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恋のエンジン  作者: 水野
21/25

その21

 夜の街には無数の吹き流しが揺れていた。夏の熱い風が吹き抜けると、万華鏡のような色の群れが目の前に溢れる。

「遅い」

 振り返ると「STAR FESTIVAL」の大きな垂れ幕が駅の壁にかかっているのが見えた。鳥羽さんの姿は駅舎からの逆行で影になって見えた。

「見つからなかったんだ」

 駅からは雪崩のように人が出てきて、気を抜くとお互いの姿を見失ってしまいそうだ。それこそ乙姫と彦星のごとく。

「七夕なんてとっくに過ぎてるのに」

「それは言わない約束だろ」

 彼女にはロマンの欠片もない。

「多田くんも来てるんだってね」

 砲弾をお腹に受けたみたいな衝撃。鳥羽さんんは素知らぬ顔で、カラステの甘い匂いがするなあ、なんて呟く。

「射撃でもやってるんじゃないか」

「そんな子供じゃあるまいし……まあ、確かにそうかも」

 駅前から商店街まで、吹き流しや提灯、屋台の明かりがずらりと並ぶ。普段は目にしないような人だかりだ。

「三木くんから誘われるなんて思ってなかった。あ、後、田中さんが舞台に出るって」

「和太鼓の演奏でもやるのか」

「ミス七夕の女王に」

「今日発表なんだろ」

「当選者には事前に通知されてるんだって」

 打ち合わせとかがあるからか。

「口ゆるっゆるだなあいつ」

「それまで屋台とか見てこうよ」

「今日のメインイベントは田中なのか」

「じゃあ何のつもりだったの」

 言葉に詰まる。僕が答えずにいるうちに、鳥羽さんはベビーカステラを購入して戻ってきた。機嫌を悪くしていないようでよかった。

 と、ふいに鳥羽さんは言った。

「この前のことを説明して」

 

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