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恋のエンジン  作者: 水野
22/25

その22

 沈黙が落ちた。

「あれは、予防接種なんだ」

「なんて?」

「えっと、だからこう、抵抗をなくすためというか」

 鳥羽さんは真顔でベビーカステラをもぐもぐして、飲み込んだ。

「三木くんずっとわかってたんだね? 私がうまくいかないこと」

「知らなかった」

「影で人のこと笑うの楽しい?」

 鳥羽さんは道端に設置されていたゴミ袋に紙くずを投げ捨てた。

「楽しくない、そんなつもりじゃない」

「禁断の恋は好きだけどそういうのはいただけないな」

「いや、僕は違うぞ」

「違う、とか、知らない、とかばっかりだね。それにどういうこと? 多田くんがおかしいってこと?」」

 どうして鳥羽さんが今日の誘いに来てくれたかわかった。きっと僕をぼこぼこにして復讐するためだ。

「釈明はできないが、僕は断じて鳥羽さんを笑ってない」

 多田の秘密を、僕から鳥羽さんに話すわけにはいかない。僕は余計なことをした。

「多田くんの気になってる人って三木くんなの?」

「僕には言えない」

「そっか」

 からんからん、と、くじ引き当たりの鐘が鳴る。注目を集めた先にいたのは、ひょろ長い眼鏡の男。多田は、景品を手に僕らを振り返った。

「ペアチケット当たったぞ!」

 多田は、僕らに向けて封筒入りの何かをひらひら振った。鳥羽さんが、舌打ちをしたような気がした。

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