その23
多田は、僕らに向けて封筒入りの何かをひらひら振った。鳥羽さんが、舌打ちをしたような気がした。
僕は多田の肩を掴んで屋台の隅に引っ張っていった。
「多田、ちょっと来い」
「鳥羽が凄い形相してるぞ」
「だから呼んだんだ」
「俺もお前に言いたいことがある」
「なんだよ」
「鳥羽の告白を受けるよ」
「最高だ」
迷いなく答えた自分が不思議だった。
「いいのか?」
「どうしたんだ急に」
「うまくやれる気がしたんだ」
僕らは連れ立って鳥羽さんのもとに向かった。
「鳥羽、今からでも、お前の申し出は受けられるか?」
「もちろん。それより、もうすぐ始まるよ」
多田は快活に笑った。
「メインイベントはすぐだな」
駅前の商店街を抜けると、正面に神社の門が見える。門の目の前は広場になっており、そこに特設のステージができている。通りを抜けた人々が集まって、ひとつの巨大な生き物みたいだ。
僕らは人混みを押しのけて最前列を確保しようとした。が、できなかった。人並みに押し込まれ、僕らは満員電車の中にいるみたいにその場に立ち尽くした。
「凄い人」
鳥羽さんは必死につま先立ちをしてステージを見る。多田は背筋を伸ばして胸を張る。僕は人に押し流されて、二人の後ろに追いやられてしまった。
ステージではゲストのお笑い芸人が漫才を披露し終わり、笑いと拍手に包まれてステージ隅に掃けていくところだった。
司会者がプログラムを進行する。ステージ袖から、七夕衣装に包まれた女の子が歩いてくる。ミス七夕たちの登場だ。
水色の帽子とドレス。古めかしい感じがするけれど、歴史のあるお祭りならそれでもいいのかもしれない。
そのうちの一人が、一歩前に出てマイクの前に立った。簡単に自己紹介を済ませ一礼する。入選者五名が並んだ、その右端に田中の姿はあった。
澄ました顔をして台上に立つ田中は、誰よりも人目を引いた。清楚で穏やかな印象を与える服装のマッチする感じがの悪い冗談みたいだ。
マイクが田中に回ってくる。田中はあたりさわりのない言葉でお祭りを応援していると述べた。どういう都合が、司会者が聞いた。
「田中さんは七夕に何をお願いしますか」
「私事ですが」
と、田中は述べた。
「好きな人に振られまして。その人のやることが、これから全部失敗すればいいなと思います」
司会者は苦笑を浮かべてマイクを次に回した。
「あの子可愛いな」
僕の隣で、小太りの男がそう言った。




