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恋のエンジン  作者: 水野
17/25

その17

「俺はおかしいんだ」

 信号が青に変わる。慌てて横断歩道を駆けるスーツ姿の男が、立ち止まったままの僕らに視線を向けていった。

「女子に興味が持てない」

「ちょっとくらいおかしいことじゃないさ」

「男なんだ。俺が、そうなるのは」

 冗談には聞こえなかった。

 部室で焦る多田の表情と、メンタルクリニックの看板が頭の端をちらついた。

 多田は鳥羽さんを断った。それから気になっている相手がいるといった。

「だからってあんな、電車に……」

「あんなことだって? 俺はあの時、本気で死のうと思ってたんだぜ」

 声が震えている。多田の顔の皮膚は奇妙にねじれて、怒りとも悲しみともつかない表情を形作っていた。

「お前にわかるか。自分が人と同じになれないって、異常なんだって思いながら過ごすのがどれだけしんどいか。鳥羽に殺されるんじゃないかと俺は思ってたよ」

 笑みを作ろうとした口元が奇妙に歪んだ。

 青信号が明滅して再び赤色になった。鳥羽さんの目論見が叶わないことを確認したのに、僕は全く嬉しい気分になれなかった。

「鳥羽さんは多田に助けられたって言ってる」

「勘違いだ。俺はずっと鳥羽を邪魔しようとしてた」

「嘘だ。図書館に行った日、真っ先に立ち上がって鳥羽さんを追いかけただろ」

「お前らが二人にならないためだよ」

 多田は何を言ってるんだろう。

「俺は三木から鳥羽を遠ざけようとしてた」

「なんでそんなこと」

 僕ははっと気がついた。けれど自分の思い付きが信じられなかった。鳥羽さんの言葉を思い出す。気になる人がいる。それが誰かは言えない。

「三木、お前との関係がこれで終わりかもしれないけどいいか」

「終わりになんてならないだろ」

 多田は自虐っぽく笑った。

「俺が好きなのはお前だ。だから鳥羽には応えられない」

「多田、僕は女の子が好きみたいなんだ」

「だろうな」

 目の前の友人が、全然知らない他人に見えた。冗談でごまかす気になんてならない。

「僕は受けられない」

「お前はいいやつだよ。悪かった。こんな話をして。ずっと黙ってるのってさ、意外としんどかったんだ」

「どうするんだ、これから」

「芸能界入りでもするかな」

 いかにも冗談を誘う口調に、奥はつい口の端を緩めた。

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