でおっしゃっていたように思いますし」


 ああ、もしかしてグランはお腹が空いているのかしら。それは仕方のないことね、正直私もそうだし。そうすると、おそらく皆同じでしょう。

 それをシンジュ様もご理解くださっているのか、もしかしたらご自身もなのかもしれないけれど。ともかく、夕食に向かっても問題なさそうなお答えを下さった。そうして、率先して次のお言葉を投げかけられる。


「では、皆で夕食に参りましょうか」

「そうしましょう」

「まあ、お二人は説教されても仕方のない事態っすしねえ」


 サンドラがあっさり同調し、イアンが肩をすくめたことで全員が教室を出ることにした。もちろん、私やフォスも。

 ラズロとセレスタ嬢が今宵の夕食と、そして明日の朝食をぐったりして摂ることができなかった、というのは後の話ね。

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