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恋のエンジン  作者: 水野
15/25

その15

 自宅の近所に開かずの踏切がある。一度下がり始めたら十分は開かない。市営と民営の鉄道会社が並走しているからだ。それも単線でなく、上りと下りで二本ずつ。朝に捕まったりなんかしたら最悪だ。その日の遅刻が確定する。

 今日は帰りに捕まった。赤い車体が目の前を通り過ぎると、右向きに点灯していた矢印が反対向きに変わる。踏切は開かない。遠くから電車の音が迫ってくる。

 誰かが後ろから近づいてくるのに気がついた。振り向いて、どきりとした。多田は蒼白な顔をしていた。まるで幽霊みたいなおぼつかない足取りだった。

「多田?

 多田が僕のほうを見た。顔はくしゃりとゆがんで泣きそうだ。

 肩から掛けた鞄が地面に落ちる。多田は地面を蹴って駆け出した。

 咄嗟に手を伸ばして腕をつかむ。けれど振り切られた。

 多田を追いかけて、僕も踏切を飛び越えた。

「馬鹿野郎。何考えてんだ!」

 僕の声はひび割れていた。耳の奥がきいんとする。

 多田は一気に駆けた。電車が迫る。僕は思い切り手を伸ばした。多田の手首を、今度こそ掴んだ。

 多田の腕が奇妙にねじれた。バランスを崩して倒れる。と、轟音を立てて目の前を電車が通過した。強烈な風圧が僕らを襲う。

 警笛と、地面から伝わる振動が止む。車体が視界の向こうに遠ざかっていく。遮断機が上がる。焦点を失った多田の目が僕を見上げていた。

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