その21
夜の街には無数の吹き流しが揺れていた。夏の熱い風が吹き抜けると、万華鏡のような色の群れが目の前に溢れる。
「遅い」
振り返ると「STAR FESTIVAL」の大きな垂れ幕が駅の壁にかかっているのが見えた。鳥羽さんの姿は駅舎からの逆行で影になって見えた。
「見つからなかったんだ」
駅からは雪崩のように人が出てきて、気を抜くとお互いの姿を見失ってしまいそうだ。それこそ乙姫と彦星のごとく。
「七夕なんてとっくに過ぎてるのに」
「それは言わない約束だろ」
彼女にはロマンの欠片もない。
「多田くんも来てるんだってね」
砲弾をお腹に受けたみたいな衝撃。鳥羽さんんは素知らぬ顔で、カラステの甘い匂いがするなあ、なんて呟く。
「射撃でもやってるんじゃないか」
「そんな子供じゃあるまいし……まあ、確かにそうかも」
駅前から商店街まで、吹き流しや提灯、屋台の明かりがずらりと並ぶ。普段は目にしないような人だかりだ。
「三木くんから誘われるなんて思ってなかった。あ、後、田中さんが舞台に出るって」
「和太鼓の演奏でもやるのか」
「ミス七夕の女王に」
「今日発表なんだろ」
「当選者には事前に通知されてるんだって」
打ち合わせとかがあるからか。
「口ゆるっゆるだなあいつ」
「それまで屋台とか見てこうよ」
「今日のメインイベントは田中なのか」
「じゃあ何のつもりだったの」
言葉に詰まる。僕が答えずにいるうちに、鳥羽さんはベビーカステラを購入して戻ってきた。機嫌を悪くしていないようでよかった。
と、ふいに鳥羽さんは言った。
「この前のことを説明して」




