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宝角令嬢は普通に学園生活を送りたい【連載版】  作者: 山吹弓美


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017.令嬢はケーキをいただく

「お待たせいたしました。コーヒーと、ケーキセットでございます」


 落ち着いた内装のカフェは、やはりというかカップルでその席の八割ほどが埋まっているわ。その中に私とジェット様もいるのだと思うと、ほんのり顔が熱くなってしまいそう。

 ジェット様が注文したのは、最近生産量が増えたらしいコーヒー。このカフェでは、そこそこのお値段で飲めるようになっているわ。

 私はケーキセット。ケーキと紅茶のセットで、ケーキの種類は選べるということで今日はシンプルなショートケーキを頼んだ。やってきたケーキは普通よりちょっと小ぶりかしら、と思えるサイズだったのだけれど、食器やカトラリーともども愛らしかったので良いことにしましょう。


「へえ、可愛らしいな」

「そうですわね。それに、このくらいのサイズでしたら食べやすいですわ」

「間食にはちょうどいい量、なんだろうな」

「はい」


 そうね。少し足りないかしら、と思ったらもう一つ頼んでも次の食事には響きにくいであろうサイズなのね。

 一口いただくと、クリームのほどほどの甘さと載せられたフルーツの酸味がよく合っていて美味しい。もし外に同じケーキを出す店があれば、行きつけになりそうね。

 そんな私の目の前で、ジェット様がコーヒーを口に含まれる。私はあの苦味があまり好きではないのだけれど、ジェット様にはとても似合っている感じがするわ。


「それにしても、コーヒーがこの値段で飲めるとはな」

「生産地を領地に持つ貴族が、大量生産に成功しつつあるそうですわ。そう言う話を、聞いたことがあります」

「なるほど。俺たちのような貴族の若造に飲ませることで、将来の顧客を確保するってことか」


 授業の中で出てきた話をジェット様にお伝えすると、コーヒーと同じく少し苦い感じの笑みを浮かべられた。

 まあ、当の貴族の思惑もわからないではないわ。ジェット様のようにコーヒーを好まれる方が増えれば、それだけ需要も高まるものね。それを見越してその貴族は、学園にカフェを開いてくださったのかしら。私としては、ケーキが美味しいのが嬉しいのだけれど。


「私は紅茶のほうが好きなんですけれどね」

「それは好みの問題だから仕方ないな。俺も、紅茶が嫌いなわけではないし」


 この国ではコーヒーは最近入ってきた、歴史の浅い飲み物。その前から、紅茶が一般的なノンアルコールの飲み物として幅を利かせているわね。他にはジュースとか炭酸水とかだけど、基本的には紅茶を飲むことが多いわ。ストレートだったり、砂糖や蜂蜜を入れたり。最近は牛乳を入れるという飲み方も増えてきたようね。まろやかでちょっと好きよ……今日は蜂蜜を入れているけれど。

 視線に気づいて顔を上げると、コーヒーカップを置いてジェット様が私を見つめておられた。私もティーカップをソーサーに戻して、何事か伺おうとしたのだけれど、その前に。


「角もそうだが、ローズも綺麗になったな」

「まあ」


 不意打ちは卑怯、だと思うのよ。思わず頬に手を当ててしまって、温度の上昇を確認してしまったわ。……ティーカップを持っていなくて、良かった。


「それに、中等部の制服も似合っていたが、高等部のものもよく似合う」

「不公平ですわ。私はジェット様の中等部の制服なんて、ほとんど拝見できなかったのに」


 追い打ちをかけてくださるなんて、さらに卑怯だわ。それに、中等部と高等部の制服って、そうデザインに代わりがあるわけではないのに。中等部のほうが胸元のリボンタイが大きめで、高等部のほうが落ち着いた色味になっているくらいじゃないの。

 それにそう、ジェット様がこの学園に入学なさる直前にしか、私は中等部スタイルのジェット様を拝見していない。あの色はあの色で、とてもお似合いだったのよ。


「入学前くらいか、そういえば」

「そうですわよ。私が中等部に入ると同時に、ジェット様は高等部に上がられたんですから」

「二つ違いだからなあ、仕方ないだろ」

「仕方ないのですけれどねえ」


 そう、年齢差のせいで仕方のないことなのだ。……いえ、二つしか違わないので同じ学園で過ごす時間がある、といったほうが正しいのでしょうね。本来なら、婚約者同士の年齢がもっと離れている例なんていくらでもあるのだから。例えば、シンジュ様。


「まあ、シンジュ様などからしたら私は贅沢者、なのでしょうが」

「ああ。あの方はお相手とは年が離れておられるからな。セラフィノ殿、だったか」


 公爵令嬢たるシンジュ様のことは、ジェット様はよくご存知だ。と言うより、第二皇子殿下の側近候補なのだから貴族のことはある程度幅広く知っていなくてはならない、といろいろ情報を取り寄せているみたい。


「ストレリチア騎士団長が、自身の後の団長候補に狙っているようだぞ」

「それならば、シンジュ様も大喜びですわね」


 同じクラスでおっとりと微笑まれる彼女の笑顔を思い起こして私も、思わず相好を崩した。どうせ、目の前にはジェット様しかおられないんだし、いいわよね。

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