022.令嬢は反論する
一応、一時限だけお休みをしてその次の休憩時間、私はジェット様に付き添っていただいて教室に戻った。
……扉のそばまで来ると、何やら教室内が賑やかなようだ。
「ですから、ローズ様にはそのようなことは無理だと先程から申し上げております」
「だって、セレスタが階段転げ落ちるなんておかしいじゃないか! ローズ様のほうが友達も多いし、絶対何かの陰謀だって!」
フォスと……あの声はラズロかしら。何の口論をなさっているのか、って私の名前が出ているのだから私のことよね?
この状況で入室するのは、少々気が引けるわね……と思いながらジェット様を見上げると、眉間にしわを寄せていらした。それでも男前でかっこいいのはお変わりないけれど、どうせなら笑ってくださったほうが私は好きよ。
「……賑やかだな。俺も入るか?」
「いえ、大丈夫ですわ」
「そうか。気をつけろよ」
「ありがとうございます」
さすがに、我が学年の話でしょうし。上級生であるジェット様のお手を煩わせるわけにはいかないわ。
だからそう申し上げて、私はジェット様に頭を下げると扉を開いた。
「……何のお話ですの?」
「ローズ様!」
そこには既に、セレスタ嬢以外の全員が揃っておられた。教壇前でラズロとフォスが睨み合っていて、他の方々はそれを遠巻きに取り囲んでいる感じね。
「ローズ様!」
反応が一番早かったのは、ラズロだった。つかつかと私に歩み寄ってきて、そうしてとんでもないことを言い出される。
「さっきのあれ、誰かにセレスタ落とせって命じたの、あなたですよね!」
「は?」
さっきのあれ、とはつまり、セレスタ嬢が落っこちてきて私にぶつかったあれ、で間違いないわよね?
しかし、どうしてそれがそのような発想に至るのかしら。私はそれなりの頭を持っていると思うのだけれど、分からないわ。
「いやですわ。どうして私がそのようなことを、誰かを使ってやらなければなりませんの?」
「それは、セレスタが可愛いから!」
「……」
ラズロの一言で、教室内が綺麗に静まったわね。
確かに、セレスタ嬢は可愛らしいお顔をしておられる。けれどそれがどうして、彼女に何かする理由になるのかしら?
大体ラズロ、あなたには婚約者がいるでしょうに。それを、同じ学年だからと言って一人の女性をひどくひいきにするのはどうかと思うの。
まあ、考えていても始まらないわね。話を進めましょう。
「まあ、可愛らしいのは否定しませんが、だから何ですの?」
婚約者がありながら、別の女性に惹かれたのかお間抜けな発言をされる伯爵子息、そんな方に、私が負けるわけがないわね。故に私は、はっきり申し上げる。
「階段から落とす、なんて即物的なやり方を私は好みませんわ。といいますか、私も巻き込まれたわけですし」
「それは、下にジェット様がおられたから」
「不確定要素ですわねえ」
私へのラズロの反論に、ぼそりと呟かれたのはシンジュ様。いつものお席で、呆れ顔になっておられるのがはっきりと分かるわ。
「ジェット様がおられたから自分に向けて人落とせ、なんて無謀な指示、誰が出すんですか?」
「ラズロ様は出すんじゃないかしら? ご自身がそうおっしゃるんですもの」
あ、普段はそれなりにおとなしいアレクセイが肩をすくめているわ。サンドラの地味に厳しい言葉はまあ、いつものことだけれど。
ルリーシアは無言で、腕を組んで私とラズロを見比べているようね。これは、イアンとグランも同じようだわ。状況を見て、口を挟まないことにしたのかしらね。賢明だと思うわよ、ええ。
「ただいまあ」
と、そのようなタイミングでセレスタ嬢が戻ってこられたわ。ええと、これはタイミングがいいのかしら? 悪いのかしら?




