その22
沈黙が落ちた。
「あれは、予防接種なんだ」
「なんて?」
「えっと、だからこう、抵抗をなくすためというか」
鳥羽さんは真顔でベビーカステラをもぐもぐして、飲み込んだ。
「三木くんずっとわかってたんだね? 私がうまくいかないこと」
「知らなかった」
「影で人のこと笑うの楽しい?」
鳥羽さんは道端に設置されていたゴミ袋に紙くずを投げ捨てた。
「楽しくない、そんなつもりじゃない」
「禁断の恋は好きだけどそういうのはいただけないな」
「いや、僕は違うぞ」
「違う、とか、知らない、とかばっかりだね。それにどういうこと? 多田くんがおかしいってこと?」」
どうして鳥羽さんが今日の誘いに来てくれたかわかった。きっと僕をぼこぼこにして復讐するためだ。
「釈明はできないが、僕は断じて鳥羽さんを笑ってない」
多田の秘密を、僕から鳥羽さんに話すわけにはいかない。僕は余計なことをした。
「多田くんの気になってる人って三木くんなの?」
「僕には言えない」
「そっか」
からんからん、と、くじ引き当たりの鐘が鳴る。注目を集めた先にいたのは、ひょろ長い眼鏡の男。多田は、景品を手に僕らを振り返った。
「ペアチケット当たったぞ!」
多田は、僕らに向けて封筒入りの何かをひらひら振った。鳥羽さんが、舌打ちをしたような気がした。




