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恋のエンジン  作者: 水野
16/25

その16

 僕は多田を落ち着かせようと、近くのコンビニまで引っ張っていった。外のベンチに座らせ、チョコレートを無理やり口に押し込んだ。甘いものを食べると人は落ち着く、と誰かが言っていた。本当かは知らない。

 多田は咀嚼して、飲み込む。よし。人としての機能はちゃんとしている。一つ息を吐くと。僕の手からペットボトルの水を取って飲んだ。なおよし、だ。

「急いでたわけじゃないよな」

「死に急いでた」

 多田はこともなげに言った。僕らの間にペットボトルを置いた。

「お前らなんか企んでただろ」

「否定できない。鳥羽さんのこと」

 電車に飛び込んだことには、触れていけないと思った。

「本人から聞いたよ」

「応えてやればいいじゃないか」

 多田は立ち上がった。ゴミ箱にペットボトルを放り捨て、すん、と鼻をすすった。顔をごしごしこすった。

「答えたよ」

「そういう意味じゃ」

 多田が歩き始めたのを追う。住宅地を歩く。空き地に小さな公園があった。滑り台とブランコがある小さな公園だ。ぐるぐる回る器具は安全上の理由で撤去されていた。

 多田は何も言わない。

 少し広い通りに出る。夕方の町をバスや車が行き交う。僕らは黙って歩いた。沈黙は気づまりじゃない。

「そういう意味じゃ」

「同意しようが断ろうが俺の自由だろ」

 全くその通りだ。

「そんな言い方はないんじゃないか」

「女子みたいなことを言うなよ」

 多田はため息を吐いた。

「お前らはどこまで通じてるんだ」

「だいたい全部」

 僕は白状した。

「お前らなあ」

「前向きに応えてみたっていいんじゃないか。その、今、誰とも交際関係にないなら」

「できない」

 しない、じゃない。できないといった。

 目の前の信号が赤になった。多田は足元の点字ブロックをじっと見つめる。

 僕は、他人の内面に立ち入りすぎたのかもしれない。

「悪かった」

「ちょうどいい。人の心に土足で踏み込もうとしたんだ。最後まで聞いてけよ」

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